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富士通のDX組織への変革が、日本企業のロールモデルになる日(後編)

前編では、富士通さんの組織変革に期待せずにいられない背景について、これまでの矢継ぎ早の施策と共に見てきました。

ここからは、富士通さんのDX組織への変革の打ち手がなぜロールモデルとなりうるのかについて、私の視点から4つほどに整理してお伝えしたいと思います。


(1)パーパスから入っている

まず、フジトラ(=Fujitsu Transformation, 全社的なDXプロジェクトの呼称)のスタート地点として「パーパス」を定めています

イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと

パーパスをこのように定義していますが、Fujitsu WAYを刷新したのは12年ぶりとのことで、その本気度が伺えます。

このパーパス自体は「経営トップ層で決定した」と人材採用センター長の渡辺さんが言われてましたが、ポイントは「パーパスカービング」によって個人に落としこんだことだと私は思いました。

富士通全体のパーパスを設定するだけでなく、プロジェクトに参画する社員一人ひとりにも、個人としてのパーパスを設定しているんですよね。
個人の内面をカービング(彫り込む)ことで見出してゆくプロセスを通じて、パーパスの重要性を認識させると共に、会社のパーパスと個人のパーパスを紐づける作業を行なったとのことでした。

こうすることで、会社のパーパスを他人事にせず、自分ごと化することに成功しているように見受けました。

「パーパスカービング」参考記事↓


(2)トップがコミットしている

組織変革には、トップのコミットメントが欠かせません。トップが本気でやらなければ、その直下の役員層が本気にならないので、当然その下の本部長・部長も本気にならない、という構図があるからです。

大企業であるほど、権限委譲が求められるため、トップはつい「DX担当役員」などを設定して、任せがちです。

しかし、DXは担当役員以下の組織だけでは成り立ちません。DX組織への変革は、全社横断的に業務プロセス全体を見直さないとならないからです。
そのためには、横並びの役員を巻き込む必要があるわけですが、当然それぞれの役員は担っている目標やKPIが異なるので、利害が対立します。

このようにして大企業の組織変革は進まないことが多いのです。
DX部門が本体とは切り離された独立部隊になってしまって、その部門内でだけデジタル化が進んだり、ITツールの導入だけ進めて終わってしまう、ということですね。

この点、富士通さんは、時田社長がCDXO(Chief Digital Transformation Officer)を兼務することを宣言しています。そして、元SAPジャパンの社長の福田さんの採用後も、あえて「CDXO補佐」に置き、権限委譲をしていません。
フジトラのプロジェクトオーナーも時田社長、プロジェクトリーダーが福田さんという陣容です。
こうすることで、強い権限を持って全社的な組織変革を推進するんですね。

こうした体制づくりは、経営の強いリーダーシップを見せると共に、トップダウンで改革を断行していくという社内への強いメッセージにもなります。


(3)横断組織を作っている

パーパスを定め、トップダウンの体制を構築した次は現場での実行です。結局どんなに綺麗ごとをトップが語っても、現場で実行されなければ絵に描いた餅。

富士通さんはそれをよく理解しているのでしょう。

まず、「DX Officer」を国内外の各部門から選出し、部門レベルでのDXを主導させるとしています。各部門に落とし込まないといけないので、当然こうした動きは各社考えると思います。
しかしここまでだと「縦のレポートライン」での動きにとどまり、縦割りのサイロのままDXが進むことになります。結果として、部門を超えた横断的なDXは進まず、部門内でできるツールの導入など「IT化」が進むだけです。

富士通さんはこれを防ぐために、CEO室内にCDXO Divisionを設置してプロジェクト全体の交通整理をしつつ、「DX Designer」を各部門内に設置しています。
このDX Designerは、責任者クラスではなく担当者やマネージャークラスだと思われます(これは私の想像です)が、彼らがCEO室と連携して横断的な動きをしつつ、上長にあたるDX Officerとも連携し、縦横の連動性を高められるように設計されていると考えられます。

この、縦糸と横糸を紡ぐ役割こそが、全社横断的なDX組織づくりの鍵となる存在だと言えます

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(画像は日経新聞から引用)


(4)人材をミックスさせている

最後に加えたいのが、多様な人材をミックスさせた活用です。

外部から招聘した福田さんがCDXO補佐としてフジトラプロジェクトのリーダーを務めていますが、外部人材の登用だけで伝統的な日本企業の変革が一気に進むことはまずありません。

人は元来、変化を恐れる生き物なので、当然、外様が来れば抵抗や反対など、いろいろな反応が生まれますし、一定の軋轢も生みます。

そこで重要になるのが、「新しい概念を持ち込む外部人材」と「その組織に長く所属し信頼の厚い内部人材」とのミックスなのです。

恐らくフジトラは、外部の人材も内部の人材も、多くの方が関わり、色々な背景の人材がミックスして一丸となって取り組んでいるのだと思われます。

その中でも個人的に着目したいのは、執行役員常務 総務・人事本部長を務められる平松さんです。

記事には、このようにあります。

「これまでの延長線ではダメだ。人事を根本から変えないと富士通は変わらない。そのためにジョブ型を導入できないだろうか」
2019年6月上旬、社長就任直前の時田隆仁(58)にこう問われた総務・人事本部長の平松浩樹(55)は肩を震わせた。20年に及ぶ辛酸が脳裏に浮かび一瞬の間が空いた後、「1年でできます。そのために長年研究してきましたから」。平松は叫ぶように答えた。
1989年の入社から一貫して人事畑を歩んできた平松は、個人がキャリアを築くのではなく会社に委ねるメンバーシップ型に限界を感じていた。「停滞を打ち破るには社員がチャレンジ精神を持たなければ」と考え、7~8年前から上司に告げず、ジョブ型の研究を進めてきた。きっかけは社内でタブー視されている過去の出来事にあった。
「人事部が富士通低迷の元凶」などと陰口をたたかれながら、それでもめげずにジョブ型の研究を続けたのには理由がある。93年当時、成果主義導入を指揮した人事部の先輩から改革を託されたからだ。「俺たちはどれだけ悪口を言われてもいい。でも絶対に成功させてくれ」。敗北にまみれたバトンを今、握りしめている自分だからこそできることがある――。平松はそう信じている。

20年、辛酸を舐めながら、富士通をより良い会社にするために人事で研究に研究を重ねてきたんです。
耐えに耐えてきたわけですから、このタイミングで「ついにきた!」と水を得た魚のように動いていることは、想像に難くありません。(想像するだけで泣けてきます・・・)

人事施策が矢継ぎ早に導入されているのは、平松さんのような内部の人材が、富士通のこれまでの歴史も大切にしながら、新しい富士通へと変革することを主導しているから、多くの社員が納得してついてきているのだろうと、想像します。

もうこのエピソードに触れるだけで、富士通のDX改革はきっと成功するし、絶対成功して欲しいと、心から願ってしまいます。


さいごに

・・・ということで、私自身は、渡辺さんにしかお会いしておらず、時田さん・福田さん・平松さんに関しては記事で拝見する限りから、想像で書かせていただいています。

内容は僕の想像の域を超えないものですし、事実と異なる部分があるかもしれませんが、個人的にはこうした富士通さんの取り組みは、調べるほどに期待が高まりました!

そして、日本のDX推進のためにもぜひ結果を出していただきたいなと、僭越ながら思っています。

富士通さん、応援しています!!!




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