キャッシュレスと、プライバシーとセキュリティと
前回、キャシュレスについてコスト面から書いたところ、プライバシーに関するコメントを(note外で)頂きました。
趣旨としては、キャシュレス化により個人の決済情報が開示され、それが「ビッグデータ」としてタダで好きなように(企業等に)活用されている(と認識されている)ことへの嫌悪感、それに加えて(キャッシュレスとは違う話ではありながら)スマホの位置情報が筒抜けになることへの懸念がある、ということでした。
こうした、ある意味では漠然とした不安感というのは、多かれ少なかれ、現代を生きる私たちについて回るものだと思いますし、自分自身も、そうした点に懸念がないわけではありません。
そんなことを考えながら、ちょっと検索してみて、こんな記事に出会いました。もう15年も前に書かれた三菱総研のコラムです。
ここでは、プライバシーとセキュリティの悩ましい関係について書かれているのですが、15年経った今でも、古びていない議論であると思いました。
プライバシーをいかに守るか、ということはとても大切なことですが、一方で、一定のプライバシーを放棄することによって利便性や安心を享受している、という一面があることもまた事実であると思います。例えば、自分が過去に行った検索の結果が把握されているからこそ、適切な検索結果が表示されて無駄な時間を使う必要がなかったり、過去の購買履歴が把握されているからこそ、自分にとって欲しいと思うものがオススメされたり、といったことが現実にありますし、上記のコラムにある通り、防犯カメラによって一定のセキュリティが守られることとプライバシーの保護はトレードオフの関係にあります。
そして、スマホで位置情報が筒抜けになることで自分のブライバシーが侵される懸念があることはその通りなのですが、仮にスマホがなかったとしても、少なくても都市部にはいたるところに防犯カメラがあり、顔認識の技術も格段に進歩している現在、ある個人の行動や現在地を知ろうと思うなら、技術的にはいくらでも割り出せる、というのが現実です。そういう現実の前には、スマホを使うか使わないか、といったゼロイチの二元論の議論にはあまり意味がなく、個人情報が様々な手段によって把握されうる現実を前提に、誰にどのように個人情報を握らせるか、また握らせた相手をどのように牽制していくか、ということを考えることが、現実への対処として必要になるだろうと思います。これは、キャシュレス化によって必然的に明らかになってしまう購買行動のデータの取り扱いにしても同じです。
昨年欧州で発効したGDPRも、GAFAのような存在を否定するのではなく、存在を容認した上でいかに彼らをコントロールするか、という発想に立っているものと理解できます。
コメントでのご指摘にもあったように、微々たるポイント欲しさにプライバシーを放棄するのかどうか、という判断もあるでしょうし、またポイントを貯めなかったとしても、同じECサイトで買い物を続けることによって必然的に把握されてしまう購買行動について、いくつかのECサイトを使い分けることで情報の一元的な把握を容易にすることを防ぐ、ということもあるかもしれません。
それらがどこまで有効であるのか、ということもまた議論の余地があるところではありますが、好むと好まざるとにかかわらず、プライバシーとセキュリティがせめぎ合い、個人に関するデータが把握されてしまう現実を消極的にではあれ受け入れた上で、100%ではないことはわかりつつも、よりよい状況をいかに作り出しうるのか、その現実解を求め続けていくことが、しんどいことではありますが、今のところ私たちが取りうる唯一の道なのではないか、と思いました。