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消えた労働者はどこにいった?人手不足が深刻化する理由と労働市場の急変

 飲食業界は、コロナ禍から徐々に景気が回復している中でも、アルバイト人材を確保できずに営業時間を短縮したり、休業を続けるケースが相次いでいる。リクルートが飲食店を対象に行った調査(2021年4月)でも、1年前と比べて人材不足が悪化したと回答する経営者は45.1%で、前年の調査よりも25%増えている。

出所:雇用マーケットは再び「人手不足」へ(リクルート調査)

人手不足の実態は、求人倍率のデータよりも現場のほうが深刻で、店舗存続の危機に直面している。求人媒体によるアルバイトの採用コストは、1人あたり5万円→6~7万円に上昇してきており、それでも時給が安かったり、勤務条件が悪かったりすれば、応募者がゼロということが珍しくない。個人経営の店では、店主の他に、家族がスタッフとして手伝ってくれないと、店を回していくことができないのが実情だ。

さらに、食材原価の高騰も経営の悪化に拍車をかけている。大手チェーン店のように大量発注で仕入原価を下げられず、メニューの値上げもできない店では、売上に対して、人件費+食材費の割合(FLコスト)が65%を超して利益を確保できない状況に陥ってしまう。そのため、既存店の中では、コロナ禍の休業協力支援金が打ち切られたタイミングで廃業を決意する経営者も少なくない。

このような事業環境の変化は、飲食業界に限った話ではなく、中小ビジネス全体に広がっている。これまでにも好景気、不景気の波はあったものの、働く人材が集まらずに廃業、倒産する事業者も増えていくのが今後の見通しだ。

【なぜ人手不足は深刻化するのか?】

 ハローワークが毎月集計する有効求人倍率だけをみれば、アルバイト・パート職の倍率は、コロナ前の2019年が1.71倍だったのに対して、2022年2月は1.21倍という状況で、人手不足の深刻さは見えてこない。しかし、実際には「働きたい職場」と「求める人材」のミスマッチが起きており、飲食業やサービス業で求める人材が集まらない状況は、コロナ前よりも厳しくなっている。その要因としては大きく3つのことが考えられる。

人手不足の1つ目の要因となっているが、店舗側が求める10代~30代の労働力が少子化によって減少していることだ。20年前には、35歳未満の就業者は2114万人いて、就業者人口全体で32%のシェアを構成していた。しかし、現在は35歳未満の就業者は1641万人で、就業者人口全体の24%にまで減少している。ちなみに、就業者の総人口は20年よりも現在のほうが増えているが、これは65歳以上でも働く人が増えているためだ。

2つ目の要因として、最近の若者は仕事のやり甲斐を求めて、人気職、不人気職の差が開いていることがある。リクルートワークス研究所では、賃金が同一条件と仮定した場合、どの職種を選ぶかという調査を1400人の労働者を対象に行っている。その結果によると、研究開発職、デザイナー、弁護士など、専門性の高い職種の人気度が高い。一方で、警備員、建設作業者、ドライバー、介護士など、過酷な現場作業が伴う仕事は不人気となっている。一方で、デスクワークの仕事は営業職を除くと、総じて人気が高い。

※出所:職業人気度についての考察(リクルートワークス研究所)

これらの結果は、「賃金水準が同じ」という仮定に基づいたスコアだが、不人気職の中では賃金が安い仕事が多く、応募者が少なくなるのは仕方がない。過去30年間の労働市場では、雇用主にとって「都合の良い人材」を非正規の低賃金で採用できたが、今後はそれが通用しなくなる。

【パート職からフリーランスへの変化】

そして3つめの要因として浮上してきたのが、フリーランスとしての働き方が身近になってきたことだ。時給制で働いてきた非正規労働者の中でも、個人事業として副業を手掛ける人達が増えてきている。これまではアルバイトを掛け持ちしてきたダブルワーカーが、副業に費やす時間を増やして収入アップを目指すようになれば、非正規スタッフの割合が高い職場では、人材不足が起きるようになる。

国税庁が毎年公表している「所得税標本調査」によると、令和2年(2020年)の確定申告による納税者数は657万人で、前年と比べると27万人(4.3%)の増加となった。その中、個人事業所得の申告者数は180万人で、10年前と比べると1.2倍に増加している。個人事業者の39%は、年間の申告所得が200万円以下であり、スモールビジネスを手掛けていることがわかる。

個人事業者の所得金額は、年間収入から必要経費を差し引いた額になるため、サラリーマンの年収とは異なり、申告所得が200万円でも年間売上は1000万円以上を稼いでいることもある。また、個人事業の収支が赤字の場合には確定申告をする義務は無いため、副業を含めた個人事業者の実数は、上の数字よりも多く、パート・アルバイトの労働人口(1455万人)を侵食しはじめている。

【米国で消えた労働者の行方】

 米国でもオミクロンやインフレの影響により、人材不足に悩む中小業者は多く、小売店や飲食店以外でもスタッフが集まらないことで、存続が危ぶまれる業界が多くなっている。人材紹介会社の「Alignable」が、2022年2月に6367件の中小経営者に対して行った調査では、6割以上の事業所が、すべての業務を遂行するのに必要なスタッフの数を確保できていない。その中でも重篤なのは、介護施設、マッサージ、美容室などのサービス業である。

Special Report: 60% Of U.S. Small Businesses Still Can't Solve Labor Shortage

米国では、法定最低時給が州によっては15ドルを超してきており、労働者にとっては好条件といえるが、それが人手不足の解決策にはなっていない。Alignableのレポートによると、地域別にみた人材不足が最も深刻なのはカリフォルニア州だが、同州の法定最低賃金は15.00ドルで、他の州よりも高いのだ。そのため、米国では「労働者はどこへ消えたのか?」という議論がされている。

この問題を解くヒントとしては、Indeed Job Search Surveyが5000人の米国成人を対象に毎年行っている就職活動の調査が参考になる。米国失業者の中でも、積極的な就職活動をしているのは、2021年11月の時点でも34.1%と停滞している。 一方、就職活動に消極的な失業者は、コロナ感染への恐怖は半年前よりも和らいでいるものの、配偶者の収入に頼る、親の介護問題、失業保険に頼るなどの理由で再就職を躊躇している。

これらの調査報告からは、労働世帯の中でも「経済的にひっ迫していない層」では、パンデミックを1つの転機として、従来の働き方を見直そうとする風潮が高まっている様子がうかがえる。

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