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居住地で格差が生じるリモートワーク賃金の決め方

 世界のどこからでも勤務ができるリモートワーク企業は、コストの面でも利点がある。よく言及されているのは、オフィスの家賃を節約できることだが、賃金の設定方法も工夫がされている。ポイントになるのは、どの地域の賃金相場を基準にするのかだ。

たとえば、米国の田舎町に住んでいる人材が、リモートワーカーとして働き、ニューヨークやサンフランシスコ水準の給料が貰えれば非常に魅力的だが、雇用する会社側にとっては人件費が嵩むことになる。逆に、大都市を拠点にするリモート企業が、地方在住の優秀な人材を採用し、地方水準の給与を支払えば、人件費を安く抑えられる。実際のリモート企業では、多様な地域から人材を採用しているため、その設定方法が難しい。

すべてのリモート社員に対して、地域格差の無い賃金設定をすることは、一見すると「平等」のようにもみえるが、都会と田舎では、家賃や生活コストの差があるため、それを加味しなければ、都会在住のリモートワーカーが離れてしまうことになる。 そこで、リモートワーカーの賃金体系では「地域調整値」という指標が考案されている。

たとえば、オランダを本拠地として、オープンソースソフトウェアのプロジェクト管理機能を開発する「GitLab」は、世界各国からエンジニア人材をリモート採用しているが、その賃金設定には国別の調整値を設定している。米国在住の社員を「1.00」として、ドイツ0.90、英0.80、オランダ0.80、中国0.66、といった差を付けている。さらに、同じ国でも、各地域の家賃相場から分析した調整指数も設定することで、すべてのチームメンバーに生活水準の格差が生じにくくなる配慮がされている。

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リモートワーカーにとっては、どこから働いても同じ賃金が貰えるなら、できるだけ生活コストが安い地域に住んだほうが、実質的な豊かさは高くなり、都会から田舎への移住が加速することになる。しかし、企業にとって、人材のローカル化が進むことは、新しい技術やトレンドを取得する上でもマイナスとなるため、居住地域による賃金調整のノウハウは重要になる。

■世界各地で働くGitLabリモート社員の紹介映像

しかし、すべてのリモート企業が地域調整値を採用しているわけではなく、本社の所在地に準じた賃金相場を設定しているケースも多い。「MeetEdgar」は、企業向けに、Facebook、Twitter、LinkedIn などへの投稿を自動化できるソーシャルマーケティング機能を開発している、社員数が数十名規模のリモート企業だが、本社があるテキサス州オースティンの賃金相場、つまり田舎の賃金相場を標準にした給与設定をしている。都会から勤務する者にとってはマイナスの条件だが、リモートワーカーにとってメリットのある福利厚生が各種用意されている。


《リモート企業の福利厚生(MeetEdgar)》

・自宅オフィスの高速インターネット代(月額50~100ドル支給)
・自宅近隣シェアオフィスの利用補助(月額300ドル支給)
・仕事用のMacBooksを無料貸与(6ヶ月経過後は返却の必要なし)
・参考書籍、教材の購入費支給(年間10冊程度)
・業界イベントや会議への参加費支給(参加費、旅費、宿泊代)年1回
・自宅オフィスのクリーニング費用補助(月額75~200ドル)
・チーム全員が集まる社内イベント(年2回)の参加費支給
・仕事で必要な備品購入用クレジットカードを各社員に支給
・年間で4週間の有給休暇
・治療費の75%をカバーする医療保険(週30時間以上働く社員が対象)

リモートワーカーは、給料だけで会社を選ぶのではなく、他の福利厚生や特典、ワークスタイルの条件、企業文化、チームメンバーとの相性なども重視しており、それらをトータルして理想の働き場所を探している。そのため、地方を拠点としている企業では、都会とは違った有意義なリモート勤務の働き方を提案することで、賃金水準は上げずに、優秀な人材を獲得することもできる。

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