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終電時刻繰上げの功罪を考える

新型コロナウイルスの影響をきっかけとして首都圏の鉄道各社が終電の繰り上げを検討しているというニュースが相次いでいる。

そもそもは JR東日本が終電を繰上げる発表したことに連動して私鉄各社についても終電の繰り上げを検討している会社があるということだ。

こうした動きは、首都圏にとどまらず全国の都市圏に波及しつつある。

こうした終電の繰り上げについて果たしてプラスの影響とマイナスの影響どちらが大きいのだろうか。

マイナスの影響としては、一つは東京の国際都市化が進まなくなるのではないかという指摘があった。

これは深夜において働く時間が短くなることによって、夜間に海外とのやり取りをしていた人たちが終電が繰り上がる分だけ、稼働時間が短くなるのではないか、ということを懸念した指摘である。

しかし海外とのやり取りであれば、国内での業務はこれまでも当然対面ではなく、いわゆるリモートワークと同様オンラインでやってきているはずだ。そしてリモートワークと同じであれば、自分のいる場所に関係なく少なくてもある程度の業務が可能ということは、この数ヶ月の新型コロナウイルスの感染防止対応によって多くの人が経験したことだと思う。

もちろん、必要な資料がオフィスに行かなければない、といった事情でオフィスでなければできない仕事というのもあるのかもしれない。しかし、こうしたものはペーパーレス化やオンライン化、クラウド化などによってどんどんオフィス以外でもできるようになっている趨勢にあるし、また生産性向上のためにも、業務の国内外問わずこれらを推進なければいけないという気運にあるはずだ。

もちろん、先の記事が指摘しているように エッセンシャルワーカーのようにどうしても自分の体をある場所に置かなければいけない人にとって、終電の繰り上げの影響がマイナスの影響を及ぼさないということではない。ただ、例えばこれまでオフィスで海外とのやり取りをしてきた人が自宅でリモートで海外との仕事をするようになることで、それに付随して必要となっていたエッセンシャルワーカーの人達が出勤する必要がなくなる、という部分もあるのではないだろうか。

また、繁華街・飲み屋街に行って終電までお酒を飲むお客さんが、早く切り上げてしまうことによって飲食の時間が短くなることにより飲食店にとってマイナスの売上をもたらすということも考えられる。これはもちろん都心の繁華街においては非常に深刻な問題を引き起こす可能性はあるが、お酒が好きな人は都心であろうと地元であろうと飲む習慣をやめないのではないか。そうだとすれば、これまで都心を中心に立地していた夜の繁華街が、郊外の街あるいは地方都市といったところに分散していくのかもしれない。自宅まで徒歩や深夜バス等で帰れる距離の、帰宅途中にある繁華街に夜のお客様が移動することになってくるのかもしれない。そうであるなら、飲食業界全体としては、飲食の習慣が変わらない限りは、お店の立地が郊外に分散していくだけで、市場規模としてはさほど影響がない可能性もあるのではないだろうか。

一方でプラスになることは、記事にも書かれている深夜の保線要員の確保が容易になるという直接的な効果以外にもいくつか考えられる。

一つは終電の繰り上げによって一層のリモートワークが進むことにより、職住が近接し、人々の生活の質が高まる可能性がある。このコロナの問題が起きることによって、都心のオフィスを縮小・解約する会社が出現したり、個人としても都内に住んでいた人が郊外に転居するといった動きが、私の知っている中でも起きている。こういう人たちが経験をしていることは、実は必ずしもオフィスに出社しなくても自分の仕事が進んでいくのを実感したということである。また、社会全体に在宅勤務やリモートワークに対する認識が普及したことによって、社内だけでなく取引先に対しても自分がリモートワークすることに対して、後ろめたさや引け目を感じる必要が以前よりもなくなってきているということだ。

そうであるならば、深夜の空調の止まった環境の悪いオフィスで、終電まで無理をして働くよりも、自宅に用意した在宅オフィス空間で仕事をすることの方がよほど健康にも良いのではないだろうか。空調が止まったオフィスに一定以上の人数が働いていることは、ウィルス感染の観点でも望ましいこととは言えないだろう。 このためには、自宅に、働くことに適した空間をしつらえる必要はあるが、こうしたことも人口減で新築需要が頭打ちになることが見えている住宅関連産業にとって、新たなビジネスを産むことにつながるのではないだろうか。

また、どうしても深夜の移動のニーズが大きく、公共交通機関を動かす必要があるのであれば、鉄道以外の方法も検討できるだろう。先の記事が指摘しているようにロンドンなどでは深夜バスが運行されているし、筆者が実際に経験した中でいうとスペイン・バルセロナのバスは終夜運転をしていた。これによって、深夜の鉄道の代替輸送を確保するということはどうだろうか。

近い将来、自動車の自動運転が進むのであれば、昼間よりも空いている道路で無人運転のバスが一定の時間間隔で終夜動いていることの方が、ずっと利便性が高くないだろうか。深夜の空いている鉄道は犯罪の温床になる可能性があり、その対策としてニューヨークの地下鉄のように乗客が特定の車両に集中して乗ることで犯罪を防ごうとする動きがあったが、バスのように外からも車内の様子が見えやすく、また小さな車両で「人の目がある」状態であれば、こうした犯罪の抑止の効果が期待できるのではないだろうか。

従来の生活様式や働き方をベースに終電時刻のあり方を考えるよりは、新しい時代においてどのような私たちの暮らし方や働き方が望ましいのか、という議論をベースに、終電繰り上げの是非を考えるべきだと思うし、またオンラインコミュニケーションのツールや自動運転のような新しいテクノロジーがどうやってこの問題を解決しうるかというところも、十分に目を配った上で考えていきたいと思う。

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