
「需給」から「金利」そして「コロナ抑制状況」へ~変わる為替テーマ~
ドル/円相場は109円台に到達し、年初来高値を更新しています。その後、落ち着きを見せてはいますが、年初来高値圏での推移が続いています。元よりワクチン接種の効果を背景として行動制限の緩和が進み景況感が改善しているところへ、約1.9兆ドルの追加経済対策(しかも現金給付込み)が可決濃厚となっており、米10年金利は1.60%付近で高止まりしています。ワクチン接種ペースも、経済対策規模も米国に劣後し、結果として成長率見通しも劣後する円が対ドルで売られる展開にさほど違和感はありません。
端的に言えば、足許の為替市場のテーマは「金利」と「コロナの抑制状況」に見受けられます。2020年は経常黒字や貿易黒字もしくは対外債権といった「需給」の厚みが通貨買いに繋がっていました。それは主要通貨の多くについて「金利の無い世界」が成立する中、必然の展開でもありました。また、2020年は経常黒字があったとしても原油価格急落の煽りによって産油国通貨(ロシアルーブルやメキシコペソ、ノルウェークローネなど)は軟調な展開を強いられていました。これも原油先物価格がマイナスに転じるという異常な状況だったことを踏まえれば、また必然だったと言えます。
しかし、「需給の厚みが通貨買い」を支えるという2020年に見られた1つのトレンドはもはや崩れています。米国を中心として「金利のある世界」が復活する中(もちろん、歴史的には無いに等しい金利ですが)、取引材料としての主役は明らかに交代しています。昨年、実効ベースでドル相場を押し上げた人民元・ユーロ・円(この3つは世界3大経常黒字通貨でもあります)のうち、人民元はかろうじて対ドルの上昇をまだ維持していますが、ユーロと円はまとまった幅で下落している:
むしろ、年初来の為替市場を見る限り、経常黒字は年初来で下落している通貨の1つの特徴になっているようにすら見受けられます。2020年の反動がはっきり出ているということなのでしょう。1つのテーマの終焉を感じます。現在、対ドルで年初来上昇している通貨の中にも経常黒字通貨はありますが、そのうちノルウェークローネやロシアルーブルは原油価格の復調に後押しされたものであって黒字が評価されているわけではないのでしょう:
産油国通貨で経常黒字という意味ではメキシコペソも同一グループのはずですが、新型コロナ感染抑制のため行動規制が2月に強化された上、大統領の感染なども重なり敬遠されているようです。そのほか年初来上昇している通貨は英ポンドを筆頭にワクチン接種ペースを含め感染拡大防止策が奏功している国の通貨が目立ちます。英ポンドはG7の中で図抜けたワクチン接種回数を誇り、効果が目に見えて出始めています。これは前回のnoteでも議論させて頂きました:
オーストラリアやニュージーランドの通貨も対ドルで堅調ですが、この2か国は徹底した水際対策で知られる国です。感染抑制策が奏功している事実自体、当該国の景況感の改善と金利上昇を意味するため、そのような通貨が対ドルで大崩れせずに、むしろ上昇することに大きな不思議はありません。
円安は止まるのか
「需給」がテーマにならない限り、日本円が評価されることはないでしょう。今、テーマ視されている「金利」や「コロナの抑制状況」に関して日本が評価されるポイントは残念ながらなさそうです。もっとも、後者に関しては感染状況が諸外国対比で圧倒的に小規模にもかかわらず一部地公体の首長の恐怖扇動やこれに乗っかろうとする報道姿勢もあって、日本は不運な面もあるような気はしますが、ワクチン調達が遅れていることが円の評価に響いている面はどうしてもありそうです。ワクチン接種回数という最重要事項で日本はG7の中で圧倒的な最下位です。直情的な為替市場の特質を踏まえると、もはや下手をすれば「日本売り」というテーマが、一時的にでも浮上しそうな体たらくでもあります。
「金利」については3月8日、雨宮日銀副総裁が「緩和効果が損なわれない範囲内で金利はもっと上下に動いてもよい」と述べたことが話題ですが、上下どちらの方向の話をしているのか定かではありませんし、上昇方向の話だとしてもあくまで「緩和効果が損なわれない範囲内で」は「イールドカーブコントロール(YCC)の範囲内で」という意味なのでしょう。とすれば、円金利上昇が円相場の支えになることは考えにくいものです。結局、「金利」と「コロナの抑制状況」が為替市場で幅を利かせる以上、円が評価されるのは難しいというのが妥当な読みになってきそうです。