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日本が今後生き延びるために学ぶ「エンタメの歴史」

こんにちは、電脳コラムニストの村上です。

映画、音楽、マンガ、アニメやゲーム。いわゆるエンタメと呼ばれるものは私たちの暮らしを豊かにしてくれる文化のひとつです。誰しも一度はこれらを楽しんだ経験があるでしょうし、最近では「推し活」もすっかり市民権を得たと思います。グッズの購入はもちろんのこと、推しが訪れた場所などを訪問する「聖地巡礼」、推しの広告をファンが作る「応援広告」など、活動の幅は年々広がっています。

約1ヶ月前に開業した新宿の新たなスポットである「東急歌舞伎町タワー」。ライブハウスやゲームセンターや映画館など、エンタメに特化した高層ビルとして話題を呼び、5月22日には早くも来場者数が100万人を突破するなど連日賑わっているようです。

5月中旬の週末。同タワーを訪れると、午後10時前にもかかわらず、外から2階へ続くエスカレーターに行列ができていた。中に入ると、聞こえてきたのは大音量のアップテンポの音楽。ピンクや青の色とりどりのネオンがまぶしいこの場所は、日本各地の食が楽しめる計1300席のフードホール「新宿カブキhall〜歌舞伎横丁」だ。

この日はDJイベントが行われ、常設のステージ上では客らしき男性らが楽しそうに踊っていた。会話するにも大声を出さなければ聞こえないほどにぎやかで、横丁はほぼ満席。通路は人とぶつからずに移動するのが難しいほどで、入場制限がかかった日もあった。記者(32)は想像以上のにぎわいに圧倒された。

4月14日に開業した同タワー。オフィスもアパレル店もなく、入居するのはライブホールや劇場など。225メートルの高さがありながら丸ごとエンタメビルという国内でも珍しい複合施設だ。4月30日までの来場者数は46万人で「おおむね想定通り」(東急)。5月22日には100万人を突破した。

日経電子版

このように我々の生活と切っても切れない仲であるエンタメですが、その歴史を俯瞰してみる機会はあまりありません。コンテンツ市場(12兆円)、スポーツ市場(10兆円)、コンサート・演劇などのライブ市場(6000億円)と、年間合計20兆円を超える巨大な消費市場であるエンタメ産業。これらはすべてがもともと市場としてはゼロから生み出されたものであることは驚きに値します。つまり、エンタメ市場を学ぶことは「ゼロイチ」でビジネスを生み出すためのヒントとなり得るものであり、それこそが今の日本の課題そのものではないかと思います。

この度たまたま著者であるエンタメ社会学者の中山淳雄さんとお話する機会があり、また奇遇にも弊著「稼ぎ方2.0」がクリエーターエコノミーの話であったことからお互いの著書を交換し合うことになりましたので、改めて日本のエンタメの歴史を学ぶきっかけにもなりました。

まず一番最初のエンタメはなんだったかというと、興行だろうという話です。源流をたどれば奈良時代の伎楽になるでしょうし、田楽や猿楽を経て平安・奈良時代の能や狂言へと発展していきました。演劇として最古のものは600年続いている「能」であり、一人の演者が作詞作曲・脚本・演出などをすべてこなす様は、現代のマンガ家に通じると筆者は指摘します。当代のスーパースターである世阿弥は、現代で言えば手塚治虫でしょうか。

興行とは、いかに「お金を払う人を集める」かが重要です。そしていつの時代も、土地を持つものが興行を打つわけです。それは、興行が成功すれば「場が豊か」になり、ひいてはその場所自体に愛着を持ち集うようになります。土地にブランドができれば、それそのものが「地価」という形で帰ってきます。コンテンツの力がメディアで増幅され強大なビジネスへと転換されるエコシステムです。

これは時代が変わっても通用するビジネスモデルでもあります。本書でエンタメ産業を俯瞰してみて思うのは、流行り廃りはあるもののどのカテゴリーもしなやかに生き残っているという事実です。その昔、1990年代後半のインターネット黎明期では「世界中のコンテンツに無料でアクセスできるようになったら、これまであったエンタメは絶滅してしまうのではないか」という危惧や「インターネットで音楽がいくらでも楽しめるようになったら、誰もライブに行かなくなり音楽産業は凋落するだろう」という言説がまことしやかに語られていました。実際の起こったことは、ライブは2010年代に大きく伸長し、歌舞伎の時代からある「投げ銭」は今になって形を変えて行われています。

一方で、今のエンタメは団塊の世代と共に育ってきたと著者は指摘します。常に購買力のボリュームゾーンである団塊の世代の成長に合わせる形で、少年マガジンからテレビ初のアイドル、そしてフォーク・GSなどのギターブームを形成して、それがレコードというメディアと印税というビジネスモデルの発明によりさらに産業が大きくなっていきました。そして、その影響を受けた団塊ジュニア世代がゲームとアニメを育て、その子世代であるZ世代によってゲーム実況やV-Tuberが育っていく。歴史は繰り返しています。

しかし、少子高齢化により購買層の絶対数はどうしても減少していきます。であれば、日本エンタメで育った海外のユーザーに向けてどう広げていくのか。欠乏した海外へのマーケティング機能をどのように作り上げていくのか。これはエンタメ産業だけではなく、日本の全産業に言えることではないでしょうか。

「文化とは入口と出口に生まれる」と著者は言います。技術的イノベーションのたびに消費者がどう変容していくか、実験を繰り返して新しいビジネスモデルにアジャストされていきます。その最前線にいるのが音楽産業であり(テープからCD、そしてネットへの変貌)、他の産業はそれを見て新時代の予兆を感じ取ります。「エンタメは社会構造の入口/出口に恒常的に立ち現れる、「産業の様式美」である。」という著者の言葉にとても同意します。

エンタメ産業を学ぶことは、日本の産業の今後を考える上で非常に有用であると思います。『エンタメビジネス全史』、一読をおすすめします。



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※ タイトル画像は筆者撮影


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