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GO TOをはじめとする我が国の財政出動を見て感じること

政府が実施しようとしている、いわゆるGO TOキャンペーンに関して、様々な問題が起き、揺れ動いている。

一つには感染拡大がおさまりきっていないこの段階で、人の移動を伴う旅行のキャンペーンが実施されることの問題点である。特に東京では再び感染数が増大する傾向にあることが顕著であり、こうした中で日本全国に人が移動することによって再び感染の全国的拡大が起こるのではないかという懸念がある。

また、こうした中で、東京を発着する旅行についてはこのキャンペーンを除外する決定がされた。これについては、国の施策でありながら地域によって適用の有無があることの正当性・平等性の問題もあるが、もう一つ、東京には今でも毎日近隣の県から多数の人が通勤に通ってきているという現実の中で、東京発着だけキャンペーンの対象除外とすることに、どれほどの実効性があるのかという問題である。これまで、感染拡大防止に向けては東京都だけではなく近隣の県が一体となって感染の拡大を防止する協調を行っている中で、今回のキャンペーンが東京だけを対象外としたことに疑問が残る。

これには旅行関連業界からの様々な政治的な働きかけがあることが予想され、例えば東京以外の近隣県まで対象除外とした場合に、このキャンペーンが盛り上がりを欠くといった点が政治的に考慮されたのではないかという推論も働く。

しかし、私が個人的に思うのは、そもそもこの GO TOキャンペーンの解決しようとしている課題、あるいはこの GO TOキャンペーンが実施されることでうみだされる効果に、計算された戦略性があるかどうかという疑問である。

言うまでもなく、旅行関係や観光関係の業界は、COVID-19の影響で、インバウンドが減りそれだけでなく国内の観光旅行及び出張が激減している中で、存続の危機に直面していることは間違いがない。実際に私の知人の関連産業の会社も大きな影響を受けている。

こうした旅行や観光関連の産業が、どのようにして今後の新しい時代に向けた形に変わっていくのかが大きな課題になっているが、この GO TOキャンペーンが実施されるのであればそういった次の時代に向けての解決の糸口を見出すきっかけにならなければ、中長期的に見て、大きなお金を投じる意味はない、ともいえるだろう。

訪日数千万人に及ぶということで湧いていたインバウンド需要が一気に消えたが、これがそう簡単に元に戻ることはない情勢である。一つには感染症の収束がいつになるかがわからないこと、またこうした感染拡大の状況の中で米中で全面的な国家間の摩擦が増大しており、経済がブロック化していくことの懸念が広がっている。もしそうなるのであれば、西側の経済ブロックに属することになるであろう日本としては、仮に感染症の問題がおさまったとしても、中国からの観光客数をビフォーコロナのレベルで期待することが果たして出来るのかという点が問題になる。

そうであるとすれば従来のインバウンド施策やそれを前提とした企業の事業計画について、時間が経てば元に戻るという見通しを持つことはできないと考えるべきだろう。GO TOキャンペーンをやることによって、これまでのインバウンドに頼ってきた観光や旅行の業界の存続の仕方とは違うやり方を見つける、あるいはそういう方法を試す機会として、このキャンペーンが位置づけられなければ、巨額の国費を使うことの意味が問われると思う。

もちろんこれは、口で言うのは簡単ではあるが、実際には非常に難しい問題であることは間違いがない。しかし今回のコロナの問題で影響を受けているのは観光や旅行の関連産業だけではないこと、またこの影響がいつまで続くかということについては全く見通しが立っていないことを考えるのであれば、財政出動についてはかなり慎重に長期的な視点を持って臨むべきことだと思う。そうしないと、ある特定の産業を救うつもりで使ったお金が他の産業の存続を危うくすることになる可能性もあるし、さらにせっかくGO TOキャンペーンのために使ったお金が、旅行・観光関連産業の一時的なカンフル剤とはなっても、長期的に見た時にこうした産業の自力再生に繋がらないのだとすれば、無駄遣いであったという判断にもなるかもしれない。

こうした、厳しく言えば場当たり的と思える財政出動が続いていることについては、GO TOに限らず、少し懸念を抱いている。例えば、持続化給付金にしても、「持続化」というネーミングを用いたことが果たして正しかったのだろうか、という疑問は個人的には感じている。「持続化」と言われると、何もせずしばらくやり過ごして待っていれば元通りに戻るといった言葉のニュアンスが強いのではないかと思うのだが、どうだろうか。

この感染症の問題がいつ収束するかわからないことだけでなく、一部で指摘されているように、COVID-19以外の感染症の蔓延も将来的に可能性がないわけではない。さらには、国際関係が非常に流動化し、経済がブロック化したり、場合によっては地域紛争すら起きかねない社会情勢にある中で、ビフォーコロナの経済状況が再現されるという見通し、つまり「元に戻る」という可能性は、否定的に思っておくべきではないだろうか。

そうであるならば、今の状況のまま何もせずにやり過ごして待っている、という形での「持続化」を図るのではなく、新しい時代に対応した経済のあり方、ビジネスのあり方についてすべての企業・国民が模索するということが必要になる、そういう段階にあるのではないかと個人的には思っている。もしそのような意図で給付金を出すのであれば、「持続化給付金」ではなく、例えば「事業開発給付金」といった名前にしていれば、少しはそれを受け取る側の意識も変ったのではないだろうか。

存立基盤が盤石ではない比較的小さな国を中心に、国を挙げて次のビジネス環境や次の国際秩序に対応した生き残り策を必死に考え始めている、ということを ウェビナーの参加などを通じて感じ取っている。日本は世界3位の経済大国であり、大国としてこうした動きが鈍いことは仕方がないことなのかもしれないが、それにしても元に戻ろうとする意識が強すぎるのではないかという点について、新しい時代に取り残される懸念と危機感を感じている。

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