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ゲーム理論で動く才能集団の利害関係と協業ビジネス

 職場で「あの人はタヌキだからなあ」という噂が立てば、周囲を煙に巻いた立ち振る舞いばかりして、腹の中は結構黒そうだ、という意味が含まれていている。一方、組織の中では変わり者でも、秀でた才能を持っている人のことを、米国では「スカンク」と呼ぶことがある。もともとは、違法な密造酒を作っていた地下工場が語源になっているようだが、へそ曲がり者が集まった天才集団の「スカンク・ワークス」は、世界的にも有名な存在になっている。

これは、米航空機メーカーのロッキード社が、最新鋭の戦闘機を開発するために結成させた秘密開発チームの名称で、斬新な発想と技術により、新時代を切り開くような機体の開発に取り組んでいた。その代表作が、敵のレーダーに探知されない、世界初のステルス戦闘機である。

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スカンク・ワークスは、ロッキード社内にある従来の組織とは離れて、自由な研究開発を進めていた少数精鋭のチームであることから、現在では、他の業界においても、秘匿性のある新製品開発などを目的に、独立した才能集団として結成されたチームの総称が“スカンク・ワークス”と呼ばれている。

官僚的な組織には馴染まない厄介者であることがスカンクの特徴だが、世間をアッと言わせるような新技術の開発では、彼らのような才能が欠かせない。特に近年では、オリジナリティや個性の尖った商品がヒットする傾向が顕著であることから、異端な才能は大切にしなくてはいけない。

しかし、旧態然とした会社の中では、突出した才能を持つ者ほど辞めてしまい、社内に残っているのは、旧優等生タイプの保守的な人材ばかりという例が少なくない。優れた技術者やクリエイターとしての才覚があれば、独立しても様々な食い扶持を作れる時代が到来しているため、組織からの才能流失は増えているのだ。

彼らは知的プロとして、個のワークスタイルを好む傾向があるが、案件によっては、一人では手に負えない規模の仕事もあるため、何らかの形でチームやグループに所属する必要もある。ネット社会でいえば、それがコミュニティやソーシャルネットワークへの参加になるわけだが、ビジネスの現場で今ひとつ馴染まないのは、メンバー間の利害関係を尊重することが難しいためだろう。

スカンク・ワークスのような才能集団は、仕事の成果による相互の利害を認めた上での、協力や信頼関係が成り立っているところが、無償で平等な立場による参加を前提としたコミュニティとの相違点といえる。そして面白いのは、利益獲得と協調とのバランスが、意図的に決められたものではなくて、フェアな競争関係によって維持されていることである。

【ビジネスの現場に生じる協調と裏切りの選択肢】

ビジネスを目的に結成されたチームが、仲良しコミュニティと違うのは、各メンバーが利得(お金を稼ぐこと)を目的に参加していることで、できれば、他のメンバーよりも、自分のほうが多く稼ぎたいと考えている。つまり、相手を出し抜いたり、裏切るかもしれないという心理が、仕事仲間との間には必ずある。

普通に考えれば、それだけで仲間との関係はギクシャクして険悪になってしまいそうだが、実際には、深い信頼関係で結ばれて、親友以上の付き合いになることも珍しくない。逆に、ネットコミュニティには、どんな新参者も歓迎してくれる優しさがあるが、何かのトラブルを切っ掛けにして、特定のメンバーを誹謗中傷したり、イジメが発生するような怖さも併せ持っている。

それが何故なのかは、「ゲーム理論」を使って説明することができる。チェスやカードゲームのように、複数のプレイヤーが個々の利益や勝利を目的に行動するパターンには幾つかの法則があり、それを数学的に実証して、ビジネスや政治の世界における人間の行動予測に応用されているのが、ゲーム理論である。

その中の有名な法則として「囚人のジレンマ」というものがある。麻薬取引の容疑者として、AとBの二人組が警察に捕まったとしよう。しかし、警察はその二人が犯人という大方の証拠は掴んでいたが、決定的な自白にまでは持ち込めないでいる。そこで彼らを別々の取調室に呼んで、裏取引を提案した。

このまま黙秘を続けて裁判を行ったとしても、二人はそれぞれ有罪(懲役1年)になることは避けられない。しかし、今すぐに自白をすれば、黙秘している相棒の罪を重く(懲役5年)する代わりに、お前は無罪にしてやろう。ぐずぐず考えているうちに相棒が自白してしまえば、事件の詳細が相棒に暴露されて、お前が懲役5年の刑になるぞ。

そんな裏取引を、別々の取調室でAとBの両方にすると、彼らの頭の中では「自分だけは無罪になりたい」という私欲が強くなり、相棒のことを裏切っても仕方が無いという心理になる。しかしその時には、相棒も隣の取調室で同じことを考えているため、結局は両者が共に相手を裏切る自供をして、裁判では最も重い刑(二人とも懲役5年)を受けてしまうのだ。

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AとBそれぞれにとって最大の利益を得るための選択肢は、自分が相棒を出し抜いて無罪を獲得する(2)の行動になるわけだが、実際の人間関係では、お互いが同じことを考えているため、結局は両者が裏切る(3)の状態に陥って、二人には最も大きな損(二人合計で懲役10年)が生じてしまう。

そこで、賢い囚人チームは「自分だけ無罪になること(最大の利益)」は望まず、相棒を裏切らずに、黙秘(協調)を続ける(1)を選択するのである。ただし、協調関係を壊さずに維持できるのは、この法則を理解している“頭の良い者”に限られるため、一緒に仕事をするメンバーは厳選する必要がある。

○囚人の本能的な心理─→仲間を裏切ってでも自分の利益を追求したい
○賢い囚人達のチーム─→仲間を裏切らないことで安定利益を確保する

この考え方は、ビジネスにも当てはまるもので、長期で自分の利益を維持するには、私欲を最大限に追求するのではなくて、仲間を裏切らずに協調した関係を続けることのほうが賢いことがわかる。

一方、ネットのコミュニティは、どんな人でも参加できるのが原則で、匿名による人間関係のため、相手を裏切ることに対する損失が少なくて、各メンバーが本能的な行動に走りやすい。相手を侮辱する発言をしたり、過剰な反論で喧嘩になるのは「裏切り(仲間割れ)」の行為とみることができるが、いくら仲間との関係がこじれても、実社会で懲罰を受けたり、職を失うようなリスクが無いのであれば、コミュニティ内で裏切り行動が頻発するのは、人間のごく自然な行動と言えるのだ。

ゲーム理論に基づけば、普段は顔を合わせないリモートワークのチーム内でも利害関係による裏切りの行動は起こりやすいため、チームリーダーは各メンバーの利得には配慮しなくてはいけない。

報酬について最もわかりやすいのは、プロジェクトで得られた収益をメンバー全員へ均等に分配することだが、実際には、各メンバーの実労時間や、作業に使った経費の額などが異なるため、均等分配が必ずしも平等というわけではない。そこで、プロジェクトの内容、仕事の性質、職種に応じて、最も適切な収益の分配ルールを作ることがリーダーの役割になる。

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