【読書メモ】「生産性とは何か」
現在ほど「生産性」という言葉が表舞台で派手に使われるようになった時代はないが、経済学の世界ではAスミスの時代から生産性というフレーズを用いて様々な研究がなされてきました。あらゆるシーンでこの言葉を安易に使う向きが多く、企業の場においては「生産性管理シート」、「生産性管理シートミーティング」のようなギャグなのか本気なのか分からない試みも多々行われていると耳にします。本著は理論的な背景をしっかり踏まえた上で、日本の生産性を取り巻く現状のどこが問題でどのような処方箋が考え得るのかを比較的平易に解説してくれています。
昨今の「働き方改革」は残業削減と同義に使われています。これは労働時間削減による労働投入量の削減を主眼に置くものですから、暗に「労働投入を減らして生産量を維持する」ことを前提としています。それは「1人(厳密には人×時間)が生み出す生産量を増やせ」ということですが、21時に帰っていた人が19時に帰って家でテレビやスマホゲーに興じたり、ビール飲んだりすることでこれが達成されるわけもありません。結局、本来の「働き方改革」とは文字通り「働き方」なのであって、労働時間はその一要素でしかないのですが、どうしても「早帰り」という矮小化された問題に収束するところに日本労働の闇を感じます。
日本の失われた25年で最も人口の減り方が顕著だった10~20代の層において、世界で活躍するアスリートがバンバン生まれているのは結局、根性論や精神論を排し、競争性・合理性・多様性を取り込んだ正しいアプローチに勤しんだからという例示は面白いものでした。「俺より早く帰るやつは駄目」というありがちな日本の職場観とは真逆という話です。
なお、著者が最後の方で「同じ能力を有する人が、それにふさわしい仕事を選べるべきだという考え方からすれば、生まれた時期によって職業選択の幅が狭められる慣行というのは不公平だと言える」として、年功序列・終身雇用とこれに付随する新卒一括採用を喝破しています。ちょっと生まれるのが早かったからと言って安全地帯から「人生再設計第一世代」というデリカシーのないフレーズを見せつけられた当事者世代としては、著者の指摘は誠に首肯するものがあるかと思います。誕生日で職業選択の不利を思い切り被った世代として、まず、そのような事例を二度と出さない世の中、制度であって欲しいと願うばかりです。「第一世代」というネーミングは「第二、第三も?」と想起させる部分もあり、修正した方が良いのではないかと考えさせられる部分もあるかと感じました。
一読推奨したい良書だと思います。
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