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日本の高齢既婚者を蝕む「見えない病」とは?

老後、ひとりになっても自分らしく生きるには、どうすればいいのか?

そんなテーマで、3月1日、朝日新聞のReライフフェスティバル「リアル読者会議」に登壇させていただきました。

高齢になると健康問題は最大の関心事になります。生活習慣病や癌など気を付けなければならない病気がたくさんありますが、日本の高齢の既婚男性に限ると、彼らを静かに蝕んでいる「見えない病」があります。

それが「妻唯一依存症」です。


拙著「ソロエコノミーの襲来」の中でも指摘させていただきましたが、「結婚しても誰もがいつかはソロに戻る可能性がある」わけです。にもかかわらず、その認識が著しく欠落しているのが、特に50代以上の既婚男性たちです。

彼らの大部分がかかっている病といっていいのが、頼れる人が、妻だけになってしまう「妻唯一依存症」という状態です。※もちろん医学的な病気ではありません。

子どもが独立し、定年退職して無職になった既婚男性(特に、現役中仕事に没頭し、無趣味な人)が突然発症するパターンが多いようです。まるで母親に甘えるがごとく妻に依存してしまいます。妻を大切に思うことと、妻だけに依存してしまうこととはまったく違います。

イベントでもスライドとして使用しましたが、2010年内閣府「第7回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」によれば、日本の高齢男性は、米国やドイツと比べて、配偶者に依存する率がきわめて高く、その依存率は8割近くになります。

夫婦が共に依存し合っているわけではなく、妻側は54%と夫側と比較して24ポイントも低いのです。夫が妻に依存しがちのは、米国もドイツも同様ですが、それにしても日本の夫の依存度は高いと言えます。

この調査では、他に「心の支えになる人」として「子ども」「兄弟姉妹」「友人」を選択肢としてあげていますが、日本の男性の場合、「友人」の率が3か国中もっとも低いというのも特徴です。家族以外に頼れる者がいない。これが、現在日本の高齢男性の置かれている境遇なのです。

「家族を頼る」こと自体は悪い事ではありませんが、「頼れる先が家族、それも配偶者しかいない」という状況は決して健全とはいえません。

そして、何より悲しいのがこれです。

60-70代の夫婦を対象とした調査によれば、「いざとなった時、妻は頼りににならない」と思っている夫はたった8.8%しかいないのに対し、「夫は頼りにならない」と思っている妻は42%もいるということです。完全に、夫側の片思い依存でしかないのです。

さらに、「生まれ変わったら同じ人と結婚したいか?」という質問に対しても、夫の6割がYESなのに対し、妻は3割にも満たない。なんとも切ない話ではありませんか?

何十年も連れ添っていても、夫婦の間にはこれだけの乖離があるし、それこそが現実なのです。

こういう話を僕は、対面調査で多くの既婚男性としたことがあります。そんな時、彼らのほぼ100%がこう答えます。


「うちだけは大丈夫です」


自信は大事ですが、一度客観的にご自身の内面および夫婦の関係性を棚卸ししてみてはいかがでしょう。

頼れる人が1人しかいないとか、居場所が1カ所しかないという「選択肢が1つしかない唯一依存」が最も危険なのです。配偶者だけに依存しきっている男性が、配偶者を失って陥るのはまさにそうした空虚感で、相手の存在が消えるとともに自分自身の存在も見失うのです。


(大きなお世話だとは思いますが)既婚男性の皆さん、ちよっと想像してみてください。

もし、自分より先に妻に先立たれてしまったら?もし、長年連れ添った妻のほうからいきなり離婚を突き付けられてしまったとしたら?

あなたはその先、一人で生きていける自信がありますか?

突然一人になったとしたら、果たして生きていけるでしょうか?

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荒川和久/独身研究家・コラムニスト
長年の会社勤めを辞めて、文筆家として独立しました。これからは、皆さまの支援が直接生活費になります。なにとぞサポートいただけると大変助かります。よろしくお願いします。