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コンドラチェフで読み解く原油高騰

価格は需給で決まります。9月14日、サウジの石油施設が攻撃され、原油相場が急騰しました。供給要因による価格の上昇です。一方、需要面はどうでしょうか。

世界のエネルギー需要は景気次第です。世界の景気動向を判断する際には、政府や国際機関による経済予測や、株価など金融市場の動向が参考になります。

半面、供給面の予測は厄介です。今回のような紛争やテロ、戦争の勃発などを、あらかじめ予測することは困難ですし、仮に予測できたとしても、声高に主張することは何となく憚られます。結局、専門家の見解は以下のあたりに落ち着くのでしょう。

IEAは加盟国に純輸入量の90日分以上の原油備蓄を義務付けており、6月時点で民間分も合わせて330日分の備蓄が確保されている。仮に需給逼迫が深刻になれば、戦略石油備蓄(SPR)の放出や、石油輸出国機構(OPEC)とロシアなどの非加盟産油国が行っている協調減産の緩和も選択肢になり得る。

戦争を予測することはできませんが、戦争や革命が起きやすい局面を提示した専門家はいます。旧ソ連の経済学者コンドラチェフです。経済活動に存在する周期50〜60年の長期波動「コンドラチェフ・サイクル」を見いだしたことで有名な人物ですが、彼は戦争や革命がコンドラチェフ・サイクルの上昇局面で多発しているという歴史的事実を発見しました。

一方、コンドラチェフの論敵だったトロツキーは、資本主義発展の90年モデルをもとに、その中の2回の「発展の転換点」で革命・戦争が起きると主張しました。両氏は戦争・革命が発生する動因で見解を異にしていましたが、その発生周期はともに50年程度です。

このほか、戦争サイクルを研究したゴールドスティンも、コンドラチェフ・サイクルと政治長波(約150年周期の戦争・覇権サイクル)の総合化に取り組みました。ゴールドスティンは、戦争が物価上昇において主要な役割を果たしている事を統計的に明らかにしています。

以上を踏まえると、現在がコンドラチェフ・サイクルの上昇局面であれば、今回のような紛争が頻発して世界的なインフレが引き起こされる可能性が相対的に高いことになります。実際にはどうなんでしょうか。

コンドラチェフは、当時の覇権国だったイギリスのインフレ率と利子率から長期波動を抽出しました。これを現代の覇権国アメリカに置き換えて同様にコンドラチェフ・サイクルを抽出すると、2013年から2018年の間にコンドラチェフ・サイクルは反転し、現在は上昇局面にある可能性が示唆されています。

さらに、コンドラチェフの主張した社会インフラ投資循環という観点で、総固定資本形成の相対的趨勢からコンドラチェフ・サイクルを導出した場合でも、世界経済は2007年からコンドラチェフ・サイクルの上昇局面にあるという計算結果が得られます。

そんなわけで世界はいま、戦争が生じてインフレになりやすい局面にある、という結論にたどり着きました。サウジの石油施設攻撃に端を発したエネルギー供給不安の拡大と、世界的なインフレ加速シナリオは、案外無視できないリスクなのかもしれません。

ちなみに、以上の論考のベースはほぼ全て、職場の上司・先輩からの受け売りです。全容は以下の書籍にまとめてありますので、ご関心のある方は手に取っていただきますと幸いです。私は本稿とは全然関係ない章を執筆しています。



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お読みいただき有難うございました。 小難しい経済ニュースをより身近に感じて頂けるよう、これからも投稿してまいります。

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宮嵜 浩(エコノミスト)

三菱UFJモルガン・スタンレー証券 景気循環研究所シニアエコノミスト。日本経済の分析・予測を担当しています。

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