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「いつまでに」「どれくらい」より「どうやって」ーCOP25参戦記①-


あなたの友人が、「半年後までに3キロ痩せる」と言いだし、ダイエットを始める前に「やっぱり3キロじゃ足りない。10キロ痩せる!」と言ったらあなたはどうするだろうか。
「まずは3キロを目標にしたら?」と堅実な目標設定を勧める方もいるだろうし、「目標は大きい方が良いよ!」と目標引き上げを応援する方もいるだろう。目標の大きさや期限はさておき、やるべきことは、地道な運動や食事制限によって、1キロずつ、いや、100グラムずつ身についた余分な脂肪を燃やしていくのみだ。それも、急激なダイエットによって全身の健康状態が悪化しないよう、慎重にチェックしつつ。

突然何の話かと思われたかもしれないが、いま国連の気候変動交渉では、各国の温暖化目標引き上げが議論されている。気候変動という人類が直面するシビアな危機とダイエットに例えるとは不謹慎とお叱りを受けるかもしれないが、その理由をご説明したい。

パリ協定の枠組みが始まるのは2020年からであるが、その前に、いま各国がパリ協定の下に提出した削減目標を足し合わせたとしても、パリ協定が求める2℃あるいは1.5℃目標を達成するには不十分である可能性が高い。

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そのため、2020年からパリ協定の仕組みが始まる前ではあるが、既に目標引き上げが求められている。確かにパリ協定は、中国を筆頭に、京都議定書の下では削減の義務を負わなかった新興国・途上国にはパリ協定に「参加してもらう」ことを優先して議論が行われた。各国の貢献(削減目標)は各国が自主的に決定し、その達成も法的義務ではない。目標の妥当性は追々レビューを重ねて議論し、目標を引き上げていくことが期待されていたのである。
例えば中国が現在パリ協定の下に提出している目標は、「2030年頃にCO2排出量のピークを達成する」というものだ。これは、「2030年頃から減らし始める」であるが、イコール「2030年頃までは増加させる」である 。(公財)地球環境産業技術研究機構(RITE)の試算(下図)によれば、中国のこの目標は限界削減コストがほぼゼロ、すなわち、コスト負担なく自然体で達成可能なものだとも指摘されている。
広大な未利用土地があり、再生可能エネルギーのコスト競争力が相当高まっている同国では、目標の引き上げも妥当だと言えるだろう。冒頭の例えに戻れば、体重200キロの超巨漢が、「3キロ痩せる!」という目標を掲げたら、「もう少し頑張れ」と心の中でつぶやくことも、確かにありそうだ。

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出典)(公財)地球環境産業技術研究機構
http://www.rite.or.jp/system/events/Akimoto_ALPSII_2016.pdf

しかしわが国はどうか。
足元を見れば、実は日本は2018年度まで5年連続で、前年比を下回っている。2018年は前年比なんと▲3.6%の減少だ。わが国はパリ協定の下、2030年までに2013年度比で26%削減を目指すが、すでに12%削減に成功したことになる。足元では他国に勝る削減を達成している。

一方で、長期的に必要とされる大幅削減の達成見通しは容易ではない。
2050年80%削減に向けたエネルギーの将来像を描いた「2050年のエネルギー産業 Utility3.0へのゲームチェンジ」(日本経済新聞出版社)では、「需要の電化」と「電源の低炭素化」の掛け算を徹底的に進めるという前提で相当野心的な試算を行った。

人口減少や経済成長の停滞、省エネ等による電力需要の削減分は当然織り込んだが、道を走る車は全て電気自動車、給湯は全てヒートポンプ式給湯機といった具合に、需要の電化が徹底的に進むと考えた。すなわち民生・家庭・業務部門の電化率は100%、航空と海運を除く運輸部門も電化率100%としたのである。その上で、供給側については、まず再生可能エネルギーの導入量について、平成26年度に環境省が公表した「2050年再生可能エネルギー等分散型エネルギー普及可能性検証検討委託業務報告書(環境省)」が描く高位ケースで示されたポテンシャルがほぼ全量導入された上で、2030年~2050年の平均変換効率が10%向上するという仮定し、再生可能エネルギーで3億kW強を確保できるとした。加えて、原子力も約2000万kW(100万kW級が20基程度)程度が維持され、低炭素電源で7割の電気(kWH)を賄うとしたのである。この試算の結果、2050年には、13年比72%減のCO2削減が可能となるという結果になった。

これだけドラスティックな前提を置いてもなお、80%削減には届かなかったのだ。
もちろん、ある程度現状の技術やコスト見通しを前提としており、今後イノベーションやインベンションによる新たな解決策が加わり、2050年80%達成が可能になるよう筆者も期待している。しかし、逆に言えば、今ある技術や今あるコスト見通しでは相当厳しい目標であることが、実際に試算をしてみればわかる。これをさらに引き上げても、10キロ痩せるダイエット方法もわからない中で目標を20キロに引き上げるようなものではないだろうか?

COP25に参加していて感じるのだが、ここのところの気候変動の議論は、目標がインフレを起こしていると言ったら言い過ぎかもしれないが、時間軸や手段を真面目に議論することも、ましてや、高い目標を掲げた国や人のこれまでの行動を検証することもなく、より高い数字を出し合う「セリ」を思わせる雰囲気だ。
大切なことは、いつまでに痩せるか、何キロ痩せるか、ではなく、どうやって健康的に痩せるかという具体的な手段ではないだろうか。もちろん目標やビジョンを共有するための議論も大切だが、今の議論はあまりにそればかりに偏っている。

純粋な危機感を持つ若者や環境NGOは、ビジョンや目標で気候変動対策への熱心さを測り、デモンストレーションを繰り広げる。CO2の排出削減には人々の意識変革が欠かせず、それを促す若者の活動を心から応援しているが、しかしそれは「どうやって減らすか」に向けた地道な議論とは全く異なる性質のものである。

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そうしたデモンストレーションの場では、確実にできることしか言いたくない、言えないという日本の国民性は世界では理解されづらい。そのため、日本も「とりあえず高い目標を掲げてしまえば良い」という意見もよく聞く。「高い目標を掲げて法定化すれば、イノベーションもついてくる」との声もある。確かにそういう面もある。確実に手が届く目標を掲げるリーダーが魅力的かといえばそうではないし、チャレンジせねばならない状況に追い込まれるからイノベーションを生み出そうともがくのである。「言っちゃえ、日本」というささやきにも一理あると筆者も思う。

しかし一方でそうした声の多くは、この温暖化問題の特殊性に対する理解が浅いとも感じる。温暖化問題は、結局はエネルギー問題だ。エネルギー転換が必要になる。エネルギー転換は、単に石炭火力や天然ガス火力を廃止し、再エネを増やせば済む、といった単純な作業ではない。それぞれの技術的特性やコストの違いによってその転換に軋みが出ないようにする必要がある。エネルギー転換は、社会変革なのだ。先述した著書の「2050年のエネルギー産業」においても、大量に導入される再生可能エネルギーの電気をうまく使いこなすために、電気自動車のバッテリーを媒介として、MobilityとUtilityが融合するという姿を提示した。
こうした社会変革には長い時間がかかることも覚悟せねばならないし、国民生活・経済に与える影響は大きいので慎重にならざるを得ない。短期的な目標で各国を縛れば、結局京都議定書の失敗を繰り返すことになってしまう。京都議定書の時代からこのプロセスを見てきた立場からすれば、それが最も大きな懸念なのだ。パリ協定を、実効的な枠組みとして大切に育てたいと思う中で、デモンストレーションや政治的アピールの場としての色彩ばかりが強くなっている現状は憂慮せざるを得ない。

以前からこの気候変動問題に関わってきた関係者の中では、実は日本の地道な貢献や真摯な態度が評価されている点も多分にある。しかしそうした声が日本に報じられることはほとんど無いのが残念だ。私たちがいまやるべきは、大きな声の非難に右往左往することではなく、我々としての貢献はこうだ、と説明を尽くすことではないだろうか。そして、解決の具体策を一つずつ作っていきたいと思う。何が本当にこの問題の解決に貢献することなのか、改めて悩みながらこのプロセスを眺めている。

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追伸)何度やってもトップの写真が上下反転してアップされます。ならばと、写真データを上下反転させてからアップしてもひっくり返っているから不思議・・・。なんか、海外からnote使いづらい・・???

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温暖化・エネルギー政策の研究をしています。現実的な移行とサステナブルな未来を考えています。 国際環境経済研究所理事・主席研究員/筑波大学・関西大学客員教授/U3InnovationsLLC共同創業者・代表取締役。