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孤独を感じさせないリタイアメント・コミュニティの老後生活

 日本の高齢者政策では、老人ホームやグループホームなどの整備を進めているが、そこに自ら入居を希望する人は決して多くない。重度の介護が必要なケースや、家族に面倒はかけたくないという気持ちから、やむを得ず入所するというケースが大半である。住宅のハコモノだけを整備しても、高齢者にとって幸せな環境を作ることはできない。

対して米国では、30年以上前から「自然発生的なリタイアメントコミュニティ(Naturally Occurring Retirement Communities(NORC)」が、高齢者が生活しやすい環境としてのキーワードになっている。

これは、古い住宅街で次第に高齢者の比率が高くなり、自発的に引退者や高齢者のコミュニティが形成されていくことを意味している。米国では、高齢者は子供世帯と同居することなく、これまで住んできた家に留まることを希望するため、独居や老夫婦だけで暮らす高齢者同士が助け合う関係が出来ているのだ。

NORCのコミュニティ内では、生活協同組合のような組織が形成されるようになっている。マイカーの運転をしない高齢者が、買い物に出かけるための“乗り合いバス”を共同で運行させたり、食事宅配サービスとの団体契約、健康維持や急病時に対応した診療サービス、隣人と交流できるレクリエーションやカルチャー教室などが運営されている。

このようなNORCプログラムは、行政が助成金を支給する形で、運営を支援しており、独り暮らしの高齢者でも、孤独や不便を感じることなく、快適に生活できるコミュニティが形成される地域は、不動産の資産価値も下落幅が少ない。ニューヨーク州では、行政がNPOや民間業者と協力する形で、1980年代からNORCの組織化を進めており、現在は40以上の地域でNORCが運営され、5万人以上の高齢者をサポートしている。

行政にとっても、NORCを支援することは、新しいハコ(高齢者施設)を作るためのコストを抑えて、高齢者が住みやすい環境を整備できるメリットがある。特に、地域全体や集合住宅内で8割以上が高齢者となっているケースでは、NORCの組織が作りやすい。

高齢者向けサービスを提供する業者は、各地域のNORCとの提携を進めることにより、個別に営業するよりも効率的な顧客開拓ができる。サービス料金は団体割引で安くすることができるため、高齢者にとっても、コミュニティ内で暮らすことのメリットが大きくなる。

【高齢者セレブの新たな生活スタイル】

 リタイアメントコミュニティの開発は、民間企業が手掛けるビジネスとしても注目されている。米国では、ゴルフ場、スイミングプール、テニスコート、フィットネスセンターなどを併設した高齢者住宅を建設して、食事やハウスキーピングなどの付加サービスがあり、各種のイベントを通して隣人との交流も活発なシニアリビングの形態が、ミドルクラス以上の高齢者に流行っている。

「55+シニア・アパートメント」や「インディペンド・リビング」などと呼ばれ、まだ介護の必要が無い、60代以降の人達がマイホームを売却して、こうした施設に移住しはじめているのだ。入居に必要なのは、最初の入所費に加えて、住宅の家賃、食事、その他のサービス料として月額料金を払っていくシステムだ。

日本の老人ホームのように、共同生活をするのではなく、プライバシーが守られた、戸建やマンションの区画で自立した生活をしながら、独り暮らしでも困らない付帯サービスを受けることができる。

米国は格差社会のため、施設のグレードによって金額の設定はピンキリだが、入所費は2万ドル以上、月額料金は2,600ドル(約30万円)が平均値となっているが、月額5,000ドル以上の高級施設も少なくない。

統計的にみれば、老後に独り暮らしをするのは、夫に先立たれた女性の割合が高いことから、こうした施設は、女性向けに設計されているものが多いのも特徴である。

米国でリタイアメントコミュニティが成功している要因としては、日本人と比べて社交的で、高齢になっても新たな友人や人間関係を作ることに前向きな人が多いことも関係している。老後を心豊かに暮らす上で最も大切なのは、自ら孤独に陥らない、人間関係であることは世界に共通した法則である。

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