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「デフレーミングでコロナのような危機的状況でも強い組織になれる」ー【COMEMO KOLインタビュー】高木聡一郎さん

日経COMEMOのKOL(キーオピニオンリーダー)高木聡一郎さんは現在、東京大学大学院情報学環で准教授を務められ、「デフレーミング」概念をはじめ、ビジネスモデル、イノベーション、産業構造などの研究をされています。

今回のインタビューでは、高木さんが考案した「デフレーミング」について、デフレーミングを使うとなぜデジタルトランスフォーメーション(DX)の本質がわかるのか、わかりやすく解説していただきました。


高木聡一郎さんのプロフィール
1997年慶應義塾大学法学部政治学科卒、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。ハーバード大学ケネディスクール行政大学院研究員(フェロー)などを経て、19年より東京大学大学院情報学環准教授、国際大学GLOCOM主幹研究員を兼務。専門分野は情報経済学、デジタル経済学。

▼本日より「NIKKEI STYLE 出世ナビ 【フロンティアの旗手たち】」で高木さんの連載が開始しました。


「デフレーミング」とは、フレーム(枠組み)がなくなるという意味の造語で、「分解と組み換え」「個別最適化」「個人化」という3つの要素を含む概念。

・分解と組み換え……従来の業界や事業の枠組みを超えて、その内部要素を分解し柔軟に組み合わせ直すこと。
・個別最適化……画一的なものを大量に生産して販売するのではなく、ユーザーによって細かくカスタマイズしながら届けること。
・個人化……企業に所属し専属的に働くだけでなく、フリーランスやクラウドソーシングなど個人として働く場面が増えてきていること。


ー「デフレーミング」は、デジタルトランスフォーメーション(DX)との関係性からは、どのように理解すればいいですか?

この言葉はもともと私が作ったもので、昨年「デフレーミング戦略」という本を執筆したときに初めて正式に発表しました。

「DX」という言葉は「デジタル技術を使った変革」という、大きな枠組みの意味合いしかもっていません。ですから、実際の業務や事業に取り組んでいる人からすると、具体的に何がDXなのかよくわからない、ということが起こります。

これまでの歴史の中でも、様々なデジタル技術を使うことが何らかの変革を伴うことはありました。「これまでの変革とDXでは何が違うのか?」私はそれを明らかにする必要があるのではないかという問題意識を以前からもっていました。私は経済学をベースとして研究をしていますから、今、一般的に言われているDXによって、社会がどのように変わろうとしているのか、そういう視点で明らかにしたいと思いました。

そのような中、海外のITサービスを調査・観察していくことで見えてきた具体的な事例をもとに、「デフレーミング」という概念を作りました。直近のITイノベーションにより起こっていることは、「デフレーミングである」と言うことができると思います。

ー「デフレーミング」という概念に至るまでに、具体的にはどのような研究をされていたのですか?

私自身の博士論文のテーマが「経済の編み直し」というもので、ITによって組織や国の境界がどのように編み直されるかについて考えていました。デフレーミングはその延長線上にある話ですから、そこからの研究がずっとつながっていると言ってもいいと思います。

私は学生時代、アメリカに留学していましたが、当時アメリカではアウトソーシングについての議論が巻き起こっていました。ソフトウエア開発などをインドをはじめとする海外にアウトソーシングする動きが急速に進んだことで、アメリカ人のエンジニアが職を失うことが大きな問題になっていたのです。

アメリカの場合、特にインドなどは英語が通じるということもありますし、インドにはITの技術者も多いので、かなりのスケール感をもってアウトソーシングが推し進められていました。

ー日本と海外のDXの違いについては、どのように見ていますか?

まず日本については、社会が二分化している印象を受けています。スタートアップ企業のように小さな規模の企業では、DXが何かという議論をする暇もなく、次々に新しいサービスを生み出している状況があります。

一方、大企業では「DXをやらなければいけない」という危機意識はもっているものの、現場のセクションで動かせることには限りがあるため、なかなかできないということが起こっていると思います。これまでやってきた事業との兼ね合いがうまくいかないなど、フラストレーションを抱えている人も多いような気がします。

日本の大企業の場合、思う存分自分たちの創意工夫を発揮しづらい組織になっているという面もあると思います。これについては「デフレーミング」の要素でもある「個人化」を進める、つまり、もっと個人や小さなユニットが自由に動ける組織を作っていかなければ、これからの時代は生き残っていくことが厳しいでしょう。

日本でデジタル化による個人化の流れをなかなか進められない背景には、「雇用の流動性」が低いこともあると思います。現在、デフレーミングが最も進んでいるのは、中国です。中国ではデリバリーやキャッシュレスなど、DX化の流れを受けて企業の形もどんどん変わっています。中国もアメリカと同じように雇用の流動性が高いので、転職したり兼業したりが比較的自由に行われているようです。そういう意味でアメリカと中国は非常によく似ています。経済的なインセンティブに反応して経済合理性だけで組織を変えていくことができる、という柔軟性があると思います。

日本は雇用が固定的な傾向があるので、すぐに動けないところがあるのかもしれません。

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ーDX化の流れの中で、生き残っていける大企業とはどのようなものなのでしょうか?

まず大企業は、自分のやりたいことを次々と形にしていく個人や小さなチームと競争することを、真剣に考えなければならないでしょう。「スピード感」や「思い入れ」という部分でも、勝負していかなければならないのです。

従来であれば、「大企業」対「小さなチーム」となれば勝負になりませんでしたが、今は莫大な資金がなくてもイノベーションを起こして新しいサービスを作ることが可能な状況になっています。その中で、小回りが効いてフレキシビリティもある、自分たちのやりたいことを思い切って実現しようとしている集団が、相手になるのです。

大企業に今できることの1つは、大きな組織の論理を緩めることだと思います。様々な意思決定の手続きや組織文化は、実績のある企業ほど仕組みが複雑になったり硬くなったり、柔軟に動くことが難しくなっていく傾向があります。1人1人にできることが増えていることを理解した上で、組織文化を細切れにして、現場現場で自由に動ける方向に進んでいかないと、個人化が進む産業と勝負していくことは厳しいように思います。

デフレーミングの要素の中に、「分解と組み換え」という考え方があります。違う分野や業務、業界などを組み合わせながらサービスを拡大していくことは、何よりもユーザーにとってメリットがあることです。それは、そのサービスを運営する企業が必然的に大きくなっていくことにつながります。企業の拡大は新たな研究開発投資などにつながり、それはそれでメリットがあります。

組織が固まって身動きが取れない状態を生み出さなければ、大企業であることにはメリットも多いのです。

ー新型コロナウイルス感染拡大の影響で、「デフレーミング」はどうなっていくでしょうか?

フリーランスや個人事業主として働いている人たちには、コロナによる非常に大きな打撃がありました。企業に勤めていれば、会社が持ちこたえている一定期間は給料が支払われるので、今回のような非常時でもある程度ショックをやわらげることができたかもしれません。今後「個人化」が進む中で、収入の安定をどうはかっていくかは課題の1つです。私は、会社員とフリーランスの中間にあるような働き方を設計する必要があると思っています。

その一方で、コロナで明らかになったものがもう1つあります。それは、デフレーミングの考え方がレジリエンスになっているということです。例えば、コロナの影響でお客さんが減ったタクシー会社が、高級なレストランのデリバリーをやっていました。これは、「運送」と「接客」の面で高いスキルを所有しているタクシー会社が、これらのスキルをタクシー以外の業態で使えないかと考えた結果です。

これはまさにデフレーミングの「分解と組み替え」の考え方です。自分たちがすでにもっているリソースや強みをバラバラにして、まったく別のコンテクストで使ってみる。そのようなやり方が、今回のコロナのような経済的に大きな打撃がきたときに、レジリエンスになると思います。

コロナのような危機への対応として、デフレーミングの概念は参考になると思います。常々、自分たちのスキルや強みが別のことに使えないか、別のことと組み合わせられないか、と考えていたところは、今回の危機に対しても強かったのではないかと思います。

ー「都市研究」もされていますが、「デフレーミング」の視点から今後の都市はどうなっていくと考えていますか?

都市の話は、様々な部分が「デフレーミング」の概念とつながっています。例えば私は今、都市をプラットフォームと見たときに、そこではどのような価値がどのように交換されているのかについて、研究しています。

プラットフォームとは、異なる属性の人々をマッチングして、そこで価値を交換してもらうものです。GAFAに代表されるようなオンラインのプラットフォームがこれに当たりますが、それをリアルな都市に置き換えて考えるということです。リアルな物理空間での価値の交換やマッチングと、オンライン空間での価値の交換やマッチングについて、補完関係や相関関係が今後どうなっていくのかなどを研究しています。

その中で、都市機能を分解してみる、つまり都市の機能をデフレーミングすることもやっています。

コロナ前の状況を見てみると、郊外や田舎に住むというライフスタイルを選ぶ人は増加傾向にありました。インターネットがあればどこでも仕事ができるようになったことから、東京一極集中ではない価値観も出てきていました。一方でデータを見ると、やはり東京一極集中は加速していました。通勤に時間をかけるくらいなら、高くても都心に住みたいという価値観の人も、増えていたわけです。数十年前は逆に、多少の通勤時間がかかっても東京から少し離れた場所に一戸建てを買って建てたい、という価値観をもった人のほうが多かったかもしれません。生活の質(QOL)をできるだけ高めたいということは共通していても、技術を含めた様々な条件によって、その実現方法も時代によって変わってきます。

つまり、今コロナをきっかけに都心から離れる動きが増えているのは、もしかするともともとあったニーズかもしれません。コロナの影響で会社がリモートワークを認めるようになったなど、やりたくてもやれなかったことが制度的に可能になったからかもしれないのです。

その一方で、これが永続的な流れになるかというと、私はもう少し慎重な見方をしています。人によっては感染リスクがあっても、家賃が高くても、やはり都心に住みたいという人もいます。ネットでアクセスできる情報ならば、都心も地方も遜色なく同じものが得られますが、都心にいなければ得られない情報も一方ではあります。そのほんの少しの「差」に、求心力が生まれることはあると思います。

コロナの影響で多くの企業でDX化が強制的に進んだかもしれません。リアルな場で行われていた価値交換がオンラインに持ち込まれ、かなりの部分がデジタルに置き換えられているとは思います。しかし、そこで抜け落ちてしまったものもあると、私は見ています。

今、実現できているリモートでの仕事は、これまで培ってきたリアルな人間関係の貯金の上に成り立っていることです。貯金があるうちは可能ですが、ゼロから新しく作るとなるとなかなか難しいかもしれません。さらに、ワクチンなどの登場によりコロナが終息してしまえば、やはり「都心がいい」「リアルなコミュニケーションがいい」と、元に戻る方向に向かうかもしれません。


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▼「NIKKEI STYLE 出世ナビ 【フロンティアの旗手たち】」は、日経COMEMOのKOL(キー・オピニオン・リーダー)の投稿をもとにした連載企画です。

▼日経COMEMO公式noteでは、KOLへのインタビューを掲載しています。

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