「誰でもリーダーになったり、何かを変えたりすることはできる」ー【COMEMO KOLインタビュー】碇邦生さん
日経COMEMOのKOL(キーオピニオンリーダー)碇邦生さんは現在、大分大学経済学部の講師を務めています。長年、日本だけではなく世界中の「活躍できる人材」「変化を起こせる人材」について研究してきた碇さんが、社会が大きく変化する今、突出して活躍できる人材についてどのような見解をもっているのかは、非常に興味深いところです。
組織マネジメントや人材育成など、碇さんの仕事や考え方の背景にある、ルーツやその思いなどを伺いました。
【COMEMO KOLインタビュー】は、キーオピニオンリーダーの思いやルーツ、人となりを紹介する連載です。取材には、日経とnoteによる学びのコミュニティ「Nサロン」のメンバーを招待。実際の取材現場体験を通してビジネススキル向上の機会を提供しています。
碇邦生さんのプロフィール
2006年立命館アジア太平洋大学アジア太平洋マネジメント学部アジア太平洋マネジメント学科を卒業。⺠間企業を経て神戶大学大学院へ。その後、リクルートワークス研究所で主に採用を中心とした研究プロジェクトに従事、17年から大分大学経済学部経営システム学科の講師。
▼本日より「NIKKEI STYLE 出世ナビ 【フロンティアの旗手たち】」で碇さんの連載が開始しました。
ーリクルートワークス研究所では、どのような研究をされていたのですか?
リクルートでやっていたことは、主に2つです。
1つは、東証一部上場企業の人事の実態調査です。幅広く、人事制度がどうなっているのかということを調べていました。東証一部上場のすべての企業にアンケートを出して、200〜300くらいでしょうか、返答が返ってくるので、それを分析していました。人事の実態を探る研究は、海外に対しても行っていたので、各国でどのように状況が違っているのかも調べていました。
もう1つは、採用の研究です。実はリーマンショック以降、採用のプレゼンスは上がっています。これは日本だけではなく、海外でも同様です。「人を獲得することは事業戦略を成功させる上で重要なこと」と捉える企業が増えているということです。採用は事業戦略のコアな部分に関わっていると考える、という世界的なトレンドが起こっています。
そのようなことを、世の中の動向を見ながら研究して、「こうなるのではないか?」と半歩先、一歩先のことを提言するという仕事でした。
ー大分大学では、どのような内容を教えているのですか?
教えている講座名は「人的資源管理論」なので、要するに人材マネジメントです。
ただ、ここには1つ問題があります。人的資源管理の制度論を教えようとすると、それなりの企業規模が必要になります。上場企業くらいの規模でないと、人事部は労務管理が中心で経営戦略的な性格が薄れます。でも、大分県には上場企業は9社しかありませんし、そもそも地方には人材マネジメントに関するニーズが少ないです。そのため、学生がこれを学んでも実践する場がない、ということになってしまいます。
そこで、今は個人のスキルなどに注目し、「誰でも必要になること」をメインに教えています。例えば、「リーダーシップ」や「キャリア」などに視点を当てて授業をしています。
大分では大学も県も、「グローバル」の推進を行なっています。そのため、大分大学では全体の10%以上の学生が、在学中に交換留学で海外に1年間行っています。「グローバルな人材になりたい」という学生も多いです。そこで、授業の中では「グローバルな人材になるにはどうすればいいのか?」ということについても取り上げることが多いです。
さらに、学生が就職したいという魅力的な企業が九州内に少ないというのも事実で、そのような中で「ないなら作ろう!」という発想をする学生も当然います。そこで、起業する人や新しい事業を起こす人が、「どういう発想でビジネスを考えるのか?」「どのようにアイデアを出していけばそれがビジネスになるのか?」「自分のやりたいこと・届けたいサービスをどうすればビジネスにできるか?」など、ビジネスプランを考えることもやっています。
ーリクルートワークス研究所から大分大学に移られたきっかけはなんでしたか?
もともと私は、大学の教員になるつもりはありませんでした。研究所やシンクタンクなどで、ずっと働いていくのだろうと考えていました。それがあるとき、大分大学の先生から「人事系の教員を探している」というお話をいただいたんです。
人事系で実務経験があり、教育もできて、さらに「英語で授業ができる人」を探しているということでした。英語で授業ができる教員のニーズはどこの大学でも大きいのですが、圧倒的に人手不足で人材確保に苦戦しています。
「直接、学生に会ってみてほしい」と言われ、大分大学に面接を受けに行きました。公募がかけられていましたから、他にも面接を受けにきていた人が複数名いました。
面接で大分にいったとき、学生と話す機会がありました。私は学生時代を大分県の大学で過ごしていますから、当時、バイト先などで大分大学の学生とは一緒になることもあり、仲良くしていました。
私が学生たちの話を聞いていて感じたのは「当時の大分大学の学生と今の学生の意識が変わっていない」ということでした。15年前と今とでは、社会は大きく変わっています。学生が社会にでるときに求められるスキルも、当然大きく変わっているのに、学生の意識は15年前と同じところで止まっている。そのことに問題意識をもちました。
大分県としても、「何かをしなければ」「変わらなければ」と、学生に期待感をもって様々な取り組みを行なっているのに、そのメッセージを学生が受け取っていないと感じました。
それに対して、自分にも何かできることがあるのではないか、という思いもあって、もしも面接に受かっていたら移ろうと決めました。
ー大分大学で学生を実際に教えるようになってから、学生の意識には変化がありましたか?
マクロのところでは変わっていないと思いますが、だいぶ意識を変えることができてきたのではないかと思っています。
例えば、「Oitaイノベーターズ・コレジオ」という地方リーダー育成の私塾を開講しています。この勉強会には学生は無料で参加することができます。これを授業で告知すると、一番反応がいいのは2〜4年生ではなく1年生なんです。1年生は大学に入ったばかりで、まだ自分の「型」ができていないので、「何かやりたい!」という気持ちを強くもっています。
「ハネムーンエフェクト」という言葉がありますが、人間は新しい組織に入った瞬間が一番モチベーションが高く、それは新しい組織に入ってから3ヶ月程度はキープできると言われています。この最初の3ヶ月におもしろい体験を味わうと、「この組織ではおもしろいことができる」というマインドセットに変わるので、その後もモチベーションを高いままキープすることができるようになります。
逆に、最初の3ヶ月間で「この組織はつまらない」と感じるような体験しかできないと、一気にモチベーションが下がってしまって、以降再びモチベーションを上げることが難しくなってしまいます。企業の場合ならば、これが早期離職につながるということです。
ですから、この最初の3ヶ月間の体験が非常に大事で、ここでどんな教育をするかで、学生の意識を大きく変えることができると思っています。
先ほど、起業を考える学生もいると話しました。他の大学でも起業教育に携わったことがありますが、学生たちの様子を見ていると、確固たる信念のようなものをもって「起業したい」という学生は稀です。300人のうち1人いるかいないか、くらいではないかと思います。
これまでの日本は、そういう学生だけを拾い上げて教育していたように感じています。「お前本気か?」と聞いて、フワッとしたことを答えると、「本気じゃないからお前には無理だ!」と言って切り捨てる。そんなことをやってきたように思います。
そうではなく、そのフワッとした状態のままで学生を走らせて、それがいつの間にか気持ちが乗ってきて、やる気が出てきて、「本気でやってみよう」と思わせる仕組みづくりが大事だと思っています。
最初は「なんでもいいよ」と言ってやらせてみることが大切で、学生がフワッと思っていることをどうやって大きくしていくかということを考えるのが、大学の教員の役目だと思っています。
ー人事や人材に関する研究を一貫してやられてきていますが、人材研究のおもしろさはどんなところにありますか?
そもそも高校生のときに、人事系のことがやりたくて大学を選びました。子供の頃から歴史が好きで、特に英雄伝・偉人伝が大好きでした。世界人名辞典が子供の頃からのバイブルで、本がボロボロになるまで読んで、今でも大切にもっているほどです。それくらい、人間の歴史が好きなんです。
過去の人を勉強するか今の人を勉強するか、どちらかができる大学に行こうと思って進路を決めました。そこで、世界中から学生と教員が集まる環境で、現代のグローバルリーダーについて勉強できると考えて、「グローバル人材マネジメントコース」という専攻がある立命館アジア太平洋大学を選びました。
歴史を見てみると、すごいことを成し遂げた人というのは、本当に千差万別でいろいろな人がいることがわかります。子供の頃から「これだ!」という強い信念や決意をもっていた人もいれば、フワッとしていて周りに流されていただけの人もいます。
賢い人や強いリーダーシップをもっている人が、必ずしもリーダーになるわけでもありませんし、もちろん賢く強いリーダーシップをもっていたから、世の中を変えることができた人もいます。
「歴史上の偉人と呼ばれる人は必ずこういう人だ」と言い切れることはありません。誰にでもリーダーになったり、何かを変えたりすることができると思っています。ということは、研究や教育で出会ったビジネスパーソンや学生が世の中を変えるリーダーになるかもしれません。そういう出会いを期待できることが、人材研究のおもしろさではないでしょうか。
▼本日より「NIKKEI STYLE 出世ナビ 【フロンティアの旗手たち】」で碇さんの連載が開始しました。
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