
2人で司会進行するときの「サブファシリテーション」のやり方
ミーティングやワークショップをうまく進行するにはテクニックがあります。そこに加えて大人数のワークショップやミーティングの進行役(ファシリテーション)を1人で担うと、なかなかプレッシャーですよね。
そんな時、2人でかけあいながら進行すると場が円滑に回ります。多くの場合メインで内容を説明する役割と、サブで捕捉する役割に分かれます。
ファシリテーションを学び実践している人の間では、この「サブ」の役回りが即興的でむずかしいという声を、よく聞きます。
今日は、この「サブファシリテーター」の役割のコツについて、NHK教育テレビで放送されていた「つくってあそぼ」を参照しながら書きます。
「つくってあそぼ」のゴロリとワクワクさん
みなさんは「つくってあそぼ」という番組を知っていますか?家にある適当な素材とセロテープでなんでも作ってしまうあの「ワクワクさん」が出てくる番組といえば、ご存知の方も多いのではないでしょうか。
しかし、あの番組のキーマンは、実はもう1人いるのです。それがあの横にいるクマのようなあの人、「ゴロリ」です。
うろおぼえで書いたゴロリ👇

ゴロリは、ワクワクさんの指示にしたがって工作を進めていきます。分厚い手のもちもちした動きで「セロテープ、ペタペタ〜」とか言いながら作業を進めていきます。
ときおり「どうすればいいんだ〜?」とか「あれれ〜?」とか言って戸惑うゴロリに、ワクワクさんが「これはね、こうやってやるんだよ!」といって、ゴロリをサポートします。
こうして、ゴロリはワクワクさんの手を借りながら、無事に工作を作り上げることに成功するのです。
ゴロリの妙技① あえて不器用な手つき
視聴者からみると、ワクワクさんがスペシャリストで、ゴロリは素人であるように見えます。視聴者はゴロリの不器用さを微笑ましく見守りながら、ワクワクさんの手際の良さに見惚れるのです。
しかし、このゴロリこそこの番組の立役者であるといえます。これらのゴロリの不器用な身振りを、"あえて"やっているとしたらどうでしょうか?
まず、ゴロリのちょっと不器用に見える手つきです。あの手つきによって、まだセロテープを上手に扱えない子どもでも「ワクワクさんのように綺麗にはできないけど、ゴロリみたいな感じなら自分でもできそう」と想像することができます。そのような希望を与えるために、あえてやっているのです。
(ゴロリの手の造形、実は五本指手袋みたいな形状になっていることも注目です。クマだったらあんな手にはならないはず🐻)
ゴロリの妙技② あえて戸惑ってみせる
また、ゴロリは"あえて"失敗をし、「どうすればいいんだ〜?」的なセリフを発しています。
これによって、子どもたちはゴロリが何に困っているかを知り、その困りごとをワクワクさんが解決することによって、解決策を知ります。
つまり、ゴロリのこのようなセリフによってワクワクさんを機能させ、子どもたちに製作プロセスにおける課題と解決策を先回りして示しているのです。
このように考えてみると、ゴロリはファシリテーターでありながら、堂々と進行するのではなく、あえて不器用に、あえて間違えたり戸惑ったりしながら参加者を安心させる役割であるといえます。これぞ、サブファシリテーターの身振りのロールモデルです。
ゴロリの存在は、参加者にとっての安心感を作り出します。不器用な身振りをすることで「そんな感じでいいんだ」とハードルを下げます。あえて間違えたり戸惑ったりすることで「あ、そうそう、そこがわからなかったのよ」という共感を呼びます。
サブファシリテーションのバッドパターン
オンラインでの対話ベースのワークショップでも、このゴロリの「あえてわからないフリをする」というサブファシリテーションが有効に機能します。しかし、やり方には注意が必要です。
たとえば、対話のワークショップで、A→B→Cの3ステップでワークを進めようとしていたとします。その3ステップをメインファシリテーターが説明をしたのち、サブファシリテーターが「補足」をすることがあります。
メイン「みなさんにはまずAをして、Bをして、Cをしてもらいたいと思います」
サブ「(メインの言葉をさえぎるように)補足ですが、Aの後にCをやって、その後Bをやるという順番でも大丈夫です」
サブファシリテーターは参加者の様子を見て、即興で補足情報を加えています。
たしかに必要な情報かもしれません。しかし、この「補足」をさえぎるようにやってしまうと参加者もメインファシリテーターも驚いてしまいます。
まず「これまでメインが話していたのに、どっちの話を聞けばいいの?」と混乱を生んでしまいます。ともすれば「あっちの優秀な人(サブ)がメインで話したほうがいいんじゃない?」と思われてしまうこともあります。さらには、メインファシリテーター自身も「自分の説明じゃ足りなかったんだ」と、しょんぼりしてしまうこともあります。
ワークショップ以外の場でも、たとえば商談の場などを想定してみましょう。
育成も兼ねてクライアントとのコミュニケーションを部下に任せようとしていたとします。そのミーティングに同席した上司が、我慢できずに部下を差し置いてクライアントに説明を始めてしまう、というような場合です。
サブファシリテーションの2つのコツ
こうならないために、ぼくがサブファシリテーターを担うときに気をつけていることは2つあります。
1つめは、「うなづき、相槌を駆使して、フェードインするように介入すること」です。ゴロリのように最初から横にいて、ワクワクさんの話を聞くように相槌を打つ感じです。
2つめは「参加者に向けて補足するのではなく、相槌もしくは質問としてメインに向けて語りかけること」。この2つです。これもまた、ゴロリのように「ちょっとわからないんですけど…」と、あえてメインに向けて質問するのです。
たとえばこんな感じです。
メイン「みなさんには、まずAをして、Bをして、Cをしてもらいたいと思います」(サブはうなづきながら話を咀嚼する身振りをする)
サブ「A、B、Cの順番でやるってことですね?」
メイン「そうですね、その順番でやっていきましょう」
サブ「ひとつ質問してもいいですか?これ、A、C、Bの順番でやったほうが、ぼくだったら考えやすいんですけど、その順番でやってもいいですか?」
メイン「はい、大丈夫ですよ。基本はABCの順を想定していますが、皆さんの考えやすいやり方で進めてください」
こんなふうに、サブがメインに問いかけるかたちで進めていきます。
サブが「わかっていない人」、メインが「わかっている人」という構造を作ることで、メインへの信頼を作っていく、という方法です。
サブがメインに批判的質問を投げかける
他にも、あえてサブがワークショップそれ自体に対して批判的な問いを投げかけて、メインにもう一度前提を話させる場合もあります。
たとえば、あるところで物語の創作を通して、人の価値観の変化のあり方を考えるワークショップをしたときのことです。
物語の作り方を説明した直後に、サブがこんなふうに突っ込みました。
「これって、ハッピーエンドの物語を作らなきゃいけない雰囲気ですけど、バッドエンドの物語を作ったらダメなんですか?」
それに対して、メインは
「目的は、主人公が願う生き方に変容するプロセスを考えることなので、なんらかの形で変容してほしいと思います。綺麗事を考える難しさや恥ずかしさがある一方で、真面目に綺麗事を考える機会もなかなかないと思うので、ぜひハッピーエンドの物語を作ることを試みてください」
と、前提としての目的から話しました。
こうすることで、このワークショップがそもそも何を目的にしているが伝わり、参加者の方により深くプロセスにコミットしてもらうことができます。
ちなみにこのやりとりは、事前に打ち合わせをして検討した上で進めていたので、メインを務めていたぼくも落ち着いて返答をすることができました。
ぼくがワークショップを作るときは、綿密に台本を書き起こします。そこでサブのツッコミを事前に書き込んでおくこともあります。
まとめ
いかがでしたでしょうか?メインとサブの掛け合いは、ワクワクさんとゴロリのようでもあり、漫才のボケとツッコミのようでもあります。
これは、ワークショップに限った話してはないかもしれません。たとえば上司と部下、もしくは、親と子、先生と生徒などの関係に置き換えてみてるとどうでしょうか?
ワークショップ・ファシリテーションにおける掛け合いのテクニックは他にもあるので、思いついたらまた書きます。(最近新しく知ったのは「ファシリテーター同士がケンカしている」という設定を持ち込む、などの方法でした)
twitterでも情報発信をしています。
「対話型鑑賞でファシリテーターが2人いてケンカする」っていうバリ面白い設定を教えてもらった。
— 臼井 隆志|Mimicry Design (@TakashiUSUI) August 4, 2020
対話において「対立意見」が出ることが必要なので、それを触発するために「ケンカ」という設定を入れるの最高だな。
誰かぼくとケンカファシリテーションやってほしい。
問いを軸にした掛け合いの大切さは親子のコミュニケーションの中にも。
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