【議員・メディア各位へ】 日本版DBSの5つの要諦
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【議員・メディア各位へ】 日本版DBSの5つの要諦

日本の保育・教育現場では、大人がその指導的立場を悪用し、子どもたちに性暴力を振う事件が、後を立ちません。ひとりの親として、極めて許し難く、また、みんなで助け合って子育てできる社会を志向するNPOのスタッフとして、絶対に看過できないものです。

そこで昨年7月、私たち認定NPO法人フローレンスは、子どもと関わる職場への就労を希望する者に対し、過去に性犯罪を犯していないことを証明する「無犯罪証明書」の提出を義務付けること(=日本版DBS)を政策提言しました。以来、今に至るまで、専門家からアドバイスをいただきながら、議員有志・関係官僚各位と積極的に議論を交わし、その実現に向けて活動しています。

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日本版DBSは、英国のDBS(Disclosure and Barring Service:前歴開示及び前歴者就業制限機構)を参考にしています。英国司法省管轄の犯歴証明管理及び発行システム。図は、筆者作成。

その甲斐あって、これまで大きな進展がありました。昨年末、第5次男女共同参画基本計画が閣議決定されましたが、この中に、日本版DBSの概念が明記されています。また、今年4月には、自民党行政改革推進本部が菅総理に日本版DBSを政策提言。菅総理は『こども庁の政策の柱になる』と述べ、政府として検討を開始。現在、関係官庁のスタッフが集い、実現に向けて会議を重ねてくださっています。

しかし、一見、何もかも順調にいっているようが、さにあらず。全く油断できない状況です。日本版DBSの具体的な制度設計はこれからですが、これを骨抜きにしようとする議論が絶えません。曰く「加害者に対する人権侵害」、曰く「憲法で保障されている職業選択の自由に反する」……。

大人の都合はいつも声高に叫ばれます。しかしここは、「子どもたちを性暴力から守るために何が必要か」という軸をぶらさず、制度設計をせねばなりません。

そこで今回は、私たちがこれまで議員・官僚・専門家各位と重ねてきた議論の内容をご報告します。日本版DBSの制度設計で、外してほしくない要諦を、5つにまとめました。

要諦① : 守るべきは、 「すべての」 子どもたち

先の通常国会で、「教員による児童生徒性暴力防止法案」が成立。これまで、生徒児童に対してどんな卑劣な性犯罪を犯した教員であっても、たったの3年で復職可能という現状が、この法案で、わいせつ教員の復職(免許再交付)を、都道府県教育委員会の判断で拒めるようになりました。

本当に素晴らしい進展です。本法案の成立を猛烈に推進してくださった与党わいせつ教員根絶立法検討ワーキングチーム(WT)には、感謝してもしきれません。

しかし、これだけでは終われません。私たちが守らないといけないのは、教育現場の子どもたち、ではありません。「すべての」子どもたちです。

この話をある議員にさせていただいたところ「では、具体的に、どういう職種が残されているのか」というご質問をいただきました。そこでまとめたのが、下記の図です。

日本版DBS対象候補職種_鳥瞰図

これはあくまで鳥瞰図なので、MECEにはなっていません。他に含めるべきものも多くあると思います。

そもそも、左上の教育現場だけで考えても、子どもたちと接する大人は教員以外にも大勢おり、実際、そういう人たちによってなされてしまった性暴力事件は、枚挙にいとまがありません。

しかし、上記であげた教員免許の再交付に関わる立法だけでも、大変な政治的エネルギーが必要でした。この鳥瞰図に記載した職種全てでそれをやるのは、とても現実的ではありません。

そこで参考になるのが、英国です。英国のDBSの対象となるのは「子どもに関わる職場(18歳未満の子どもに1日2時間以上接するサービス)」です。職種ごとに規制をするのではなく、子どもに関わる職業を一括で定義して、規制しています。

こちらの方が、議員・官僚各位の労力を考えても現実的ですし、何より、子どもたちの安全に資するはずです。


要諦② : 行政の縦割りを打破し、横串を刺す

仮に、先の鳥瞰図であげた職業が、管轄する省庁によってそれぞれ規制されたとしても、十分ではありません。なぜなら、小児性犯罪者はしばしば、ひとつの職場で問題を起こしてキックアウトされても、子どもと関われる別の職場に転職して、犯行を繰り返すからです。

例えば、「わいせつ教員」として「教員」のデータベース(官報検索ツール)には載っていても、「保育士」としては、なんの情報もありません。これでは、小児性犯罪者が他の子どもと関わる職場へ転職するのを、防ぐことができません。これは、管轄官庁・職種ごとに、情報管理がバラバラであることに起因します。

現状を図にすると、下記の通りです。

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現在、政府で「こども庁」の議論がありますが、まずやっていただきたいのは、この不毛な縦割り行政の打破です。それぞれの業界を管轄する大人の都合で、子どもの安全まで縦割りにされています。下記の状態が、あるべき姿だと思います。全ての業界に横串を刺した、性犯罪歴のデータベースを、早急に整える必要があります。 

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要諦③ :性犯罪者の情報は、最低でも40年、データベースに残す

では、上記のデータベースができたとして、そこに集約される性犯罪者の前科情報は、いつまで記録されるべきでしょうか(なお、後述しますが、このデータベースは非公開です。アクセスできるのは、限られた行政関係者のみと想定しています。極めてセンシティブな個人情報なので、セキュリティは万全にせねばなりません)。

例えば、現在の児童福祉法では、もし保育士が性犯罪を犯して免許を剥奪されても、2年で再取得可能です。ベビーシッター等、法律でその職業の要件が明文化されていないものとなると、当然、なんの制限もありません。

しかし教員の場合、教育職員の過去の懲戒処分歴を確認できる「官報情報検索ツール」の検索可能期間は、本年、40年に延長されました。

全ての子どもと関わる職種に横串を刺して、子どもたちを性犯罪者から守るのが日本版DBSの目的ですから、全ての対象職種で、少なくとも教員と同じレベルにしなければなりません。ここは法改正が必須なところですが、越えなければならない壁です。

これは、子どもたちを守るため、というだけではなく、加害者を再犯から守るため、という側面もあります。

性犯罪の加害者臨床に携わっている精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳氏がおっしゃるように、小児性犯罪は、いわば、アルコール依存症のようなもの。努力して飲まないようにしてきたのに、目の前にアルコールを出されると、我慢が非常に難しくなります。小児性犯罪者に社会復帰してもらうには、子どもと関わらせてはいけないのです。斉藤氏の著書『「小児性愛」という病 ーそれは愛ではない』では、小児性犯罪者の治療がいかに困難か、実体験とデータを交えて語られています。

子どものためにも、そして、加害者自身のためにも、子どもと関わる職場で働ける可能性を、仕組みで閉ざした方が良いはずです。

なお、諸外国ではどうなっているのか、ざっと調査してみました。DBSを運用する英国や、似たの制度を持つ豪州、そして、ニュージーランドは無期限です。

一方、ドイツは20年、スウェーデンでは、10年でした。ただ、これは2020年時点の情報ですが、スウェーデン議会では、性犯罪で有罪判決を受けた者が児童専門職に雇用されることを永久に禁止する制度を、政府に提案しているそうです。現状は、変わる(変わっている?)かもしれません。

各国の状況を、下記の資料にまとめてみました。ご関心ある方は、ぜひダウンロードしてご覧ください。


要諦④ :行政が責任を持って運営する

では、このデータベースには、誰がアクセスできるようにすべきでしょうか。例えば、教員の場合、懲戒免職情報が確認できる官報検索ツールを、教育委員会のメンバーが確認できます。

では、保育士は? ベビーシッターは? 塾講師は……? 誰が確認すべきでしょうか?

それぞれの業界団体のスタッフか、施設の管理者でしょうか。それは危険ですし、運営リスクが跳ね上がってしまいます。なぜなら、行政には、前科情報を確認する者の適性は、見抜き切れないからです。例えば、反社会的組織が子どもと関わる事業を偽装して立ち上げ、各人の性犯罪前科情報が確認できるようになってしまったら、これは加害者のその後の人生にとって、計り知れないリスクとなります。これは翻って、日本版DBSという仕組みに対して、社会から疑問を持たれかねません。

であるならば、このデータベースは行政が一元管理し、そこの限られたスタッフだけが、限られた条件下でのみアクセスできるようにする、といった仕立ての方が現実的だと思われます。

なお、行政が運用するとなると、懸念されるのはコストです。しかし、それは問題ないはずです。英国のDBSは、申請者(あるいは企業)から手数料を取ることで、利益を出しています。2018年度の純剰余金は約5千万ポンド/年(≒67億円)でした。

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参照元:Disclosure and Barring Service Annual Report and Accounts


要諦⑤ :安定した制度運用のための「無犯罪証明書」

最後に、私たち認定NPO法人フローレンスは、子どもと関わる職場への就労を希望する者に対し、過去に性犯罪を犯していないことを証明する「無犯罪証明書」の提出を義務付ける一連の仕組みや制度を、日本版DBSと呼びました。

既に日本にも「犯罪経歴証明書」があるのに、なぜわざわざ「無犯罪証明書」とするのか。それは、子どもと関わる職場に就労を希望する人の人権を守るためです。この2つの書類は、情報の持つ性質が全く異なります。

犯罪経歴証明書には、これまでの人生で行われた犯罪歴が記載されています。一方で、無犯罪証明書は「該当する性犯罪歴がない」ということだけが書かれています。

例えば、学生の時に万引きで前科がついてしまった人が、その後更生して勉強し、教師になろうとしている場合はどうでしょうか。既存の「犯罪経歴証明書」では、万引きのことまで記載されてしまいます。しかし、それは教師の資質にどれくらい影響があるのか疑問ですし、雇用主としても、そんな個人情報が書かれた書類を管理するのはひと苦労です。

しかし「無犯罪証明書」なら、既存の履歴書と変わりません。賞罰欄に「賞罰無し」と書いてあるのと同じです。違うのは、その「罰なし」が事実であると証明できることです。

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以上、日本版DBSの5つの要諦をまとめさせていただきました。

日本版DBSは、来年の通常国会で大きな動きがあるはずです。そこでは、大人ではなく、子ども本位で議論がなされてほしいです。日本版DBSを、子どもたちのための制度にしてほしいです。

それを実現するには、こんな長々とした文章をここまで読んでくださった各位のお力が、どうしても必要です。

あと、もう一歩です。

引き続き、何卒よろしくお願い致します。


日本版DBSの政策提言のこれまでの経緯については、拙著『パパの家庭進出がニッポンを変えるのだ』にまとめております!ぜひ、ご一読ください!


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認定NPO法人フローレンス代表室長。政府「こども政策の推進に係る有識者会議」メンバー 📙『パパの家庭進出が ニッポンを変えるのだ!』 ▶︎ https://amzn.to/2QTNtCn 📻 『ソーシャルレンズラジオ』▶︎ https://apple.co/3geQdUl