見出し画像

免許更新の経験から、オペレーション設計・コミュニケーション・DXを考える

 あっ!!

慌てたのは、カバンの奥にしまっていた葉書を見つけたのが原因であった。大してめでたくもない53回目の誕生日を2週間過ぎた時点で、免許更新手続きをしていなかったのである。

もう更新期限まで猶予がない。隙間時間を見つけて地元の警察に行けるようカレンダーに予定を入れた。

前回の更新は何年前だかもよくわからない。当然手続きもはっきりしない。そこでググってみると、運転免許更新に必要な手続き書類は以下の通りと出てきた。改行や段落の概念をブレイクスルーするなかなかに斬新なページだったので、文字の位置関係を変えずにコピペしておく。

  ○ 運転免許証記載事項変更届(用紙は警察署にあります)
  ○ 運転免許証
本籍・氏名・生年月日に変更がある場合
  ○ 本籍又は国籍が記載されている住民票の写し1通を提出していただきます。
住所に変更がある場合
  ○ 新住所を確認できる書類 1通
    (住民票の写し・健康保険証・身分証明書・新住所に届いた郵便物等)

本籍にも氏名にも住所に変更はない。生年月日の変更とは一体どういうことか好奇心が湧くが、これも自分には関係ない。ならば免許証と身ひとつでいけばOK、と理解してPCを閉じた。


手続き当日。

炎天下、警察署まで歩き、あと50mというところで思いついた。手続きには、葉書が必要なのではなかったか?(付記:上記のHPのコピペは、地元警察署のサイトのものであり、その後で調べた県警のそれには、きちんと葉書を持ってくる旨も記してありました)

しかし、家に取りに帰っては次の予定に間に合わない。さりとて期日までに再訪できる時間もない。

HPの必要書類にハガキは含まれていなかったし、仮に必要なものであっても紛失する人のための救済措置もあるだろう。よし、このまま警察に行こう。

とばかりに警察の扉をくぐり、免許受付に並ぶ。

と、のっけから不穏な雰囲気だったのは、列の先頭で婦警さんと60歳前後の男性が激しい言い争いをしているではないか。

男性の主張は

・必須の講義日程がどこにも告知されておらず、かつ、以前のカレンダーパターンから変わっている

・準備してきた写真が使えない、というのが不服である

という2点である。

婦警さんの主張は

・ちゃんと葉書に書いてあります

・上半身がきちんと写っていないので、ダメなものはダメ

という感じだったのだが、男性がだんだん激昂し、特に写真については「あんた俺がデブって言ってるのかよ?!」とものすごい難癖をつけているのは爆笑ものだった。葉書に講習の案内が書いてあるのかはそれを忘れた自分にはわからないが、きっとどこかに小さく書いてあるのだろう。

そのやりとりから、写真が必要であったが撮影していなかったことを思い起こした。確か警察署の横には必ず交通安全協会なる建物があり、そこで撮れるはず、と記憶を手繰り案内を探せば、手書きのポスターに、協会は隣100mにありますとある。更新手続きに必要な申し込み書類もそちらにある由。

一旦警察を後にして、炎天下を100m歩くと、小さな建物の中は長蛇の列になっていた。カウンターの中では2人の職員が手慣れた感じで忙しく動いているが、一向に列は減らない。

15分後、筆者の順がきた。

「書類ください。あと写真もお願いします。」

「ハガキはありますか?」

・・・・

「ハガキがない場合は、警察署で更新の区分を調べ、証明のカードをもらって着てください」

HPにはハガキが必要なんて書いてなかったですが、という、激昂男性とほぼ相似のセリフをグッと飲み込み、警察署へと踵を返す。

言い争いの影響でグッと長くなった列の最後尾につき、再び待つこと15分。区分調査の受付をしてさらに待つこと10分。やっと輝かしい「違反者」カードを手にした。

「区分」て、優良・違反者区分のことだったのか。そんなことなら痛恨のスピード違反と一時不停止により、自分が最も劣位にあることは分かっていた。虚偽の申告で劣位を申し出るバカもいないだろうし、それなら聞いてくれればよかったのに。

などと恨み言を言いながら、再度交通安全協会の扉をくぐり、待つこと10分。今度は手続きができそうだ。

受付の女性が説明する。

「XXXXに加入してますか?」

「わかりません。それなんですか?」

「あ、どのみち有効期間は免許更新までなので、わからなくても大丈夫です。今回ご加入されるなら(確か)1500円で、書類の記入一式こちらでやりますけれども、どうなさいますか?」

何がなんだかわからなかったが、暑さと疲れで思考停止していた筆者は、ほぼ自動的に「お願いします」と答えた。撮影代も含み、6000円強を支払う。

すると女性は「4桁の暗証番号入れてください」と筆者に指示した。

なんの暗証番号だかわからなかったが、時間が迫ってきていたので、素直に適当な番号を入力する。

「もう一度入れてください」(同じ番号を押す)

「もう一つ入れてください」

「え、別の番号を入れるってことですか?」

「同じのでもいいです?」(いよいよ意味がわからなかったが、同じ番号を押す)

「もう一つ入れてください」(同様)

「それでは席に座ってお待ちください」

手持ち無沙汰なので、カウンターの中を観察していると、彼らはどうやら

(A)受付・説明業務

(B)暗証番号入力指示業務

(C)書類作成業務

(D)電話対応業務

(E)写真撮影業務

の5つを阿吽の呼吸でこなしているらしい。

20分後、写真と書類一式を手に警察署の扉を再度くぐり、胸を張って提出する。と、最後のデザート的な視力検査にさらに10分を要し、ようやく筆者の免許更新手続きは完了した。

さて。この実話は、オペレーション、コミュニケーション、DXに関連する示唆がいくつか含むように思われる。

(1)コミュニケーションを行う上では、メンタルモデルの共有が決定的に重要である

ここで言うメンタルモデルとは、ざっくりとものごとの「意味」「全体と部分の構造」「因果」といったことを指している。

筆者は一連の手続きの中で、免許更新の全体像がわからないまま右左に走らされ、最終的にどのくらいの時間がかかるか、などのイメージを持つことはままならなかった。これは地元警察署のH Pにあった情報から想起されるプロセス、そこから形成されるメンタルモデルと、実際のそれに大きな乖離があったからであり、これにより筆者は少なからぬイライラや不条理感を感じた。

暗証番号のエピソードなどその極みである。そもそも暗証番号が必要であることもわからないし、必要であったとしてそれを何のためにどんな時に使うかわからないし、2つ必要であることも知らなかった。4桁の番号を4回入力したのは、意味を解せぬ機械同士のコミュニケーションと同じであった。こうなると、相手の意図を推し測りながらのやりとりはできず、隠してコミュニケーションの効率は最低となっていた。

XXXXに関するやりとりもいただけない。最初の問いかけが「XXXXに入ってますか」ではなく「入りますか」であれば、まだ多少文脈がスムーズであった気もするが、どちらにしろこちらにはXXXXのメンタルモデルはない。実態のわからない制度に1500円を払ってしまった気持ち悪さは拭えない。

(2)コミュニケーションにおいては、一貫性とタッチポイントが重要である

極めて当たり前のことではあるが、県警H Pと地元警察HPの内容が違う、と言うのはいただけない。どちらのタッチポイントでも同様に、正しいメンタルモデルが形成できるコンテンツを掲出していただきたい。

また、HP以外でも、警察署の免許受付の待列や、交通安全協会の入り口など、適切なタッチポイントでプロセス全体図と、それを構成する部分に関する情報が掲示されていれば、説明に要する時間やそれを聞くストレスも軽減されるはずである。

男性が激昂していた講習の案内も、きっと婦警さんの言う通り、ハガキのどこかには書いてあるのだろう。しかしそれは、想像するに、一応書いておけくらいの小さいフォントで、見過ごしてしまうような場所に記してあったのではないだろうか。そこからは伝えたい相手に必要な事項を伝えたい、と言う愛のある態度ではなく、後から文句言われないようにとりあえずなんでも書いておけばいい、と言う、ため息の出そうな思想を感じる。

(3)効率的なオペレーション設計の要諦は、定型化と分散である

交通安全協会では2人の職員が五種類の業務をこなしていたが、これらの業務は申請者の意図によっては減少する。XXXXに加入せず、自分で書式を記入する申請者もいるし、写真を自分で準備してくる人もいるからだ。

そうすると、記入・写真のありなしによって四種類のバリエーションが発生し、一人ひとりの申請者への対応プロセスが変わる。すると職員の間での作業割り当てが複雑になったり、それによりアイドルタイムができたりして効率が落ちる。

これを回避するためには、全ての申請者に対して同じオペレーションをする方が良い。定型化である。ここで言えば、写真対応も、XXXX加入による記入代行も選択制にしない、と言うのが、手続きする人の自由度は下がるものの効率が高いと言うことだ。

さらに、一人ひとりに要する時間を短くするためには、業務を分散した方が良い。書類の記入も写真撮影も申請者がやる、と言うことにすれば、待ち時間も減るし、コストも下がる。

(4)少しデジタル入れるだけで、プロセスはずいぶんシンプルになる

こんなことをDXなどと大仰に言うのは気恥ずかしいが、警察署と交通安全協会という、傍目にはほとんど違いがわからない2つの建物の間で、違反者区分のデータも共有されていないのはいかにも不思議である。個人情報保護とかで個人データは警察の外には出さない、ということなのかもしれないが、さりとて協会で申請書類の記入代行などはやっているわけで、どこかチグハグである。

また上記、オペレーションの分散で記した、書式記入や写真撮影を申請者が行うという運営を行うと、激昂おじさんのように基準に合わない写真や、不備だらけの書類に現場がてんやわんやになる恐れがあるが、写真も書式もWeb経由で事前チェックできるようにしておけば、不毛な喧嘩も減り、お巡りさんの精神衛生上も良い。

そもそも更新の通知がハガキではなくて、メールだなんだでスマホに知らせてくれれば、このような記事を記すこともなかったし、上記メンタルモデルを可視化したようなアプリがあり、今プロセス全体のどこにいるのかということが随時分かれば、こちらの精神衛生にも良い。

8000万人以上が保有する運転免許は3年または5年に一度更新されるわけで、ざっと見積もって年間2000万人に関わる更新手続き。

全員が1時間強の時間や写真+XXXXで数千円を投じているとなれば、うまい業務設計をすれば国家的な無駄を大幅軽減できそうである。

デジタル庁の奮闘に期待、すればいいのかな。。






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?