コロナでキャリアを捨てる転職市場の変化とスキル習得
世界ではコロナ禍で職を失う人が急増している。国際労働機関(ILO)が今年6月に発表した報告書によると、コロナを原因とした仕事(雇用)の減少は2021年に7500万人分、2022年も2300万人分になる。少なくとも2023年までは、コロナ前の雇用水準を取り戻すことができないと予測している。
コロナ禍の失業者は、会社都合による整理解雇の他にも、自主的に転職を考える人が増えているのが特徴である。これは、営業時間や残業時間の短縮で給与が減少していることや、仕事の感染リスクが高いこと、店の一時休業やリモートワークで「考える時間」が増えたことなどが関係している。
英国の転職情報サイト「Totaljobs」が、2020年5月にデータベース上にある27万件の求人広告と、100万件の求職者情報を分析したとことでは、新型コロナによる環境の変化により、英国労働者の10人に7人(70%)は、今とは別の業界で働くことを検討する可能性が高いと予測している。
これまでの転職市場では、自分の職歴や経験を活かした「同じ業界」への転職希望者が多かったが、コロナを転機として「異なる業界」へ転職希望者が増えているのが特徴である。一方、コロナ禍で求人需要が高まっている業界では、転職者の経験よりもスキルを優先する傾向が強い。つまり、コロナ時代に求められる新スキルにどれだけ適応できるかが、転職を成功させる鍵になる。
【アフターコロナで変わる働き方と収入の関係】
シンクタンクのマッキンゼー・グローバル・インスティチュート(MGI)でも、「The future of work after COVID-19」というレポートの中で、2030年までに転職希望者の数は、コロナ前よりも25%増えることを予測している。その多くは、勤務先を変えるだけではなく、新スキルの習得を伴うものになる。
これは、物理的に人との近接レベルが高い仕事ほど、ロボットによる自動化、オンライン化の技術が導入されて、低賃金化が進行するためである。そこには、ホテル、レストラン、空港、レジャー施設などで働く従業員の他に、銀行、郵便局などの店舗で行われてきた仕事、オフィス内の単純作業なども含まれる。これらに該当する労働者が、今よりも年収を高めていこうとすれば、新たなスキルを習得した上で、転職することが必要になってくる。
属性別にみると、米国で大卒未満の労働者は、大卒以上の者と比べてコロナ後に仕事を変えなくてはいけない必要性が1.3倍高く、女性は男性よりも3.9倍高くなっている。また、若年層のほうが、高齢層よりも転職の必要性は高い。
■The future of work after COVID-19(MGI)
一方、2030年までに需要が伸びる職種としては、特定業界の専門知識が高いことと、人との近接レベルが低い働き方(遠隔作業やリモートワーク)ができること、この2つのスキルをミックスできる分野に優秀な人材が流入しやすく、人気の仕事になっていく可能性が高い。
MGIでは、世界の主要国にある800以上の職業、2000の仕事内容を分析して、各業界でリモートワーク可能な職務の割合を以下のように算定している。どの業界にもリモートワーク可能な職域は存在しており、企業はその割合を高めていくことが、今後の業績を高めていく上での鍵になる。
2020年以降は、社会で求められる仕事の傾向が大きく変化している。LinkedInでは、2020年4月から10月の期間に需要が急拡大している仕事の特徴を分析して、15の有望職種をリストアップしている。
■LinkedIn Jobs on the Rise: 15 opportunities that are in demand and hiring now
《コロナ以降に需要が急拡大した職種カテゴリー》
○eコマースのスペシャリスト
○ローン審査の担当者
○ヘルスケアサポート
○事業開発とセールスのスペシャリスト
○ダイバーシティマネージャー
○デジタルマーケティングの専門家
○看護師
○オンライン教師、家庭教師
○デジタルコンテンツクリエイター
○パーソナルコーチング
○Web開発エンジニア
○メンタルヘルスの専門家
○Webデザイナー
○データサイエンティスト
○AIの開発エンジニア
需要が伸びている職種の1つとして、薬局の調剤業務では「ファーマシーテクニシャン」という職種が生まれている。従来の調剤業務では、薬剤師が処方箋の内容をチェックして、該当の薬剤を棚から取り出して、数量や重量を確認した後、患者に服用指導をして提供してきた。 しかし、薬剤師の責任は重いため、彼らの仕事をサポートするのがファーマシーテクニシャンの役割になる。
ファーマシーテクニシャンは、薬剤のピッキング作業、数量の確認、保険の請求業務などを担当する。米国では、薬剤師協会と連携した複数のファーマシーテクニシャン団体が設立されて、教育プログラムの作成と資格認定(民間資格)を行っている。また、2年制の短期大学(コミュニティカレッジ)に通うことで、同様のスキルを習得できる道もある。ファーマシーテクニシャンの年収は3万~4万ドルドル台が平均だが、病院の他に、ドラッグストアーや医薬品を置くスーパーなどにも求人枠が広がっている。
■ファーマシーテクニシャンのトレーニング映像(コミュニティカレッジ)
日本でも「調剤補助員(調剤助手)」という職種が生まれている。これは、厚生労働省が2019年4月に、薬剤師以外のピッキング業務を認める通達を出したことで合法化されたものだ。今のところ資格制度は無く、米国のファーマシーテクニシャンと比べると、担当できる業務の範囲も狭いが、今後は専門職としての価値を高めていく可能性もある。
これらの仕事は、学位を持たない大卒未満の学歴者でも、短期大学の夜間コースに通ったり、eラーニングコースを受講したりして、専門スキルを習得できる道筋が、米国では整備されてきている。アフターコロナの転職市場では、価値が下がるスキルと、価値が高まるスキルの二極分化が進むため、高年収を得るためには、新時代に適応したスキルの習得が不可欠となり、それに関連した職業訓練ビジネスも伸びていくことになるだろう。
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