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院内感染爆発を防ぐ有効策としてのオンライン診療解禁

新型コロナウイルスの感染拡大で医療崩壊を起こさないためには、これから各地域にあるクリニック(開業医)の役割が重要になってくる。現状では、新型コロナの初期症状を感じた患者は、クリニックを訪れても受け付けてもらえず、保健所に相談するようにと、たらい回しにされるケースは多かった。これは、中小クリニックでは院内感染への対策が十分にできないための措置であり、仕方がないところもあるが、厚生労働省はようやく「オンライン診療」の本格導入を検討しはじめた。

加藤勝信厚生労働相は31日の経済財政諮問会議で、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、オンライン診療を初診から認める検討に入ると表明した。現状では初診は対面診療が原則だ。感染の拡大に備え、オンライン診療を初診から認めることで患者や医療従事者の院内感染を減らす狙いがある。新型コロナを疑った人が病院に殺到することを防ぎ、医療体制を維持する。(日経新聞 2020/3/31)

日本国内には、一般病院と開業医のクリニックを併せて約11万件の医療機関があるが、その中で遠隔医療に対応しているのは約1%と少ない。しかし、新型コロナの流行を転機として、医師の感染リスクを無くして安全に初期症状の診断ができる仕組みとして、オンライン診療の対応施設を増やしていくことは急務の課題である。

その先行事例として、カナダのオンタリオ州では、「Ontario Telemedicine Network(OTN)」という遠隔医療ネットワークを構築しており、地域の住民はビデオ会議システムで事前に症状の相談をした後、適切な病院の診療予約ができる仕組みを構築している。オンライン相談は、自宅のPCやスマートフォンから行うか、最寄りの公共施設に設置された遠隔診療室で行う方法がある。遠隔診療室では、遠隔医療のコーディネータ(多くは看護師)がサポートをしながら、専用の機材で患部の詳しい状態を、オンライン上の医師に診断してもらえる。

オンタリオ州の人口は1200万人で東京都と同規模だが、面積は日本全体の約3倍と広大なため、すべての地域に高度な医療機関を整備することが難しく、遠隔医療への取り組みが進んでいる。新型肺炎についても、カナダでは感染者がまだ少ない段階だが、気になる症状が出た場合には、まずオンライン相談の申し込みをすることが指示されている。

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新型コロナについても、気になる症状が出た場合には、まずオンライン相談の申し込みをすることが指示されている。オンライン相談の中では、遠隔にいる医師が、発熱や筋肉痛などの有無を患者からヒアリングをしながら、ビデオ画面上でも、咳や会話中の息切れ、呼吸の様子を観察する。その中で医師は、自宅療養でも問題がないのか、対面診療が必要なのかの判断をして、後者の場合には、適切な医療機関への診療予約を取り次ぐ形となっている。

新型コロナの初期治療としても、オンライン診療で二次感染を防げる効果は大きく、日本では遠隔診療で使える家庭用ツール(スマートフォンやPC)の普及率は高い。これらのツールを持たない人達に向けては、オンタリオ州のように、地域の役所や公民館でオンライン診療の中継ができる個室を設ければ良いだろう。

COVIT-19に感染して中国武漢市の病院に入院する患者(138人)を調査(2020年2月3日時点)した論文によると、138人のうち57人(41.3%)が病院内で感染しており、その内訳は、他の病気で入院していた患者17人(12.3%)と、医療従事者が40人(29%)となっている。

日本でも感染爆発を起こさないためには、病院内での二次感染を防ぐことが最も重要であり、初期患者のトリアージ(緊急度に従って治療の優先順位を選別すること)にオンライン診療を採用することは有効策になる。オンライン診療についてのテクノロジーとツールは、日本では既に整っており、国が法規制の緩和を一刻も早く実行することが求められている。

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