まつもとあつし
物語がつなぐ緩やかな紐帯=関係人口
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物語がつなぐ緩やかな紐帯=関係人口

まつもとあつし

コロナ禍で生まれた移住の動きとその現実

「関係人口」とは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域と多様に関わる人々を指す言葉です。地方圏は、人口減少・高齢化により、地域づくりの担い手不足という課題に直面していますが、地域によっては若者を中心に、変化を生み出す人材が地域に入り始めており、「関係人口」と呼ばれる地域外の人材が地域づくりの担い手となることが期待されています。

総務省『関係人口』ポータルサイト https://www.soumu.go.jp/kankeijinkou/about/index.html より※扉画像もあわせて引用

これまで国、地方自治体は移住促進に力を入れてきました。またコロナ禍を受けて人口密集を避けて郊外に移住する動きも進みました。しかしその多くは東京のオフィスに週に数回の出勤が可能な近隣県への移住が中心で人口減少・高齢化が進む地域への移住という動きには繋がっていません。「コロナが心配だ」「現在の生活スタイルは可能な限り維持しつつ、より家賃や生活費が安い地域で暮したい」といった個人の動機と、「地域に活力と経済活性化をもたらしたい」という移住促進政策との間にはギャップがあるように思えます。

新潟市移住・定住情報サイト「HAPPYターン」 https://iju.niigata.jp/compare/ より

家賃や生活費の安さを求めての移住する人々を地域が奪い合うのは、得策とは言えません(見かけ上のコストが下がっても、同時に収入が下がってしまえば可処分所得は変わらない場合もあることにも注意が必要)。また里山の暮らしはたしかに魅力的ですが、そこで生きていくのには様々な覚悟(人付き合い・雪国ならば冬季の除雪・公共サービスが受けにくい、など)が求められます。補助金・交付金は一時的なものであることがほとんどであり、おカネや時間といった便益だけでは移住から定住につなげにくいというのが現実ではないでしょうか?

関係人口創出に欠かせない「物語」

そんな中生まれた比較的新しい考え方が「関係人口」です。ソトコト編集長の指出一正さんによると「観光以上、移住未満」「交流人口でも定住人口でもない第三の人口」として、2012年頃から現われはじめたと言います。

学術的にこの概念の整理を試みた書籍としては田中輝美さんの「関係人口の社会学」が挙げられます。

観光客などの「交流人口」の増加は、消費は支えるものの、住民自身が主体的に地域の再生に関わらない状況(「心の過疎化」)を打開しない。(中略)関係人口こそは、数が少なくても、スーパースターでなくても、地域再生の原動力となりうる。彼らの主体的な地域再生努力に巻き込まれ、いつしか自分から主体的に参画するようになる、そういう住民が地域内に出てくるからだ。…これが本書の分析の核心である。

関係人口の社会学 田中輝美著: 日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGKKZO73728830Z00C21A7MY6000/?unlock=1 より

一足飛びに移住(お試し移住なども含む)しても、定住に至るには様々なハードルがある。地域再生という所与の目的の達成を図るのであれば、何も定住でなくても地域と関係を持つ地域外の人々の力を借りれば良いのではないか、その中からその地域に愛着を覚え、地域からのニーズも確認した上で定住を図る人も出てくるはずだ、そしてそのことはその土地に暮す住民にも変化をもたらしていくーーというわけです。

本書のなかで、田中さんは「関係人口が生まれてきた社会学的背景には、ミクロレベルでのアイデンティティの揺らぎによる社会関係資本への希求と、マクロレベルでのモビリティの変化があると考えられる」(田中輝美.関係人口の社会学-人口減少時代の地域再生(p.76).大阪大学出版会.Kindle版.)と述べています。

モビリティについては、交通手段の発達・多様化はもちろんのこと、コロナ禍が明らかにしたように通信テクノロジーの進化もそこに更に期待を載せることになっています。そして、社会関係資本という観点からは「物語」の存在が欠かせないと私は考えています。

社会関係資本とは、他の人に対して抱く「信頼」や、持ちつ持たれつなどの言葉で表現される「互酬性の規範」、そして人々の間の絆である「ネットワーク」のことを指す言葉です。市場では評価されにくい「集団としての協調性」を生み出します。

社会関係資本(Social Capital)|幸せ経済社会研究所 https://www.ishes.org/keywords/2013/kwd_id000769.html  

ここで言う物語とは、小説やアニメと言ったパッケージとして流通するものではなく、もう少し広義の地域で暮す人々と、彼らと関係構築を図る地域外の人々との間で共有される「文脈」の集合体というイメージです。

社会関係資本をネットワークからとらえるのは比較的新しいことだが、ネットワークや信頼の持つ重要性の認識は、古くから人々の生活の中に刻み込まれていたことは間違いない。個人はそれぞれユニークで変幻自在な社会的文脈の中にあり、社会関係資本もそうした社会的文脈の中で昔から存在していた。これらの独自の社会的文脈を持つ集団や地域社会をコミュニティと呼べば、コミュニティこそ社会関係資本の苗床を形成している。

稲葉陽二. ソーシャル・キャピタル入門 孤立から絆へ (中公新書) (p.28). 中央公論新社. Kindle 版. より

ここで述べられている「人々の生活の中に刻み込まれた、ユニークで変幻自在な社会的文脈」が、地域外からやってきた人々からすると可視化されておらず、分かりにくいという一面もあります。それを体得し、コミュニティの中に入って行くには、それこそ映画『ダンスウィズウルブス』のように、粘り強く、時には衝突をしながら一定の信頼と評価を獲得していく必要があり、「スーパースターでなくても」というのは、実際のところなかなか厳しいのが現状です。

この社会的文脈を可視化・共有できるのが、小説やアニメなどパッケージングされた物語というわけなのです(続く)。

※この記事は日経媒体で配信するニュースをキュレーションするCOMEMOキーオピニオンリーダー(KOL)契約のもと寄稿しており日経各誌の記事も紹介します。詳しくはこちらをご参照ください。

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まつもとあつし
日経COMEMO KOL。ジャーナリスト・プロデューサー・研究者。新潟の小さな大学でメディア・コンテンツを教えています。 → http://atsushi-matsumoto.jp ※ヘッダー画像はうめ先生。同じ記事に繰り返し「スキ」を送信される方はブロックする場合があります。