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アートシンキング再考 (2)

前稿では、「アートシンキング」の特徴と定義について検討してきた。本稿では、「アートシンキング」と「デザインシンキング」を比較し、その違いを検討していきたい。

デザインとアートの決定的な違い

デザインとアートの決定的な違いは、クライアントがいるか否かである。デザイナーはクライアントからリクエストを受け、デザインを制作する。だから、クライアントの意向を踏まえ、そこに創作活動を行うわけだ。一方、アートにクライアントはいない。内発的に湧き出る自分の着想、発想を外部に表現する行為がアートである。だから、クライアントの意向を踏まえ創作活動を行うわけではない。

したがって、デザインのゴールは、クライアントが満足することである。一方、アートのゴールは、アーティストが満足することである。

クライアントがいるか否かで、思考プロセスが全く異なる

他者を満足させるデザインシンキング、自分が満足するアートシンキング。この基本哲学の違いが、思考プロセスも全く異なったものにする。

デザインシンキングは、相手への「共感」から思考プロセスが始まる。クライアントを知り、クライアントに「共感」しなければならないわけだ。アートシンキングの思考プロセスは、フランスのビジネススクールであるÉcole Supérieure de Commerce de Paris(ESCP)のSylvain Bureau准教授により提示された。「貢献」はDonateの訳であり、チームに貢献などと言われているが、そもそもアートシンキングは、内なる自分の想いを表現することなので誰かに貢献することを目標としていないはずだ。

むしろ、to give something, esp. to the world, without wanting anything in exchangeと考えるほうが適切であり、「誰かに評価されるとか対価をえたいと考えるのではなく、世界に表現したい着想、芽を出すこと」だと考えたほうが良いだろう。この他者からの評価を気にしない出発点により、「逸脱」が意味のあるものになりうる。

本来の使用用途から逸脱する発想は、何も気にしないところから生まれるわけだ。常識を「破壊」し、誰にも認められず(本来それを望んでいないのだから本望なのだが)「漂流」し、「対話」をする。誰か他者から認められたいわけではないので、他者と対話するわけではない。自分自身と対話するのだ。そして、自己葛藤を乗り越え、とうとうアートとして「出展」される。これがアートシンキングの思考プロセスなのである。

以上検討してきたように、デザインシンキングとアートシンキングは、クライアントがいるか否かを出発点とし、大きく異なる概念であることが分かった。次の稿では、アートシンキングの源となっている芸術とは何かということを改めて考えてみたい。

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牧田 幸裕 名古屋商科大学ビジネススクール 教授

名古屋商科大学ビジネススクール 教授。専門は、経営戦略、マーケティング、デジタルマーケティング、ラーメン。日経COMEMOキーオピニオンリーダー

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日経が推す各業界キーオピニオンリーダーたちの知見をシェアします。「書けば、つながる」をスローガンに、より多くのビジネスパーソンが発信し、つながり、ビジネスシーンを活性化する世界を創っていきたいと思います。 はじめての方へ→ https://bit.ly/2DZV0XM 【...
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