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マクドナルドに新卒入社した頃、上司のサラから学んだこと

4/1に新卒社員が入社して、1週間が過ぎました。
新卒社員と接して改めて感じることは、彼ら・彼女らが会社の組織カルチャーを受け継いでゆく超重要な存在だということです。

今日は、組織カルチャーを伝承する上で、なぜ新卒は特別な存在なのか、ということについて、自分自身が新卒だった頃の懐かしい思い出と共に振り返っていきたいと思います。(だいぶ恥ずかしいですが。笑)

ジョブ型雇用になっても新卒は必要か

こちらの4/1の日経の記事によれば、ジョブ型雇用が進む中、新卒であっても職種別に採用していく流れが生まれているとのことです。

ジョブ型で専門性の高い人材を本当に揃えたいのなら、中途社員の方が即戦力ですし、育成のコストもかからないですよね。

それでも、企業は新卒を採用し続けるべきなのでしょうか?

その答えは、YESです。
なぜなら、新卒社員こそが組織カルチャーを担うからです。

新卒も中途も「その会社に新しく入った」という点では同じ新入社員です。
確かに専門性や経験に違いはありますが、大卒の22歳でもエンジニアとして10年経験があってプロダクト開発の経験がある人材もいますし、28歳の中途でもエンジニアとしての経験は1年という人材もいます。

そう考えると、新卒と中途の境目はどんどんなくなっていくと僕は考えています。実際、世界に目を向ければ、一括採用で全員同じ日に入社という国は珍しくて、海外では新卒と中途の差はあまりありません。

では、新卒と中途は何が違うのでしょうか?

それは、「他の企業での就業経験の有無」に尽きます。

中途入社の社員は、過去に他の企業で働いた経験があるので、そことの比較の中で、相対的に会社を把握しようとします。

一方で新卒は経験がないので、比較対象がなく、絶対的に会社を把握するしかありません。そのため、新卒は入社して最初に見て学んだことが全てで、「会社とはこういうものなんだ」という刷り込みが良くも悪くもされていきます

このように、まっさらなところに、その会社のいろいろな側面を吸収していくので、その会社のカルチャーが自然と染み付いていくんですね。

そうやって、3年が経ち、5年経った頃には、「あいつもうちの社員らしくなったな」という感じになってきて、気づけば育てる側に立ち、一人ひとりがカルチャーの伝道師になっていくわけです。


新卒の育成において忘れてはいけないこと

子育てにおいては、親が全てですよね。親の言動や、一挙手一投足を見て、子供は学んでいくわけです。

初めて会社に就職した新卒も同じです。周りの先輩や、マネージャーの日々の行動や言動を見て、その姿をロールモデルとしながら、その会社らしい人材に育ってゆきます

先輩・マネージャーの皆さんは、一つ一つの言動と行動が全て見られています。ちょっとした場面で「なんと一言声をかけるか?」、もっと言えば「声をかけるかどうか?」ということすらも、全てが彼らにとっては情報として吸収されます。
そして、意図せずともそうした雰囲気から多くを感じ取り、それを真似し、似たような組織がつくられていくのです。そうやって組織カルチャーというのは受け継がれてゆきます。

僕たち一人ひとりには、新卒社員へと会社のカルチャーを受け継ぎ、会社の未来をつくってゆく責任がある。

そのことを決して忘れてはならないと、僕は常々思っています。

(こちら「月刊 先端教育」のインタビューでも、カルチャーの浸透における新卒の重要性を伝えているので、もしよかったら)


新卒入社した頃の、サラとの出会い

僕は、2005年4月1日に日本マクドナルド株式会社に新卒で入社し、マーケティング本部に配属されました。

マクドナルドは現場主義なので、従来は店舗スタッフとして入社し、店長やその上のスーパーバイザーを目指し、それから本社スタッフへと異動するというキャリアが通常でした。

僕の代は初めて「新卒で本社採用をしてみよう」という、まぁモルモットみたいな世代で(苦笑)、インターン経由での採用でした。

僕はマーケティングの仕事がしたかったので、就活当時からマーケティングを希望していて、人事からも「マーケティングでおいで」と言ってもらえたことは、入社を決めたきっかけの一つです。

入社してみると、面接時とはCMO(最高マーケティング責任者)は、サラ・カサノバさんに交代していました。(いつもサラと呼ぶので、サラと書きます)

サラは、当時日本でCMOを務めて成果を上げ、その後マレーシアやシンガポールでマネージングディレクター(社長)を務め、後々に日本に社長として帰ってきた方です。

ここ数年のV次回復を成し遂げ、今は会長職についています。

僕は、当時マーケティング配属のつもりで入社したのですが、法学部法律学科の卒業だったため、サラは「なんでLegalのBoyを採用しないといけないのよ?」と言って僕の配属を断っていたらしいです(サラは全部英語なので、日本語訳は僕の印象によるもの)。グローバルの感覚だと、配属は法務部でしょ、という感じなんですよね。

人事が「日本は所属学部と関係なく就職し配属する文化なんです」と説明してなんとか理解してもらい、晴れてマーケティングに入る事ができました。

こういう一つ一つから、グローバルと日本の感覚にだいぶギャップがある会社で、これからグローバルに寄せていくところなんだなぁと感じたりしました。

これが後々、社長と社長室長として二人三脚で一緒に仕事することになる、サラとの出会いでした。


サラが教えてくれたマクドナルドのカルチャー

新卒での入社後、一年近い研修期間を経て、僕は初めて主担当として、とある期間限定バーガーのプロモーション企画と実行に携わりました。
前年にも同じ商品を販売していて、実績があった商品の再販売だったため、「TVCMのクリエイティブは前年のものを再度使う」というのが当初からの指示でした。

しかし僕は、どうしてもその前年のクリエイティブを変えたかった。
製品のバリュープロポジションを適切に表していると思えなかったからです。(ホント生意気ですが)

そのため僕は、前年の広告評価のデータや、お客様相談室への問い合わせ内容、広告代理店さんのクリエイティブ担当の方の意見などをまとめて、「TVCMを作り直すべき」という提案をまとめました。

しかし、マネージャーや部長に話したところ、「TVCMは同じものでってもう決定されてるから」ということで変えるのは難しいという判断でした。(まぁそりゃそうですよね)

そこで、僕は本部長であるサラの個室に乗り込んでいって、提案を直接伝えました。それも、マネージャーや部長を飛ばして勝手に・・・苦笑。

その時のサラの返事はこうでした。

「あなたの提案は正しい。このプロジェクトだけを考えたら、作り変えた方がいいと私も思う。けれどね、私はCMOだから、マーケティング予算全体の配分を考えているの。他のプロジェクトで大きく投資したい案件があるから、この商品はコストは最小化しないといけないから、今あるTVCMを使うのが、CMO目線での意思決定なのよ。」

この時、僕は衝撃を受けたんです。

いかに自分が、狭い視点で考えていたか。
CMOがいかに全体を見ながら意思決定をしているか。

自分の甘さと視座の低さを痛感したんです。
そして、早くこういうリーダーに自分がならないといけないと思いました。

次に彼女は、こうも言ってくれました。

「一年目の担当者のあなたが、こうしてCMOの部屋に乗り込んできて提案をすることは、とても勇気のいること。あなたの勇気に免じて、予算を少しだけ追加してあげるから。撮影からはやり直せないけど、編集でメッセージを変えることはできるから、その予算でやりなさい。」
「そして、上司から指示があっても、自分がこっちの方が正しいと思ったのであれば、それを理由と共に改めて提案した今回の行動は正しいことだわ。だから、これからも続けなさい。私のドアはいつでもオープンよ。」

この時、僕はとても嬉しかったです。

提案は通らなかったけど、意図は理解はしてもらえたし、やりたいことが少しでもやれるように支援もしてもらえました。そして、上長をすっ飛ばして話した自分の行動が咎められることもなく、良いことだから続けなさいと言ってもらえたんです。

この瞬間、新卒社員だった僕は学んだわけです。

自分の意見はいつでも伝えていい会社なんだ。
正しい行動をすれば、咎められることなく奨励されるんだ。
リーダーは聞く姿勢を見せることはとても大事なことなんだ。

と。


カルチャーはどう伝播しているのか

その後の僕の行動は、もう言うまでもありません。

サラから教えてもらったスタイルで後輩に接し、マネージャーや部長となっても、同じような姿勢でリーダーシップをとってきたつもりです。
こうやって、組織カルチャーというのは、時をかけて伝播してゆくからこそ、まっさらで長く働く新卒社員こそが重要になるのです。

マクドナルドには「オープン・ドア・ポリシー」という言葉があって、上長は常にドアをオープンにして話を聞くということを組織文化として根付かせています。これは本国のUSが発信しているグローバルの共通言語です。

サラは、グローバルでのカルチャーを体現していたんですよね。
そのカルチャーは日本にも浸透していたので、僕が間の上長であるマネージャーや部長をすっ飛ばしてサラに話に行っても咎められることは一切ありませんでした(今思うと本当にありがたい環境です)。
そうやって、マクドナルドの組織文化は末端にいた新卒の僕に伝わって、それを次は僕が体現していったということなんです。

グローバルでこれが浸透していくマクドナルドすごいなと今でも思います。

そして世界中で浸透する、わかりやすいワーディングも大事ですよね。


・・・それから10年後

2015年、マクドナルドは食品の安心・安全の問題もあって、業績不振に陥ります。

時の社長はサラ。立て直しが急務となり、社長室を作って集中的に、ターンアラウンドに取り組むことになりました。

そこで白羽の矢が立ったのが、新卒時代に部下だった僕でした。

「社長室を作って立て直しするから、社長室長になって一緒に取り組んでほしい。あなたなら信頼できるから。」

と言ってくれたので、二つ返事でうなずきました。
(まぁ「断る選択肢はない」とも言われましたけど。笑)

英語でのコミュニケーションが必須の環境で、英語が流暢ではない僕を選んでくれたのは、マクドナルドのカルチャーをよく理解していたからだと今になって思います。

サラは社長になっても、社員の声を聞くスタイルを変えていませんでした。

僕はそのサラのリーダーシップスタイルをよく理解していたので、そうしたスタイルをサポートする形で社長室長を務めていました。
つまり、トップダウン型ではなくて、ボトムアップで現場の声を聞きながら、経営改革を推進していく、ということです。

サラが僕に伝えてくれたマクドナルドの組織カルチャーを、僕自身が体現しながら、組織全体をサラのリーダーシップスタイルにフィットしたカルチャーへと変革していったのです。

そして、この記事にあるように、サラは社員の声に耳を傾けながら、マクドナルドのV次回復を果たしていきました。


サラは、僕にとってリーダーシップを教えてくれた原点の人です。

そのサラを育てたのは、マクドナルドのカルチャーだったわけです。

そしてそのカルチャーが、末端の僕にまで伝わって、最後は全社の立て直しに微力ながら貢献することができました。

この話は、僕の個人的な例でしかないのですが、自分の原体験から、新卒は会社の宝だとどうしても思えてなりません。

みなさん、長い目で新卒社員にカルチャーを伝え育ててゆきましょう!!

(2015年に社長室長に就いた頃の写真!)

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(すみません、告知ですが)
サラや仲間たちと推進した「マクドナルドの組織風土改革」については、こちらの本に詳細にわたり記載したので、よかったらお読みください😀


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