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「常識の範囲」でジブリが儲かる仕組み、場面写真400枚無料提供

■全作品提供されれば数千枚

スタジオジブリが『千と千尋の神隠し』など自社が制作したアニメ映画の場面写真を無償で提供して話題を呼んでいます。
公式サイトには『千と千尋の神隠し』のほか『思い出のマーニー』から『かぐや姫の物語』『風立ちぬ』『コクリコ坂から』『借りぐらしのアリエッティ』『崖の上のポニョ』『ゲド戦記』まで全部で8作品。各50シーン、誰もが知る名シーンからちょっとマニアックな場面までがアップされています。

サイトでは「常識の範囲でご自由にお使いください」とあるだけで、誰でも無料で利用できるようです。どれも大きな鮮明な画像です。TwitterなどのSNSでは、画像を使った作品紹介はもちろん大喜利まで始まり大盛り上がりになりました。
今後も作品は追加し、最終的には全作品で実施する予定です。全作品で揃えば、その数は数千枚になるでしょう。

これまでもファンサイトやSNSなどでは、ジブリ作品の画像の流用は様々な場面でみられました。しかし厳密には、これらは著作権侵害の違法行為にあたるはずです。後ろめたさを回避できる点でもファンには朗報でしょう。

■アニメの場面写真には厳しい著作権管理があるが…

一般に馴染みがありませんが、アニメ業界はことさら権利保護に厳しいことで知られています。法人格のメディアでも作品の場面写真利用では、厳しいハードルが設けられています。
雑誌やウェブ、放送で正式許諾を取った利用は、使用出来る写真枚数の制限や、1枚あたり〇〇円といった使用料がかかることもあります。

これはアニメビジネスの主要な収入源に権利ビジネスがあるためです。放送や番組販売といった映像そのもののビジネスに加えて、アニメでは商品化やイベント、タイアップなど二次展開と呼ばれるビジネスの売上高が重要なのです。
何十年も続くお馴染みの作品は、こうした傾向が特に強くなります。ライセンスビジネスを守るために、権利確保に敏感です。

『天空の城ラピュタ』から数えれば30年数年の歴史を持つスタジオジブリ作品も、本来はこれに近い立場のはずです。であれば場面写真の無償での提供は、スタジオジブリが利益を失っているように見えます。
しかし多くのかたが気づくように、そもそもいま起きている画像の利用は無償提供がなければ起きませんでした。それでは今回の盛り上がりは、スタジオジブリに何をもたらしているのでしょう。

■ジブリ作品の弱点とは? 

先に歴史の長いブランドほど、権利に厳格としました。しかしそうした作品のビジネスは、同時に多くの人に知られ、高い認知度を持ち続けることが鍵になります。一番のリスクは作品が忘れられることです。そのためテレビ放送を続け、劇場映画を製作します。

ところがスタジオジブリは、映画こそたびたび放送されますが、テレビシリーズは存在しません。またジブリ作品は、いま日本国内でインターネットで視聴出来ない数少ない映像作品です。多くの人に覚え続けてもらう点で、実は大きな弱点を抱えています。
おそらくそれはスタジオジブリのなかでも、すでに意識されているはずです。今夏に話題を呼んだ劇場でのリバイバル公開や、愛知県のスタジオジブリパーク建設、来年春からのロサンゼルスのアカデミー博物館の宮崎駿展は、ビジネスであると同時に人々にジブリ作品を常に身近に感じて貰う狙いがあるようにみえます。

■コミュニケーションの中心はウェブやSNSの時代

さらに時代は大きく変わりつつあります。コミュニケーションの中心はいまやウェブやSNSに移っています。その中でどう存在感を発揮すべきか考えた時に、場面写真の無料提供とつながります。

実際に無料配布は、膨大な作品への言及を生み出しました。それだけでなく多くの人が、作品に触れて思い出します。

例えば僕が自身で運営しているサイトです。場面写真を使いながらニュースで紹介し、Twitterに投稿したところ約9000近いリツイーートと、1万9000の「いいね」がつきました。アクセス解析によるとユーザーのリーチは200万回を超えています。

これは氷山の一角で、Twitterのトレンドを検索すると、場面写真を使ったニュースやツイートで何万「いいね」の投稿はかなりあります。ファン投稿も少なくありません。

『借りぐらしのアリエッティ』の米林宏昌監督も、自身が『千と千尋の神隠し』で担当したシーンを画像と伴に投稿しました。(通常は監督でも自由に場面写真を使えるわけでありません)。
こちらは7万リツーイトと36万「いいね」です。僕のTwitter投稿と同じ比率を当てると、これだけで場面写真のリーチは数千万人です。

これだけの露出をもし広告でやろうとすれば、とんでもないお金がかかります。スタジオジブリは「常識の範囲でご自由にお使いください」と場面写真を提供することでこれを実現したのです。

■巧みなスタジオジブリの低コスト

一方で今回のスタジオジブリのコストは最小限です。公式サイトに400枚の写真をアップしただけ。説明は最小限で、画像ダウンロードの仕組みすらありません。

実はファン向けにアニメの版権を一部開放する試みは、これまでもなかったわけではありません。
ワンダーフェスティバルと呼ばれるガレキ・ホビーイベントでは、イベント開催当日に限りキャラクターを使ったフィギュアなどの販売を認めます。ファンにとってはありがたい存在ですが、申請や許可を得る手続きは決して楽ではありません。提供するほうも申込みの受付けや、審査などの人手も含めてかなりの労力が必要です。

しかしスタジオジブリは、「常識の範囲内とする」とすることで手続きや承認といったプロセスを一切省きました。スタジオジブリには、追加コストはほとんど発生しないのです。

ジブリ作品といえども、実は作品はスタジオジブリだけのものではありません。多くの作品は製作委員会による共同保有です。
実際のところ、製作委員会で今回のケースがどのように手続きされているかは不明です。
それでも場面写真の提供が作品を楽しむファンに大歓迎され、作品にとっても大きな成功になったのは間違いありません。そして今回の試みは、確実に作品のブランドと認知を高め、その寿命をより長くしたはずです。

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