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そもそもなぜ必要か、から再発明するお店の未来

本格的な人口減の時代を迎え、これまで右肩上がりで推移してきたコンビニ業界も、新規出店が頭打ちになり、さらには人手不足で営業時間の見直しを迫られるなど、大きな変革を迫られている。

Amazon GOや中国などで出現した無人店舗が、こうした事態の打開策になりうるかという文脈で注目されたりしたが、これも効率を追求し、良いものを安く大量に供給することでシェアを取っていく、という右肩上がり的な発想が無意識に働いているように思われ、令和の日本にとって、根本的な問題の解決にはならないのではないだろうか。

そもそも、お店は何のために存在するのだろう。安く買えるとか、24時間開いていて便利といったことは、実は、マズローの5段階の欲求ではないが、生命維持や安全の確保といった機能を満たした上でのことであって、お店の存在価値の根源ではない。これからは、「生命を維持するため」というとやや大げさかもしれないが、特に人口が大きく減ると予想される地方においては、「買い物難民」と呼ばれるような人々を減らし、人々が最低限の生活を維持していくためのお店が存在しなければならなくなる。そのためには、高度成長期以降に当たり前になったお店のあり方とは根本的に異なる発想が求められると、私は考えている。

では、具体的にはどのようなお店のあり方が考えられるのだろうか。ヒントは、高度成長期に入る前から入ってまもない頃、年代でいうと1950-1960年代のお店のあり方にあるのではないかと思う。その頃はまだ、技術をはじめ社会全体が未発達な状況であり、経済的にも戦後の闇市があった当時のような物資不足からようやく抜け出そうとしていた時期。上り坂と下り坂の違いはあるが、当時と現在とで、坂の途中としての状況に、共通点が多く含まれている。

自分は60年代後半を札幌市の郊外で過ごしたが、当時はまだ、トラックの荷台に商品を満載した移動販売車が、週に数日私の住んでいた地区に巡回してきていたことを思い出す。

また、今でも存在しているが、生協のような共同購入もあって、事前に注文したものがお世話係の家にまとめて届き、それを近隣の各家庭が引き取りに行く、といった購入方法も、今よりも一般的に存在していたように記憶している。

こうした古くからの移動販売車の手法に自動運転を組み合わせたコンセプトを、年明けのCESでPanasonicが提案していた(冒頭の写真)。また、共同購入なら、利用者(世帯)が費用を負担して集合型の宅配ボックスを地域の拠点に設置し、そこに各世帯ごとの購入商品を納めておけばよいかもしれない。まとめて届いた商品をボックスに収めるのは、高齢者の世帯が担当し、その手間賃を利用世帯が払うことで高齢者世帯に多少の「お小遣い」が入るような仕組みがあれば地域で互助の関係になる。その仕組みには、地域通貨をブロックチェーン技術を適用しながら導入する、といったことも考えられる。モノが届いた時にスマホに通知が届き、ボックスを開けて商品を出した時にその手間賃も含めて課金されるようになっていれば、キャッシュレスで完結する。

利用者側の発想の転換も必要で、安く便利に、を追求できるのは都会に立地する店に限られるようになり、地方でもモノを一定のレベルで購入できることの利便性をお金で買う、つまり都会の店よりも高いことを許容しなければならないかもしれない。その代わりに、移動販売車で顔を合わせたり、ボックスの手間賃を払うことで高齢者世帯を支えたりして、モノの販売と購入を通じたコミュニティが出来るなら、それが負担したコストのリターンと考えることもできるだろう。

考えてみれば、地方でも都市部でも同じものが同じ値段で売られていることが、コストの観点で見れば不自然なことなのだ。今でも、山小屋やフェリーの中では同じジュース1本にしても一般的な販売価格より高いのだが、同じことが地方でも起きうる、ということである。それを嫌うのであれば、コンパクトシティの発想で指定された一定のエリア内に移住する、といった選択肢が用意されていればよいし、それがコンパクトシティ実現のためのインセンティブになるのかもしれない。

また、かつては当然であった、営業時間が朝9時から夕方6時まで、土日祝日は休業といったことも許容していく必要があるかもしれない。

このように書くと、暗い気分になる人もいるかもしれないが、これまでの発想では維持できず撤退して行く「お店」をいかにして「再発明」して行くか、ということであり、それは知恵を出し合うクリエーティブな面白い仕事になるのだと思う。

温故知新で、古い手法を参照しつつ、それに最新のテクノロジーや知見を組み合わせて、ちょっと懐かしいけれど現代的な仕組みに作り変えて行く。そのようにして、新たなお店の未来が切り開かれていくのだと確信している。

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