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中小企業の採用の未来①【採用のポートフォリオを作ろう】

企業の採用難は年々悪化するばかりであり、厳しい状況が長年続いている。特に、中小企業や地方都市に本社を構える企業にとって、採用の難易度は大都市圏の企業と比較にならないほど高い。このような状況から、内実や意味合いは企業によって異なるものの「人手不足」と「就職売り手市場」という現状は社会問題にもなっている。

「ハローワークや転職エージェントに求人を出しても応募が来ない。」「応募が来たとおもっても、思っていたイメージとは違う。」「新卒を採用したくて説明会に参加してみたが、誰も説明会に参加しなかった。」「やっとのことで内定を出したが、公務員になりたいといって辞退された。」

採用に関する悩みの声は尽きない。

このような状況の中、中小企業や地方企業はどのように採用活動を行っていくべきなのだろうか。今月は企業目線と市場目線の双方から考えていきたい。


今年、何人採用しますか?

採用活動を始めるうえで、まず始めに考えることは「今年、どのポジションに何人採用すべきか」だろう。人件費は大きな費用項目であるので、「優秀な人材なら何人でも雇いたい」とはならず、「優秀な人材なら給料に糸目をつけない」ともならない。限られた予算の中で、人材をやりくりしなくてならない。

そこで、重要となることは「どのような人材を何名、採用するのか?」について採用のポートフォリオを作成することだ。限られた人員なのだから、何でもやって欲しいという声が本音のところだろうが、仮置きでかまわないので目的の整理をして欲しい。なぜなら、採用の目的によって採用手法が大きく異なってくるためだ。例えば、リクルートワークス研究所の『戦略的採用論‐パターン別実践編‐』では、採用の目的に応じて4つのパターンを提示している。

第1の「OL」パターンは、採用した人材が組織の一員として日々の業務に貢献し、長期的に安定した成果を出すことを期待する。成果の源泉を組織に求め、競争優位を築くまでの時間を長期と想定している採用だ。具体例をあげると、サーバー管理などのインフラ系のシステムエンジニアやルートセールスの営業パーソンなど、組織の屋台骨人材として職務遂行能力の安定性が重視される人材だ。日々の業務を担う人材のため、ある程度の規模感を持った採用であり、欠員が出た時には即座に補充することが求められる。

第2の「TS」パターンは、採用直後から期待した役割を果たし、成果を出す即戦力人材の採用だ。新たに展開した海外事業所のマネジャー採用や、AIやロボティクスなどの事業戦略上重要な領域のエンジニア採用など、高度な専門性が求められる場合が当てはまる。実績や経歴、専門技能の有無が重視され、希少性の高い人材の採用であり、基本的には中途採用者が対象となる。

第3の「TL」パターンは、採用した人材に対して、個人が短期的な成果を発揮するよりも経験を積んだ後の長期的な(成長後の)成果を期待する。具体的には、次世代経営者候補への成長を期待する新卒採用や事業継承を目的とした中途採用が当てはまる。大人数を採用する必要がなく、現状の能力や過去の成果よりも、将来の活躍に向けたポテンシャルが重視される。少数厳選型の採用と言える。

第4のパターン「OS」パターンは、専門性の低い業務を担当し、職務遂行のために習熟を必要としない採用だ。このパターンは、アルバイトや派遣社員など、非正規社員の採用でよく見られる。担当する業務は標準化され、特別な訓練を必要とせずとも、最低限の成果を出すことができるように職務設計がされる。コンビニの店員や生産現場のベルトコンベアで働く工員などが具体例としてあげられる。

採用活動について、この4パターンのような人材ポートフォリオを軸として考えてると、採用の目的に応じて、募集と選抜の方法が異なってくることがわかる。また、「新卒」「中途」「非正規」のような雇用枠ではなく、「どのようなパフォーマンスを発揮することを目的とするか」で考えることで、「募集→選抜→職場適応→人材育成」と人材マネジメント上の諸施策に一貫性を持たせる軸とすることができる。

その上で、ポートフォリオの象限ごとに何人を採用しなくてはならないかを整理することで、「なぜ自社が人手不足に陥っているのか?」について、冷静に分析することができる。


採用ポートフォリオと採用手法にズレはないか?

採用ポートフォリオで考えた時に、採用手法と採用目的の間にズレが生じていることがある。このことは2つの原因が考えられる。

第1に、社会慣習として定型化された手法が選択される傾向にあるためだ。アルバイトならタウンワーク、非正規社員なら派遣会社、正社員ならハローワークや人材紹介会社など、雇用区分に応じて定型的な採用手法が選択される傾向にある。しかし、入社経路には多様な選択肢があるはずであり、定型的な採用手法はしばしば個別の採用の事情とそぐわないことがある。

例えば、中小企業が新卒採用をしようと合同会社説明会に参加したが、ほとんど学生が来なかったというのはよく聞く話だ。せっかく、数十万円の費用をかけて出展したにもかかわらず、学生と接点が持てなければ死に金だ。しかし、ポートフォリオで考えた時、新卒採用で確保したい人数に対して合同説明会に出展する必要性が本当にあるのだろうか。会社説明会は大企業のように一気に百名単位で採用するときには有効な手段だが、10人以下の少人数であれば、個別に学生へアプローチをかけた方が効率が良いケースもある。採用人数が少ないのであれば、自社の事業内容と近しい領域の研究を行っている大学教員と共同研究を行い、プロジェクトで良い働きをするゼミ生を口説く方法もある。また、自社の従業員の出身サークルや部活のスポンサーとなり、OB・OGから斡旋してもらう入職経路もありうる。教育機関へのスポンサーシップやOB・OGからの斡旋を採用に活用することは、日本では馴染みが少ないが、世界的に見るとよく見られる手段である。

第2に、雇用区分に固執してしまい、採用の柔軟性が失われるためだ。採用の目的から逆算して手法を考えると、人材の獲得方法は非常に多彩な選択肢がある。例えば、新たに海外市場へ事業展開ためのマネジャーを採用する時、即戦力の人材を中途採用しようとするが、なかなか良い人材と巡り合えないことがある。このとき、短期で成果を上げる「TS」パターンを重視するのであれば、無理に中途採用をするのではなく、フリーランスや他社のスペシャリストにダブルワークやプロジェクトに限定した短期雇用としてプロジェクトに参画してもらう方法もある。事業立ち上げという短期成果に対して特化した人材に任せ、同じプロジェクトに「OL」パターンの従業員をアサインすることで、希少なスキルを社内に獲得することもできる。このように希少なスキルを有する人材を「TS」パターンと割り切り、柔軟な働き方を許容することで、「OL」パターンの従業員に希少なスキルを身に着けさせるという流れは、シリコンバレーのハイテク企業を中心に世界中で広がっている。


まとめ

本稿では、採用に当たって、まずは雇用区分ではなく、採用の目的を起点としてポートフォリオを作成することの重要性について論じてきた。中小企業だと、限られた人員で職務をこなす必要があるため、採用目的を完全にポートフォリオで区切ることが難しいこともあるだろう。そのような時は、敢えて優先順位をつけるなら、どれが1番重要かを意識してもらいたい。

ポートフォリオで考える最たるメリットは、採用に関する固定概念や社会的な慣習を見直し、ゼロベースで考える切っ掛けになることだ。リクルートワークス研究所の中村天江氏は発表している論文の中で「採用には慣性があり、柔軟性を失している」と繰り返し警鐘を鳴らしている。採用における慣性とは、「新卒だから一括採用」「中途だから即戦力」と固定概念で判断してしまい、採用ニーズとのズレや時代の変化スピードへの遅れが生じてしまっている状態だ。その結果、採用したい人材へアプローチをするのに、適切ではない方法を使っている危険性が出てくる。

それでは、ポートフォリオで考えた時、人手不足の現状にはどのような原因があるのだろうか。次回では、ポートフォリオの各象限における人手不足の問題について考えてみたい。

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