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「いつでもどこでも仕事」がマイノリティーではない時代

手さぐりのワークライフカオス

約13年前、2008年、第1子の産休育休からリクルートに仕事復帰した私は、「時間制限がある。今までと同じ長時間労働はできない。でも、どうやって今までと同じ成果を出していく?」と考えていた。その時の結論は、①クライアントワークではない仕事を選ぶ②在宅勤務に挑戦すること でした。
当時のリクルートには(今もあるかもですが)キャリアWEBという社内転職制度みたいなものがあり、各部署からの求人票が並んでいた。
そこに「じゃらんリサーチセンター研究員、実験的に、リクルート社として初めての”在宅勤務可能”」とあったのだ。私は飛びついた。
当時の私は鎌倉に住んでいて、鎌倉から東京の通勤で、保育園お迎えに間に合おうと思えば、午後4時半に会社を出なくてはならない。いくら生産性を高めたとしても、とてもじゃないが、産前と同じ成果は出せそうになかった。

2008年、在宅リモートワーク開始。生産性は高い。しかし世間的には「超・マイノリティ」

希望のじゃらんリサーチセンター研究員としての育児と仕事の両立生活が始まった。私にとっては、生産性を極大化する「攻めの在宅勤務」のつもりだったし、在宅の日は週に1-2日だったが、世の中はそうは見てくれなかったので、地味な苦労は数多くあった。例えば、保育園に子供を預けにいき、在宅勤務のため自宅に戻ろうとすると「お休みの日なのに子供を預けているらしい」と見られる。保育園から漏れた人から市役所に、「あそこのお母さんは、保育園に子供を預けて自宅で休んでいるらしい。あの人が入れて私が入れないのはおかしい」とクレームの電話が入るほどだった。そのため、ランチタイムにコンビニに出かけることもできない。在宅勤務の日はカーテンを閉め切り、昼食はあらかじめ用意して家に閉じこもり宅配便が来ても出ない。徹底的に居留守を決め込んだ。在宅勤務だからと、ノーメイクで保育園に送っていったら、保育園の先生に「あら?お母さん、今日、ちょっと雰囲気が違いますね」と指摘された。保育園の先生といのは、職業柄、言語以外から何かを感じ取る能力が高い。さすがである。在宅勤務の日に保育園に子供を送るときは、なるべく身なりが変わらないように気を付けた。
上司や近い同僚はそんなことはなかったが、悪気なく一般社員からは「加藤さんは第一線の仕事を降りた」と思われていた。鎌倉の海沿いに住んで、子育てしながら在宅勤務、では、当時はしょうがないかもしれないと思い、「え?在宅勤務なのに頑張ってるの?」など見当はずれのことを悪気なく聞かれても曖昧に笑っておいた。心の中では「成果でお見せします」と思っていたけれど…。そんな時期に立ち上げたプロジェクトが以下の記事である。この頃は、在宅以外でも移動中でも、子供を寝かしつけた後の夜中でも、どこでもいつでもPC1つ、電源と電波を探して寸暇を惜しんで仕事をしていた。公私が混在した日々だったので、私の場合、ワークライフバランスではなく、ワークライフカオスだった。逆にいえば、それが許されなければ、その後、生まれた第2子とあわせて、二人の乳幼児の育児と以下の仕事の両立は、できなかっただろう。私のキャリアは、「いつでもどこでも仕事」できることによって成り立っていたが、この働き方は、まだまだ社会の中では、とても「マイノリティー」だったのだ。

2016年、WAmazing起業。採用の力になった

2016年7月、じゃらんリサーチセンター主席研究員 兼 管理職だった私は、まさに一念発起(;'∀')で、WAmazingを起業。共同創業者はリクルートで一緒に働いていた仲間だったが1人もエンジニアがいなかった。インバウンド旅行者向け観光プラットフォームサービスを提供しようとしているにもかかかわらず、だ。一生懸命、口説いて、CTOが決まり、その後、第1号エンジニアの採用が決まった。自宅は茨城県にある彼の条件は、在宅勤務を認めてほしいというものだった。私は自分自身がリモートワーク経験をしていたこともあって、快諾した。立ち上げ期なのでオフィスにも来てほしいということで、週1,2日の在宅リモート勤務をOKしたところ、彼はWAmazingに入社してくれ、主力エンジニアとして活躍。今も、WAmazingの開発の中心的存在だ。「いつでもどこでも働けることを認める」というのは採用力にもなるんだ、と思った時だった。

2020年3月~、コロナ禍の直撃

2020年3月26日、ちょうど小池都知事が会見で「ロックダウン」という言葉を使い始めた時、WAmazingはフルリモートワーク体制に移行した。それまでは、「基本は出社。リモートワークも認める」という状態だったのだが「基本はリモート。必要な時は出社」に切り替わった瞬間だった。WAmazingはインバウンド旅行者向けサービスのため、コロナ禍は売上直撃で、2020年4月の売上は2020年1月に比べ98%ダウンとなった。
その後、コストダウンのため4月末にはオフィスの全面退去を決断する。

2020年4月~取引先のオンライン会議対応が追い風に

WAmazingは観光業で、取引先は日本全国に存在する。今までは対面営業、打合せが基本で、出張が非常に多かった。どちらかというとアナログな業界でもある。それが一気にオンライン会議対応ができるようになった。コロナ禍が長引くにつれ、どこもオンライン会議ができるよう対応しなければ、仕事が進まないからである。WAmazingは減少した売上を補填するため、新たに自治体向けコンサル事業を立ち上げていたが、沖縄でも北海道でも1日に何件でもオンラインで商談ができるおかげで、コンサルティング・受託案件はかなり順調な伸びを示した。生産性は飛躍的に向上したと言える。


2020年11月~採用再開、日本全国から優秀人材を採用可能に

新規事業が順調に売上を伸ばしていたことと、既存株主の支援、新規株主からインバウンド市場の未来を信じていただけたことで、WAmazingはなんとか資金調達に成功。コロナ禍のインバウンドベンチャーがこのタイミングで資金調達できたのは、本当にある意味、奇跡的であった。

そうなると、ベンチャーの常として新規採用再開である。まだインバウンド需要の回復時期は見通せないため、プラットフォームサービス側の人員採用ではなく、売上を伸ばしつつある自治体コンサル・受託事業側の採用を再開した。奇しくも大手旅行会社が次々とリストラを発表したり、希望退職者を募ったりしているタイミングのため、優秀人材に多く巡り合えた。今までは、「基本リモート勤務。ただし、何かあったら出社できること」などを採用条件としていたが、ここから遠隔地採用もはじまっていく。
沖縄、鹿児島、青森…など全国各地から新しい人の入社が決まっていく。
「いつでもどこでも働けることを認める」ということが、採用の範囲を日本全国、場合によっては全世界に押し広げた。

2021年~、ワーケーションに積極的にトライする

今、WAmazingは「雪国観光圏」と「首都圏のスタートアップ企業群」を結びつける「ワーケーション事業」も手掛けている。

スタートアップ企業には、IT系企業が多く、まさにパソコンとネットワーク環境さえあれば、いつでもどこでも働ける人が多い。比較的、「新しい働き方」にも柔軟で、早い段階で取り入れる。その後、大企業に波及していく可能性も高い。またコロナ禍で、コスト削減のためオフィスを縮小したり退去したりする動きも活発なのがスタートアップ企業だった。こうしたスタートアップ企業群とコロナ禍に苦しむ地域を結びつける事業も実施している。今回は、雪国観光圏と実施した。

ワーケーションに対する首都圏スタートアップ事業の反応は?

52社の首都圏スタートアップ企業群に定量調査を実施したところ、リモートワークでの課題は、「1位:社内の人とのちょっとした相談、雑談がしづらい」「2位:運動不足やストレスにより自身の体調管理がしづらい」であった。また、コロナ禍における理想的な働き方は、「1位:地方やリゾート地で一定期間仕事をしたい」「2位:海外に移住して仕事をしたい」であった。また実際に雪国観光圏の体験では、「温泉」が最も⼈気を集め、次いで、「本格フィンランドサウナ」「囲炉裏チャット(囲炉裏端でのおしゃべり)」などチームワークやコミュニケーションにも役立つコンテンツが支持を集めた。(写真は、雪野原でワーケーション中の私…。あ、さすがにこれは少し、おふざけです。キーボードを打つ指先がかじかみます)


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地方も期待する新しい働き方による「人の分散」

戦後一貫して東京や都市部に労働人口が集中してきた。地方にとっては、税金をかけて保育・教育をした若者層が、いざ働く段階になると東京などの都市部に吸い取られてきたのだ。地方部にとっては人口減少とは、少子高齢による「自然減」よりも、進学・就職・結婚によって特に若年層が県外に流出する「社会減」のほうが圧倒的に深刻であった。
コロナ禍で、都市部への密集に歯止めがかかり、今後、人々の価値観変化も加速し、人の分散化を進められないかという期待が大きくなっている。
淡路島にパソナが本社移転するというニュースは世間を驚かせたが、今後こうした動きも活発化するかもしれない。

「日本全国旅する会社」へ

私もまた、「隗より始めよ」ではないが、WAmazingはせっかく日本の地域の魅力を伝える事業なのだから、東京に固執せず「旅する会社」に挑戦したいと思っている。


#日経COMEMO #この5年で変化した働き方

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