ファーウェイは、なぜ米国の制裁を受けながらも成長できているのか?
ファーウェイの売上、利益推移を確認すると、
え、こんなに早く回復しているの?
そもそも、過去10年でこんなに成長し続けているの?
と驚きました。
独自のビジネスエコシステムを設計
成長の中身をみると、さらに驚きです。
ファーウェイは、米国の制裁で一時的に業績を落としたものの、ビジネスモデルやサービスは逆に大きく進化させています。
ここら辺、日本企業がやりたかったことですよね…
1. 独自OS開発からエコシステム設計
自社独自のHarmonyOSと取り巻くエコシステム設計
iOSやAndroidに依存しないファーウェイエコシステムを設計しています。
2. 自前で調達→低コスト・高品質の商品設計を実現
米国に制裁を受けた後に(その前から)半導体チップも自前で調達するエコシステムをつくっていて、だからこそスマホも低単価で高品質の設計ができている、
2021年8月30日の記事ですが、制裁後に中国国内の調達に一気に切り替えが完了していることがわかります。
3. 5GやAIの独自技術を進化させて、事業領域を拡張へ
長年の研究から、5.5GとAIを組み合わせて、車、携帯、通信の次世代のインフラ設計を担う立ち位置をとっています。
スマホだけではなく、EV(電気自動車)領域を中心に、次の成長の準備が整っている…
EV(電気自動車)は欧州ヨーロッパの市場に価値提供していくフェーズになっており、トヨタもパートナーとして提携しています。
ファーウェイの強さの裏側は?
米国の制裁は、ファーウェイにとって描いていた戦略・ビジネスモデルを覆される事件だったはずです。
大きな危機に対して、ここまで周到な準備と適応ができた裏側が気になってきました。
ファーウェイの組織づくりは、優れた戦略意思決定を行うためのヒントが詰まっていました…
こちらの本を読んでみました。
とても良かった、もっと早く読みたかった本でした。
ポイントをまとめます。
ポイント①戦略を批評するチームをつくる
言葉づかいがとても中国らしさが出ていますが引用します。
まとめると、
・ファーウェイ内部に「青軍部」と言われるチームを設立する
・青軍は経営戦略や技術開発の方向性を観察し、逆転の発想でひたすら批評する
・組織内に意図的に内部で議論を巻き起こし「戦略の意思決定を間違えない」ようにする
つまり、大企業病にならない仕組みをつくっているとのこと。
当然、組織の規模が拡大すれば、戦略の意思決定は過去の延長線上や、権力構造の中で歪んでしまうことが多くあります。
このファーウェイの、組織内で健全な批評が生まれる仕組みは「大きくなっても強い組織」「危機にも強い組織」になっているのだと感じます。
ポイント②競合を徹底的に徹底的に研究し尽くして倣う
ファーウェイは競争相手を教師として学び、良い点をすぐに取り入れる姿勢が大切にされているとのことです。
ベンチマークのレベル感が違いました…
当時に通信領域で世界シェアをとっていたエリクソンから徹底的に学び、組織内部の仕組みを磨いていった様子が紹介されていたのですが下記の通り。
エリクソンの生産性と財務マネジメントのスタイルを模倣
・ファーウェイは自己の生産性をエリクソンの生産性と比較し、各部門に改善を促す。
・財務マネジメントにおいてもエリクソンの実践に基づき、スローガン「5つの1」を掲げる。
・「1日前処理」、「1週間の準備」、「1か月の製品配送」、「1分間のソフトダウンロード」、「1か月の検収」を目標とする。
エリクソンの展示ブースからの学び
・創業者の任正非はエリクソンの海外展示会のブースを自ら視察し、エリクソンの顧客のペインポイントを見極めた営業スタイルを評価
・ファーウェイの展示ブースは改善が必要であると社内で共有し、即改善をする
そして、通信事業において、エリクソンを抜き去りました。
このファーウェイの徹底して先行事例から模倣する姿勢は見習いたいところです。
※参考
中国の徹底した模倣戦略を学ぶのには、模倣の経営学で有名な井上達彦さんの下記の書籍がオススメです。
ポイント③会社が生き残るためにスペア(予備)タイヤを構築する
世界的に話題となったアメリカのファーウェイ制裁。冒頭にも触れた通り、この大事件にも事前に準備を行なっていました。
制裁で半導体チップが入手できなくなってしまった…
その直後に100%出資の子会社ハイシリコン製品を「一夜で正規なものとして採用に切り替えた」対応をとったようです。
創業者の任正非このように述べています。
目先の利益追求ではなく、未来の発展と備えのための研究開発に投資し続けており、このような対応が取れたようです。
独自OS構築も同じくですが、常にスペアタイヤを用意する考えと、外部環境を常に読むとはこういことか…と考えさせられました。
そして、これらの自社技術の蓄積がスマホだけでなくEV技術でも世界をリードする存在になっていることにつながっていることが理解できました。
ポイント④天才が働きたくなる組織風土をつくる
最後に組織の文化や仕組みの話です。
ファーウェイの組織には、科学技術の外交官と呼ばれる20名ほどの技術エリートチームがあるようです。
彼らは1年の3分の1の時間を強制的に割いて、世界中の大学やハイエンドな科学フォーラムに参加し、トップクラスの研究者たちと交流することが推奨されている(ミッションとして課せられている書き方でした)とのこと。
そして、この外交官が持ち帰った新しい技術や思想をもとに、戦略に関する意見交換会を開催し、必要な投資意思決定を行う仕組みになっている。
天才は組織に縛りつけない
さらに、優秀な人材については「スピード入社、スピード退社もよし」とする。その人材の人生を縛り付けることはしないという考えを組織全体に浸透させている。
現場経験を重んじるファーウェイではあるが、天才には天才が活躍できるフィールドや制度をつくっており、この仕組みがイノベーションを生み出し続けることにもつながっている。
中国企業は優秀な技術者を金で買っている…といった表現がされることありますが、ファーウェイに関してはそんなことなく、組織の仕組みや風土づくりでカバーしていることを理解しました。
まとめ
ファーウェイの戦略ポイントを簡単にまとめてみました。
まず、ビジネスモデルのエコシステム構築の視点です。
通信・ハード・ソフトを統合+基盤となる技術開発を行い、現代に求められる「スマートエコシステム構築ができる価値設計」につなげていることがわかります。
大きなビジネスエコシステムの絵が描かれた上で、リスク管理や技術投資の意思決定が行われていたことがわかります。
この意思決定を支えてきたのが、大企業病を回避し、イノベーションを起こし続ける組織の仕組み・風土設計だったと理解できます。
ファーウェイから学べることは何か?
2012年時点では、ソニーがスマートフォンの市場シェア3位を争う記事も出ていました。
現状はどうでしょうか。
Apple・iPhoneを大歓迎して終わった日本の携帯メーカー、EV化も遅れ気味
Apple・iPhoneのシェアを奪い返して、さらにEV領域まで先を走るファーウェイ
この違いが何か、何を学べるのかを考えるのに、ぜひオススメの1冊です。
今後、中国企業のマーケティングトレースも積極的に行っていきたいと思います。