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規制緩和される電動キックボード共有サービスの利用特性

 バスや地下鉄など公共交通の代替となる移動手段としては、1人乗りで近距離移動ができる乗り物としてマイクロモビリティ(超小型モビリティ)が世界的に注目されている。従来は、法律により公道を走行することの制約が厳しかったため、需要は限られていたが、コロナ感染対策として3密を避けることや、マイカー通勤者を減らす目的から、電動のマイクロモビリティは世界的に規制緩和される方向にある。

その中でも、電動キックボードは「駅から目的地まで」というようにラストマイルの移動をカバーする乗り物として世界の市場規模が年率12%のペースで成長している。日本でも、時速20km以下の電動キックボードが「特定小型原動機付自転車」という新しい車両区分に指定され、16歳以上であれば免許不要、ヘルメットの着用は任意とする道路交通法の改正案が衆議院で可決(2022年4月)され、2年以内には法改正が行われる見通しだ。

電動キックボードは、軽量で取り回しがしやすく、狭いスペースにも駐輪できるため、自転車のレンタルサービスが難しい自治体では、キックボードのシェアリングサービスが検討されている。国土交通省でも、公共交通機関を使わない新型の輸送サービスとして、電動キックボードを活用したモビリティサービス導入の補助金制度を、昨年度の予算で実施している。

新モビリティサービス推進事業に係る公募(国土交通省)

現状の法律(改正前)では、電動キックボードは原付バイクと同じ扱いとなり、ナンバープレートの取得、運転免許、ヘルメットの着用義務などがあるが、2021年4月からは、国の指定を受けた地域では、ヘルメット不要で公道での電動キックボード共有サービスの実証実験を行えるようになっている。

電動キックボード実証実験の特例(警視庁)

【国内検証実験サービスの動向】

株式会社Luup(ループ)は、電動自転車の共有サービスに加えて、2021年4月からは上記の特例制度を活用して、東京都内の約200ヶ所を中心に電動キックボードの実証実験も行っているスタートアップ企業で、2022年5月にはフジサンケイグループの不動産会社、サンケイビルからも出資を受けている。

Luupのサービスは、利用者が専用アプリをダウンロードした後、最寄りのポート(専用駐輪場)を探して電動キックボードを無人でレンタルする。運転免許の登録や乗り方の確認をした後、アプリ上で目的地付近のポートを設定すれば、交通ルールに則った適切なルートがナビゲートされる。返却ポートでは、駐輪した写真を送信することでレンタルが終了する。

レンタル料金は、利用1回毎の基本料金として50円と、1分あたり15円の時間料金が課金される仕組みで、10分間の利用であれば合計200円になる(基本料金50円+時間料金150円)。実際にどんな使われ方をするのかについては、検証実験の中で分析されていくが、2018年頃から電動キックボードが普及している米国では、新交通手段としての役割と問題点が明らかになってきている。

【米国電動キックボードの利用特性】

 米シカゴ運輸局では、2019年~2020年にかけて電動キックボードの実験プログラムを行い、その利用状況をレポートとして発表している。同プログラムには、米国大手の電動キックボード共有サービスである Bird、Lime、Spinの3社が参加して、シカゴの地域内に合計で1万台のレンタル用キックボードが設置された。

1日平均では約4391回の利用があり、レンタル可能な台数に対する1日の稼働率は59.2%。1回あたりの平均移動距離は2.1マイル(約3.4km)、平均利用時間は18.5分という結果が報告されている。レンタル料金の設定は、基本料金が1ドル、1分あたりの時間料金が0.39ドルに設定されたことから、1回あたりの平均利用単価は約8ドルとなった。この料金設定については、約半数が満足していると回答したが、残りの半数からは「高い」という不満が出ている。

利用者の年齢は34歳以下の若い層が72%を占めており、レンタルの用途は「友達に会いに行く(34%)」「走行して楽しむ(33%)」「レクリエーション活動に参加する(31%)」などレジャー目的が多く、通勤用途で利用するのは16%と低い結果になっている。

2020 E-SCOOTER PILOTEVALUATION(米シカゴ運輸局)

電動キックボードが新たな乗り物として認知している米国でも、乗り方のマナー、駐輪場所、料金設定、メンテナンス費用などの面で解決すべき問題は山積しており、共有サービスが事業として軌道に乗っているわけではない。乗り方に慣れてしまえば、電動自転車よりも便利な移動手段になるが、キックボードに関心の無い住民からは「シカゴの交通サービスとして認めるべきではない」という意見もあり、世論も二極分化している。

キックボードは、有効に活用すれば近距離の移動時間を短縮することができ、将来的には複数の交通手段を柔軟に組み合わせて、目的地まで最短時間での移動を実現する「MaaS(Mobility as a Service)」の一部に組み込まれていく可能性が高いとみられている。ただし、MaaSが本格的に普及していくのかは、また別の議論になっている。

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