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円安シナリオのリスクはドルの需給に?~膨らむ米経常赤字~

浮上する「需給でドル安」のリスク

2022年のドル/円相場も引き続き円売り主導で上方向の可能性が高いように思えますが、ドル側にも売り要因が浮上していることは留意したいところです。12月21日、米商務省が発表した7~9月期経常収支は需給面からドル売りが優勢になる可能性を予感させるものでした:

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN21D7T0R21C21A2000000/

7~9月期の米経常赤字額は▲2148億ドルと2006年7~9月期以来、約15年ぶりの水準に達しました。名目GDP対比では▲3.7%で、これは2008年10~12月期以来の高水準となります。赤字を主導したのが為替需給と関連の深い貿易赤字であることを踏まえれば(図)、需給面から見たドル安リスクは無視できないものがあります

貿易赤字の中身を簡単に見ていくと、米国の世界向け輸出は天然ガスや石油製品を中心とした増加によって4416億ドルと過去最高を更新しているが、輸入も石油製品や化学製品を中心に7164億ドルとこちらも過去最高を更新しています。米7~9月期GDPを支えたのが在庫投資だったことを思い返せば(前期比年率+2.0%に対して在庫投資は+2.1%ポイント)、供給制約を背景とする物資不足の中、企業が減った在庫を充填する動きが輸入増加をけん引した実情が透けて見えます。

 「GDP比▲6%前後」が1つの目安か
 経常赤字拡大が続けば、ドル相場への影響も見通しに織り込む必要は出てきます。図示されるように、経常収支(%、対名目GDP)と名目実効ドル相場(以下ドルNEER)は相応に安定した関係があります:


上述したように、現在の経常赤字は2006年以来の水準であり、結果的にはこうした不均衡がその後のサブプライムショック、リーマンショックに連なる米国の行き過ぎた消費・投資意欲の表れでもありました。

しかし、現在はGDP比で見れば当時の半分程度でもあり、長期的に見ても、名目GDP比で▲3~4%の赤字が際立って大きいというわけでもありません。絶対額の水準だけを見ているとバランスを欠くので注意が必要です。とはいえ、経常赤字に遅行する格好でドル相場は動くため、今年に記録した赤字が2022年の重しとして働く可能性は十分あるでしょう。上述した通り、輸入増加は供給制約を背景とする企業の一時的な在庫充填の動きが反映された可能性も高く、7~9月期に見られたような赤字拡大が基調的な動きとして根付くようには思えません。ですが、「世界的に米国経済の成長率が相対的に高め」という2021年の構図が続けば、内外景気格差を背景に貿易赤字主導で経常赤字が拡大し続ける可能性も残ります。米国経済が世界経済のエンジンであることは確かですが、そうなり過ぎることは需給面でのドル安リスクに直結してくるという考え方もあります。まず目安としてサブプライムショック直前に記録した名目GDP比で▲6%前後の赤字が視野に入るどうかという目線でドル安リスクに構えたいところでしょうか。

「ドル安」≠「円高」

こうした需給面の論点に加え、FRBの正常化プロセスに関しては既にイールドカーブのベアフラットニングが示唆するように、順当に利上げできない思惑も濃くなっています。2022年のドル/円相場は、こうした「需給・金利両面からのドル売り圧力」と「『日本回避』をテーマとする円売り圧力」の綱引きというイメージになります

この点、日本の劣後(日本回避)が円売りの理由になっているのだとすれば、2021年4~6月期がそうであったように、相場全体がドル安に傾斜しても必ずしも円高になるとは限らないという地合いも十分考えられ(図)、そこには「ドルは手放したいが、円を買う理由はない」という市場参加者の胸中が反映されていると筆者は考えています:

こうした「とりあえず日本は回避する」という流れを大きく変えるだけの執政を国内政治に期待するのは2022年も困難であるように思います。この点は以下のnoteでも議論した通りです:


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