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兼業で人材は地域でシェアする時代

兼業を自己成長に使って欲しい企業と収入増にしたい従業員

兼業解禁の動きが増える一方で、企業にとっての懸念事項も増えている。元々、企業が兼業を規制してきたのは「本業に専念すること」「競合他社への自社のノウハウの流出防止」が主な理由だった。しかし、社内で経験を積むことで学習できる内容だけではビジネス環境の変化に対応することや従業員個人のキャリアを守ることも難しくなってきた。そのため、兼業によって従業員に社内では与えることが難しい経験を積ませ、社外との接点を持たせることでキャリア自律を促すことが期待されている。
しかし、ここに兼業をしたいと考える従業員との間に意識のギャップが存在する。長年、変わることのない給与水準に対し、物価上昇や増税などによって家計の負担は増えている。そのため、本業以外の収入源を得て、家計の足しにしたいと考える従業員は多い。
収入増を期待しての副業で、企業が懸念するのはそのために本業が疎かにされてしまうことだ。また、収入のために労働時間超過となり、健康問題に発展する事態も多い。兼業解禁の動きが始まったばかりの当初は、兼業による労働時間管理をどうすべきかという議論がさかんに行われた。
現状は、兼業に対する規定は各社で様々だ。申請を出せば公序良俗に反していない限り大丈夫だという肝要な企業もあれば、スキルアップが望める兼業先や指定された兼業先以外は認めないところもある。従業員は認めずに起業や会社役員相当でのみ認めるところもあれば、経営層でも代表権を持つことは不可とするところもある。競合他社や本業と同じ業界の兼業は認めないという規定もよく見られる。

ベテラン社員の兼業で中小企業の課題を解決する

人材育成の兼業では、トヨタ自動車九州が面白い施策を行っている。トヨタ自動車九州のベテラン人材を対象として、中小企業の課題解決に兼業として派遣することで、中小企業の競争力を高めるとともに従業員に新たな経験を積む機会を与えている。

中小企業、特に地方企業の人手不足は深刻だ。人口減少や大都市への資源集中だけが問題ではなく、立地や事業規模に関係なく、DXやGXなどの対応が求められるビジネス環境の変化が多い。地方だからと、アナログで牧歌的に働いていける時代ではなくなってしまった。かといって、今いる従業員を育成する余裕もなければ、スキルを持った人材を採用することも難しい。仮にスキルを持った人材がいたとしても、労働条件が合わずに正社員として雇用することが難しいのも悩みの種だ。
そういった中小企業の悩みに応じるように、兼業をマッチングするオンラインサービスも存在する。しかし、この傾向にもフリーランサーのマッチングサービスが出たときと同様に、専門性に適切な値付けがされないことによる労働力の安売り減少が起きるというリスクを孕んでいる。
トヨタ自動車九州の仕組みは、これらの課題に対応した良い施策だ。中小企業はトヨタのベテランの専門性を活用でき、トヨタのベテランは社外のプロジェクトに関わることで大企業では体験できない業務経験を積むことが出来る。自分のキャリアを見直す良い機会にもなるだろう。
また、本業からの紹介の兼業ということで、公募形式のオンラインマッチングよりは専門性の値付けに対して影響が少ない。クローズドで、尚且つ人材育成やCSR活動の一環として取り組むことができるからだ。
このように、地方の大企業の拠点や地元の優良企業が中小企業と提携して、兼業による人材育成と課題解決のパートナーシップを拡げていくことは好ましい変化だ。特に、大企業は本社と地方拠点では人材育成の機会が極端に異なる傾向にある。しかも、機会が少ないだけではなく、所属する従業員自体が自ら学ぼうという意欲も下がる傾向にある。これは、現場仕事は基本的に現場経験から学んだことのみで運用できるように設計されることが多く、目の前の仕事をやるだけならば特段学ぶ必要がないためだ。加えて、地方拠点では規模が小さいために一人の従業員がカバーしなくてはならない業務範囲も広く、忙しさから学びを後回しにしがちになる。学びの機会が減少する大企業の地方拠点の従業員の育成機会としても、中小企業への課題解決型の兼業は効果的だ。
リンクトインの創業者であるリード・ホフマンは、これからの働き方は特定の組織に縛られることなく、プロジェクトベースで人材が行きかうような世界が来ると指摘し、そのような関係性をアライアンスと呼んだ。人手不足で悩む地方の中小企業こそ、このような大企業との兼業のパートナーシップを結ぶことが事業の持続可能な発展に求められることだろう。

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