初任給を能力別に変えることは、大学改革でもある
格差ではなく、多様性
私は、1992年に社会人デビューをした。ちょうど、日本はバブル経済が崩壊した直後である。就職活動中、企業ごとの入社後の初任給を気にていた人も多かった。能力別初任給などほとんど存在せず、同期は同じ給料だったのだろう。「だろう」というのは、皆で給与明細を見せ、本当に同期に給与格差がなかったかを確認したことががないからである。まぁ、でもほぼ同期に給与格差はなかっただろう。
しかし、同期一律同じ給与という事実が壊れ始めている。この、ソニーの報道はに驚いた。
同期の間で、2割給料が異なるというのである。2割も増える新入社員が羨ましいと思ったのであるが、冷静に考えるとそうなのだろうか。
自分の得意な専門領域に応じて、給料が異なるのであるが、ではその専門領域は、定年までずーっと先端領域であろうか。いや、異なるのではないだろうか。
つまり、ある時には、自分の学んできた能力によって給料が増えるが、それが先端領域でなくなったら、給料の増加は鈍化するかもしれない。つまり、これは、格差というよりも、給与体系の多様さを生むことになるのではないだろうか。専門性別給与体系ということだろう。
先端領域もいつかは標準能力になり、また新しい先端領域が登場する。これが、科学の常である。したがって、この2割給与が増えるというのは、羨ましいと思うより、今は給与が高いだけと理解するほうが良いのではないだろうか?ある時から、平均的な給与に変わるのかもしれない。
先端領域を学びたい人、そうでない人
そもそも、人には「先端領域」を学びたい人もいれば、そうでない人もいる。先端領域とは、まだ未知の領域で、大学で学ぶには苦労も多い。おそらく文献も教科書も、指導者も少ない。その代わり、先達が少ないだけ、若くしてエキスパートになれる可能性も高い。このように、先端領域に飛び込むことに恐れを持たない人人と、体系がしっかりそろった学問を学びたい人は、そもそも異なる。
このような能力別初任給を導入すると、格差が広がるのではと思われがちだが、そもそも先端領域を行える人の方が少なく、何より先端領域を大学で教える機会の方がもっと少なく、それほど大きな格差にはならないのではないかと考えている。企業別に欲しい先端領域は異なっても、先端領域を学べる人は、それほど多くならないからである。
先端領域を大学で行えるチャンス
ところで、視点を少し変えてみよう。能力別初任給を出すということは、民間企業が、大学などの教育機関から、欲しがっている人材の領域が明示されることになる。このことはとても良い。大学や研究機関は、その研究テーマについては理解しているが、民間企業の活用度については、あまり知らない。民間企業が求めている領域であれば、マイナーだと思ってもっていた先端領域でも、明確に進める理由を見つけやすくなる。
先端領域とは、まだ研究者も多くないし、その研究体系もしっかししていない領域である。研究者自身も不安になりながら研究することもある。そこに、民間企業がその領域への応援メッセージを出してくれることは、研究を進められる勇気になるだろうし、研究予算も取得しやすくなるだろう。
つまり、この能力別初任給は、大学の研究テーマの選定に刺激をあたえるものになるのだ。それこそが、一つの大学改革かもしれない。
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