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現地企業よりも賃金の安い外資系企業で働きたい人間はいるのか?

ここに1つの求人広告があるとイメージして欲しい。

素敵な外資系企業の求人だ。スキルや経験をしっかりと求め、トップシェアの製品を持つ企業であるにも関わらず、給与や昇進などの条件面では現地企業よりも低水準だと言う。

さて、このような企業に貴方は働きたいと思うだろうか?また、優秀な人材が応募してくるだろうか?


日系企業は世界最低の賃金水準になりかけている

JACリクルートメントによるレポート "The Salary Analysis in Asia 2019" の内容が衝撃的だ。

同レポートの5ページ目にある「国際間の均等化が進むアジアの管理職給与」というページでは、日本を含む10カ国で、欧米系企業・現地系大手企業・日系企業での管理職給与の差を比較している。そこでは、マレーシアを除く9カ国で、日系企業の給与が最低年俸であるという結果を示している。

特に、インドネシアでは日系企業の提示額が悲惨な状況だ。欧米系企業と現地系大手企業の製造業営業系部長クラスの給与が600万円弱であるのに対し、日系企業の給与は約300万円と半分でしかない。

給与だけが働き先を決める要素ではないが、流石に同じ仕事内容で2倍も差が開いているというのは笑えない状況だ。

同レポートには中国のデータはないが、中国でも同じことが言えるようだ。筆者が深センの日系企業向けの人材会社でヒアリングしたときに、何が最も重要な課題かと聞いたところ、誰もが「給与」であると答えた。テンセントやアリババのような勢いのある企業ならまだしも、地元の伝統的な製造業と比べても日系企業が提示する給与は明らかに低いと言う。


給与に対する考え方が変化してきている

伝統的に、日本で語られてきた給与に対するイメージはおおよそ以下の通りだろう。欧米系企業は、給与をインセンティブと捉えるので管理職には高額の報酬を支払う。日系企業は、公平性を重んじるので給与水準は高くないが社内格差が小さい。そして、90年代のバブル崩壊後から、日系企業には給与は人件費でコストだという意識も付け加えられてきた。

アジアに展開する日系企業の多くが、人件費が安く、コストが低いことに魅力を感じて、生産拠点や物流拠点、マーケティング子会社などを設立してきた。そのため、アジアにおける日系企業の給与水準が低いことは、今に始まったことではない。

インドネシアにあるブラウィジャヤ大学のガニス教授は、日系企業がインドネシア人にとって魅力的な就職先だと考えられない理由として、人事システムに3つの欠点があるためだと指摘している。第1に、インドネシアの給与水準が低いことにばかり目が向いていて、給与や報酬は企業が従業員へ期待やモチベーションを高めるためのメッセージ・ツールであることを軽視している。第2に、昇格・昇進のスピードがあまりに遅く、日本企業のスピードに合わせていると、インドネシアの労働市場における価値が失われる事実を考慮していない。第3に、現地法人の要職を日本からの駐在員に占められ、経営に重要なことを日本語だけで話し合いをされるので経営参画ができず、モチベーションや帰属意識を高めるメリットがない。

このような現地従業員の不満は、それでも現地企業の規模が小さく、雇用の安定性が低かった時には重要視されてこなかった。突然解雇されることはなく、生活が保障されることのメリットがデメリットよりも大きかったためだ。しかし、アジア諸国が発展し、経済規模が大きくなるにつれて、日系企業に勤務するデメリットよりもメリットの方が小さくなってきた。今や、インドネシアは日本には1社しかないユニコーン企業が4社存在し、即席麺市場では世界シェア第3位のインドフード・スクセス・マクムル (第1位は台湾の頂新国際集団 、第2位は日清食品)を有するまでに成長を遂げた。

新興国の現地企業は、急成長する経済と共に、マネジメント・システムも猛スピードで進化させてきた。それに対して、日系企業は何十年間も抜本的な人事システムの改革を行わず、対処療法のマイナーチェンジでしのいできた。その結果が、現地企業の給与にダブルスコアを突き付けられる日系企業の給与・報酬システムだ。


日系企業の給与が低すぎるという問題は、海外だけにとどまった話ではない。国内でも問題視され、政府は何度も給与水準を上げるように求めてきた。それに対し、給与を上げるための収益構造の改善をまずは行わなくてはならないという回答をしてきたわけであるが、そのまま30年間も給与水準は変わっていない。

現在、外国人移住者を増やそうと言う議論でも、「高度な専門性を持っているなら、認めるようにしよう」という上から目線の意見が散見される。しかし、アジアから見れば、日本は既に魅力的な職場ではないかもしれないと危機意識を持つべきだろう。

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