良い戦略とは何なのか?-ストーリーとしての競争戦略を読み返したメモ-
年末年始に『ストーリーとしての競争戦略 優れた戦略の条件』を読み返していました。
戦略に関心がある人は一度は手に取ったことであろう名著ですね。
戦略を考えることの面白さ、奥深さを教えてくれる内容。
戦略とを考えて組織を動かせている状態とは?
良い戦略と悪い戦略を分けるものは何なのか?
ちょうど戦略の重要性を感じて、学び始めた時に出会ったのが、『ストーリーとしての競争戦略』で自分にとって思い出深い1冊です。
2020年。
コロナにより外部環境が急激に変わり、不安定な世の中になり、戦略ストーリーをつくり直しが必要とされている。
改めて、良い戦略、美しい戦略とは何かを整理して、2021年、たくさんの人・組織が戦略を描くヒントになれば幸いです。
戦略ストーリーのゴールは『持続的利益』を生み出すこと
最初に考えていきたいこと。
そもそも戦略ストーリーは何のために必要なのか?
頭の中に入れておきたいのは、こちらの図です。
ストーリーとしての競争戦略の中でも紹介されている図解を、自分なりに要約してみています。
イメージはサッカーです。
戦略ストーリーは最終的に『ゴールを決める』
ゴール
=持続的利益
です。
ゴールを決めるためには型があり、構成要素はこの4つです。
持続的利益を生み出すストーリーの4要素
①クリティカル・コア=一見非合理な打ち手を考える・実行する
②SP+OCでストーリーの構成要素をつくる
③人間の本性を捉えたコンセプトに集約する
④WTP(Willing to pay)顧客が支払いたいと考える金額を増やす
↓
ゴール=持続的な利益を生み出す
この①~④は結局のところ何をすることなのか?
をこの後にまとめていきます。
①クリティカル・コア=『一見非合理』な打ち手を考える
良い戦略には『非合理性』が重要。
なぜ非合理な打ち手が必要なのか?
一言でまとめると『差別化』を生むため。
戦略は、合理的過ぎると「誰でも真似する戦略」になります。
合理的に説明できることであれば、みんなやった方が良いことは理解できます。
戦略には『違い』が必要です。
戦略の本質は「違いをつくって、つなげる」こと
違いをつくるためには、非合理性が必要になります。
優れた戦略の条件
競合他社から見たら
「なぜこんなことに時間とお金を使っているのか!?(笑)」
と思われるような打ち手があること
これがクリティカル・コアと表現されているものとなります。
イノベーションを生むアイデア3つの条件
ここから非合理的な打ち手の考え方を掘り下げていきます。
いつもヒントを頂いているのは、ビジネスデザイナーの濱口秀司さん。
濱口さんは、イノベーションを生むアイデア3つの条件で下記3つを挙げられています。
イノベーションを生むアイデア3つの条件
1.見たこと、聞いたことがない
当たり前だが、以前に見聞きしたことのない、新しさがあること。
2.実行可能である
1の要件を満たしたうえで、与えられた範囲と期間で実現できるものであること。
3.議論を生む
賛成意見と反対意見が必ずあり、合意が形成されないこと。
濱口さんはどんなプロセスからイノベーションを生むアイデアを考えているのでしょうか?
こちらの新R25の動画で話されていることを引用して、プロジェクトの中でどのように非合理的なアイデアを考えるのかを整理していきます。
プロジェクトに入って一番最初にサーチをするのは、
「なぜこういうアイデアが生まれるんだろう?」
「なぜこういう切り口で考えるんだろう?」
っていうこと
(みんなの)思考の傾向だとか
頭のなかで動いているシステムだとかエンジン
『どんな先入観があるんだろうか?』
っていうことをひたすらトラッキングするっていうのが
最初のプロセスです
重要なのはそのアイデアが『いいね』とか『悪いね』じゃなくて
『なぜいいと思うんですか?』
『なぜこれダメだと思うんですか?』
『なぜダメだったんですか?』って聞くと彼らの論理が見えてきますよね
そういうことを聞きながら
頭のなかでは思考傾向を探っていて
何年もやってきているプロ中のプロが出す
アイデアのつくり方の傾向を見つけ出すっていうのが
第1ステップの重要なところ
非合理な打ち手の考え方は、いきなり考えろ!と言われても難しいです。
ポイントは既存のアイデアを構造化して、意識的にズラしてみること。
濱口さんはマトリックスを描きながら「バイアスモデルを探る」と表現されています。
クリティカル・コアをつくるためのポイント整理
・戦略を考える時は、『非合理的な打ち手』を意識
・既存のアイデアや意見の裏側にあるバイアスを見える化する
・マトリックスで構造化してズラす・ホワイトスペースを狙う
一見するお非合理な戦略を考えて成功した事例としては、グッドパッチ土屋さんのnoteがとても参考になります。
②SP+OCでストーリーの構成要素をつくる
続いて、ストーリーの構成要素を考える・つくる、ことについてです。
ストーリーとしての競争戦略では、ストーリーの構成要素として、SPとOCの2つが紹介されています。
①SC=Strategic Positioning 他社と違ったことをする
②OC=Organizational Capabilitiy 他社と違ったものをもつ
図解します。
現実の戦略はSPとOCとの組合せであるのが普通です。そもそも一方が他方よりも「正しい」とか「強力な」論理だということではありません。優れた経営にとってはどちらも必要です。ただし、ここで大切なことは、それぞれが競争優位をもたらす論理が異なるということです。だからこそSPとOCという「違いの違い」について理解し、意識して戦略を組み立てることが大切になります。異なる二つのレンズを装着したメガネをかけることによって、初めてきちんと焦点が定まり、競争優位の本質が見えるのです。
SPは、戦略を考える時に馴染みある領域ではないでしょうか?
市場の中でどのようにポジションを築くか?を考える。
いわゆる「ポジショニングマップ」に落とし込むやつですね。
ただ、SPだけでは真の優位性はつくれない。
重要なのはポジショニングの裏側に
OC=Organizational Capabilitiyを接続すること。
ポジショニングの裏側を、どのような裏側の仕組みで支えるのか?
を考え抜くことが、戦略ストーリーをつくる上で重要ということですね。
戦略の構成要素整理
①ブレない戦略方向性、ポジショニング
②強い組織文化や価値観
③人的資源や磨かれた知識
内側の仕組みから優位性をつくる思考を学ぶためには有名な『ビジョナリーカンパニー』や、『知識創造企業』を読み込みたい。
こちらは無印良品の強さをSECIモデルと掛け合わせて書いたnote。参考までに。
③人間の本性を捉えたコンセプトに集約する
一見バラバラに見える打ち手も、全ては『顧客視点のコンセプト』に集約されている状態を目指すことが重要。
コンセプトとは、その製品(サービス)の「本質的な顧客価値の定義」を意味しています。本質的な顧客価値を定義するとは、「本当のところ、誰に何を売っているのか」という問いに答えることです。
コンセプト策定では、この3つを明確にする
①誰に?
②何を?
③なぜ?
それっぽいキーワードを選定して、コンセプトと表現してしまっていることがありがちです。
書籍の中で紹介されている企業のコンセプト例はこちら。顧客価値が明確に表現されています。
ブックオフ
『捨てない人のためのインフラを提供』
ホットペッパー
『生活圏内の事業者と消費者のための狭域情報誌を提供』
進研ゼミ
『子供を含めた家族コミュニティの学習を促進するコミュニケーションを提供』
これからのコンセプトは、顧客価値を考え抜くことから生まれます。
では顧客価値はどうやって考えるのか?
顧客価値を考える視点は『ジョブ理論』の考え方が参考になります。
ジョブ理論は、顧客がなぜ自分たちのサービスを利用する(雇用する)のかを下記の項目で整理します。
④WTP(Willing to pay)顧客が支払いたいと考える金額を増やす
WTP(Willingness To Pay)
顧客がお金を払いたいと思う水準
WTPを増やす
=顧客がこのストーリーに、お金と時間を使いたいと思ってもらう総量を増やす
と捉えています。
良い戦略は、独自性があるだけではダメで、WTPを増やすことに繋がることが重要です。
いつも頭の中に描いておきたいのは、こちらの図です。
戦略ストーリーのゴール=持続的な利益
①WTPを増やす
and
②コストを削減する
ここまで整理してきた持続的利益を生み出す4要素をまとめます。
持続的利益を生み出すストーリーの4要素
①クリティカル・コア=一見非合理な打ち手を考える・実行する
②SP+OCでストーリーの構成要素をつくる
③人間の本性を捉えたコンセプトに集約する
④WTP(Willing to pay)顧客が支払いたいと考える金額を増やす
そして
ゴール=持続的な利益を生み出す
戦略を考える
=持続的利益を生むストーリーをつくる→語る→実行する
このように考えられると良さそうです。
ストーリーとしての競争戦略で書かれている要素を身近な企業に当てはめてみると戦略思考の良いトレーニングになりそうです。
例えばユニクロの戦略ストーリーを簡単に要約してみます。
クリティカル・コア
・世界的なデザイナーとのコラボ
※カジュアルファッション分野に世界的に有名なデザイナーを起用
・カジュアルファッションでありながら一等地に旗艦店を出しブランドイメージをコントロール
SP
・低価格×ベーシック
・インナー領域を強化
OC
・機能性素材の研究開発(ヒートテック、エアリズムなど)
・SPAモデルの構築
・テクノロジー導入の速さ
・ファッションリーダーの起用
・チラシを中心にダイレクトマーケティングの強さ
・柳井社長のリーダーシップ→コンセプトがブレない
WTP
(例)
普段着全般は1万円前後まではユニクロで全て揃える
コンセプト
Life Wear
究極の普段着
特定のブランドが紹介されている記事を読んだら、戦略ストーリーを要約するトレーニングは積み重ねていきたいですね。
最後に:ストーリーの強さ・太さ・長さを確認する
ここまで戦略ストーリーの構成要素を整理してきたので、最後に、良いストーリーとは何かをチェックするポイントもまとめておきいます。
ストーリーには一貫性が重要で、その一貫性を構成する要素として3つ挙げられています。
1.ストーリーの強さ(robustness)
要素同士の因果関係の確実性が高い
2.ストーリーの太さ(scope)
構成要素間のつながりの数が多い
3.ストーリーの長さ(expandability)
時間軸でのストーリーの拡張性や発展性が高い
上記3つの視点で、
・ストーリーに一貫性があるか?
・ストーリーが進化していく仕組みになっているか?
をチェックするようにしたい。
戦略を考えること
=フレームワーク活用することではない
フレームワークはあくまで思考するための道具です。
重要なのは人や市場を動かす「ストーリー」があるかどうか。
ストーリーとしての競争戦略に感謝
改めて、戦略ストーリーという概念を、をわかりやすく、面白く整理してくださった楠木先生には本当に感謝です。
(noteに書いている内容で自分の解釈が間違っている部分があったら申し訳ないです。)
ちなみに、オーディブルでストーリーとしての経営戦略を3.5倍速で聞き、書籍で重要な箇所を確認すると、めちゃくちゃ効率よくインプットできることに気づきました!オススメです!
2021年は優れたストーリーを生み出すために、何度もストーリーとしての経営戦略は読み返そうと思います。
最後まで読んでくださりありがとうございました!