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バイオテクノロジーのイノベーションで水洗トイレをなくし水資源の有効活用を


今回の新型コロナウイルス(COVID-19)問題ではっきりしたことは、我々人間の活動がいかに地球環境に負荷を与えているかということだ。中国の武漢で最初の流行が発生したが、それで中国の経済活動が止まった結果、大気汚染の程度が非常に改善されて、COVID-19で亡くなった人の数よりも大気汚染でなくなることを免れた人の数の方が多いのではないかという話があるくらいだ。またイタリアのヴェニスでは普段見えない水底が見えるようになったり、あるいはインドでは普段は見えない山の姿が見えるようになった、というような話は、枚挙にいとまがない。
こうしたことは昨年時の人になった、グレタ・トゥンベリさんが警鐘を鳴らしていた地球環境に負荷をかけすぎるている現状に対する警告を、私たちがリアリティをもって理解する機会をもたらした。

こうした、温暖化にとどまらない環境負荷の中で、目の前にある当たり前の一つだが、よく考えてみるとそれでよいのだろうかと私が思うのは水洗トイレの問題だ。

水洗トイレは、特に日本では上水道がそのまま使われるケースも多く、人間が飲める水を排泄物を流すために使っている。日本は水が豊かな国であるからそれにさして問題を感じないかもしれないが、世界を見渡せば安全な水を確保するのに苦労してる人たちは大勢いる。日本でも半世紀ほど前までは、まだ水洗トイレが必ずしも普及をしておらず、バキュームカーで汲み取りをしていた風景が子供の頃の記憶にある。水資源は非常に貴重なもので、国連が定めたSDGsでも「全ての人に安全な水とトイレを」ということが大目標のひとつに掲げられているほどだ。

もともと排泄物は日本では下肥と呼ばれ、肥料として使われてきた。その意味では生態系の循環の中に排泄物もきちんと組み込まれていたのだ。江戸時代には裕福な家庭の排泄物は高値で肥料として取引されたという話を聞いたことがあるし、またいくつかの東京の郊外に伸びている私鉄は、元は都心に住む人達の排泄物を、郊外の農地に肥料として運搬することが主な事業だったという歴史もある。

こうした歴史を考えると、テクノロジーの力で安全かつ衛生的に排泄物を肥料として再生し、それを農業に役立てることができたら、これは大きなイノベーションではないだろうか。そうすることによって飲用に適する水の無駄遣いを防ぐことができるだけでなく、化学肥料の利用を減らすことによって より安全な作物を作ることもできるだろうし、また遠方で生産された肥料を農地まで運んでくる無駄を省きエネルギーの有効活用、温暖化の防止にも貢献するだろう。いわば地産地消での生物学的循環が成立していくことになるのだ。

こうしたイノベーションが起きるためには主にバイオテクノロジー系の技術が必要になってくるだろう。排泄物は適切な発酵・分解プロセスを経て、肥料として用いることが出来る状態になる。そのプロセスを早め、また悪臭などを抑え、大量に処理するためのテクノロジーが求められる。

デジタル系のテクノロジーについては、近年のスタートアップエコシステムの確立、オープンイノベーションの機運の高まりなどによって、こうしたテクノロジーでのビジネスを目指す企業が成長する土台は整えられてきている。しかし、バイオテクノロジーに関するスタートアップについては、まだまだ十分な成長機会が用意されていないように思う。それは、ひとつにはスタートアップエコシステムの中でファンドが通常10年という比較的短い運用期間で、バイオテクノロジーのような少し時間のかかるスタートアップについては必ずしもフィットしないことがあるのではないか。また、デジタル系のテクノロジーに関しては場合によってはパソコン1台で起業するといったこともできなくはないが、バイオテクノロジー系の場合、ガレージ企業のような形では限られた時間の中でなかなか十分な成果を生むことが難しいだろう。デジタル系に比べれば大きな装置が必要になるだろうし、生物や自然界相手であれば時間もかかる。設備投資の大規模化などを図ってイノベーションのスピードを早めて行かないと、技術が実用化されるために非常に長い年月がかかってしまう。


こうした状況考えると、大企業が自ら起こすイノベーション、ないしはスタートアップと組んで起こすオープンイノベーションが、一層重要であると思う。それによって地球の環境破壊を食い止め、水やエネルギーなど貴重な資源を守って有効活用を図り、また地産地消を進めることで現在のCOVID-19との共存・共生を図らなければならない時代にもふさわしい経済循環を生み出すことができるのではないだろうか。

そしてこうしたイノベーションを推進するために 、AI や IoT などといったデジタル系のテクノロジーを手段として有効に活用していく場面が出てくると思う。ガートナーが発表したハイプ・サイクルによれば、 AI や IoT などは幻滅期に入っており、まだしばらくその実用化には時間がかかるものと見られている。

このため、こういったテクノロジーを使ってイノベーションを起こすためには、まだまだ時間が必要になると思われるものの、例えばバイオの分野でのイノベーションを起こすためにこうしたデジタル・テクノロジーを活用することは非常に重要な取り組みになってくるだろうし、それがバイオ・デジタル両テクノロジーの発展に相互に寄与するのであれば、とても望ましいことではないだろうか。

イノベーションというと、デジタルテクノロジーだけに目が行きがちであるが、デジタルテクノロジーそのものが「目的」なのではなく、デジタルテクノロジーを「手段」としてイノベーションを起こしていくことが、今後必要とされるイノベーションのひとつの形になるのではないかと思う。 


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