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偽ニュースを見破るメディアリテラシー教育とプロライターの活路

世界では、巧妙な偽ニュース(フェイクニュース)の生態系が広がりを見せている。フェイクニュースの制作者は、東欧やアジア新興国の若者などが、高収入を稼げる副業として取り組んでいる。

その方法は、他のサイトに掲載された様々な記事をコピーして、キャッチーなタイトルを付けるというもの。サイトへの誘導には、FacebookやTwitterを使いながら偽ニュースを拡散していく。彼らは、フェイクニュースサイトを立ち上げて、そこに大量のアクセスを集めて広告収入を稼ぐことを目的としている。仮に、そこで月20万円の収入が稼げると、新興国の若者にとっては大金である。世界共通の広告単価で収入が稼げるフェイクニュースサイトの運営は、かなり割の良い仕事として、同じ地域に暮らす他の仲間も巻き込む形で広がっているのだ。

日本では、フェイクとまではいかなくても、情報としての信憑性が怪しい記事や動画は増えている。コンテンツの制作者にすると、発信する情報の中身は薄くても、できるだけセンセーショナルな表題にしたほうが、SNSで拡散されやすく、広告収入が稼ぎやすい。こうした、クオリティの低いコンテンツの量産は、ネット全体の信用を低下させることになる。

【正しい記事を選別するメディアリテラシー教育】

そこで、一般のネットユーザーがフェイクニュースに騙されない選定眼を持ち、必要な情報を引き出せる能力は「メディアリテラシー」と呼ばれて、そのスキルを教える仕事が新たに生まれている。

「The News Literacy Project (NLP)」は、中学生や高校生に対して「ネット上のコンテンツはすべてが信用できるものではない」という前提に立ち、その中から正しい情報を選別して、YouTubeの動画、ニュースやブログ記事などを読み解くための教育を、小中学校への講師派遣やeラーニング方式で提供している。この活動は非営利で、大手の新聞社やニュースサイトなどをスポンサーとした寄付金により運営されている。 スポンサー側では、子ども達に信頼できる記事の見分け方を教えて、将来的に対価を払ってくれる読者に育成していく意図もある。

企業の広報担当者向けにも、個人ブロガーとは一線を画して、メディアリテラシーに沿った記事の書き方を指導する、セミナーやコンサルティングの仕事は有料で成り立ちやすい。これは、新聞社や出版社などで、プロのライター、記者、編集者としてのキャリアを積んだ人の起業テーマとして適している。

【アマチュア・プロライターの棲み分けと専門性の磨き方】

 プロのライターは、紙の出版業が衰退したことで、次第に仕事を失いつつあるが、フェイクニュースやパクリ記事の問題を転機として、企業が公開するコンテンツの執筆は、模倣や盗作のリスクを避けるため、プロのライターに発注する動きへと回帰してきている。プロライターに明確な定義や資格があるわけではないが、メディアリテラシーの観点からみた“信頼性が高い記事”には、以下のような特徴がある。

《信頼できるプロライターの特徴》
○実名で執筆者の署名がある(匿名、ハンドル名は使わない)
○取材やリサーチに基づいた事実と、自分の意見を書き分けている
○記事の正確さを検証する編集者のチェックを受けている
○広告主の強い影響を受けない媒体で執筆活動をしている

これらの項目に加えて、特定分野の専門知識を持つライターが求められている。 特に需要が高いのは、医学の専門知識を持つメディカル・ライティングの分野である。医療に関する執筆では、法律による規制、病気、薬、栄養学などの知識が必要になり、専門の教育を受けたライターが求められている。しかし日本では、その育成環境が整っていない。

1940年に設立された「米国メディカルライター協会(AMWA)」は、医療ライターの育成において権威のある団体で、フリーランスのライターを中心に、米国、カナダ、その他の30ヶ国で4,000人以上が所属している。入会の条件は、学士以上の学位と、医療執筆で2年以上の経験がある者が、AMWAが行う認定試験に合格する必要がある。受験勉強のためのワークショップやeラーニング講座がカリキュラム別に有料コースとして用意されている。

メディカルライターは、AMWAの認定を取得することで、医療業界での信用力が高まり、製薬会社、バイオ研究企業、保険会社などからの受注や就職もしやすくなる。AMWAの統計によると、会員ライターの平均年収は90,200ドル(約1,000万円)で、在宅ワークが可能な仕事としては、かなりランクが高い。裏を返せば、プロのメディカルライターになるまでの難易度も高いということである。

米国メディカルライター協会(AMWA)

テクノロジーの進化により、人工知能でもコンテンツを量産できる時代になってきたが、需給のバランスに従えば、容易に量産できるコンテンツの価値は下落することになり、プロの仕事との棲み分けが進んでいくようになる。ネット上では、無料で読めるコンテンツだけを楽しむユーザーが大多数を占める中でも、対価を払っても信頼できる情報を入手しようと考えるユーザー層も、一定数は常に存在している。

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