出戻り社員が「隣の芝は青いのか問題」を解決する。
こんにちは、ローンディールの原田です。
日経COMEMOさんで「出戻り社員に期待すること」というお題が出ていまして、これは黙ってられないとばかりに書きます。笑
私たちが取り組んでいる「レンタル移籍」という事業は、大企業人材に出向のような形で一年程度ベンチャー企業で働いてもらう仕組みです。つまり、計画的に出戻り社員をつくっていく、ということになります。
そもそもなぜ私がこんな事業を始めたかというと、新卒で入社した会社に長く働いていて、常に「隣の芝は青いのか」という疑問を抱いていたからです。「会社を辞めたいわけじゃない、でも外の世界も見ていたい」という願望です。でも、外を見る手段は転職しかない。そして、私の場合は結果的に転職をしたわけです。
人生初の転職、いろいろ学べることはあったし視野も広がったのですが、一方で一社目の会社で自分が置かれていた環境がいかに恵まれていたかということも痛感しました。今でも時々、自分が前の会社に復帰したらどうなるだろうと妄想することがあるくらいです。
そんな経緯があって、「会社を辞めずに外を見る機会」を作りたいという想いからレンタル移籍という事業を始めました。
つまり、私自身は出戻っているわけではありませんが、「出戻り」というキーワードには少なからず思い入れがあり、レンタル移籍という事業を通じてたくさんの出戻り人材を輩出し、出戻った後の活躍を応援しているというわけです。
ちょっと前置きが長くなりましたが、ここから、レンタル移籍をしてくれた方々の実例を踏まえて、出戻り社員が持ち帰ってくれるものとして、3点あげてみます。「自社の経営資源についての評価」、「異業界の事業構造や機会に関する知見」「人的ネットワーク」です。そのそれぞれについて、簡単な解説と、それを活かしていくためのポイントをコメントします。
①自社の経営資源についての評価
まず何といっても出戻り人材は、自分たちの会社にどんな経営資源があるのかということを客観的に見ることができます。具体的には、社員の人材的な特性、当たり前だと思っていた環境や制度、マネジメントの状況、顧客との関係性などです。
そして、どんな経営資源があるかということを周囲に語れます。今までその組織を築き上げてきた先人たちが、自分たちに何を残してくれたのか。当たり前だと思っていたことが、どれほど貴重なものだったのか。特に流動性の低い日本の企業に置いて言えば、そうやって外との対比で自社の話をしてくれる存在はまだまだ稀有です。
しかも、単に外からやってきた人ではない、一度同じ釜の飯を食った人が戻ってきて語るという点で、周囲が聞く耳を持ちやすいというのも特徴の一つだと思います。
ただ、何でもかんでも言えばいいということではない、というのが注意点です。よく、「外を見てきたのだから、うちの会社の悪いところをどんどん言ってほしい」と推奨するような傾向がありますが、あまりお勧めしません。
出戻ったほうも張り切っているので、積極的にダメ出しをしちゃったりしますが、自社に残って頑張ってきた人達からしてみたら、自分たちの事情も知らずに・・・って反発を招きかねないんですよね。
ですので、ネガティブなフィードバックをする場合には、議論の対象を一部の意思決定者に限定するなど、工夫したほうが良いと思います。
②異業界の事業構造や機会に関する知見
次に、特に自社と全く異なる業界で経験をしてきた方が戻ってきた場合、出戻り社員の価値はさらに大きなものになりえます。製品を作っていたのかサービスを作っていたのか、BtoBなのかBtoCなのか、ウォーターフォール型かボトムアップ型か、などなど、とにかく違いがあればあるほど貴重です。
なぜかというと、イノベーションに繋がる可能性があるからです。ここでいうイノベーションは必ずしも新規事業のことに限らず、ビジネスプロセスにおけるイノベーションだったり、既存事業の変革だったりするかもしれません。
いずれにしても、出戻り社員をきっかけにして異質なものを自分たちの会社と結合してみようと試みることが大切かな、と思います。逆に言うと、「うちの会社は特殊だから」というような論調が強くて、異質な経験を尊重できないと、せっかく外から持ち帰ってくれたもを十分に発揮できなくなっちゃうと思います。
ぜひ積極的に、異質なものを組み合わせてみようという意識を持っていただけると良いのではないかなと思います。
③人的ネットワーク
流動性が低い組織だと、人脈形成やコミュニケーションさえも組織の中に閉じてしまう傾向があります。その点において、出戻り社員に対して社外との接続をするハブ人材としての期待ができます。
例えば、出戻り社員が社外で築いてきた人脈を使って、社内外の交流会を企画してみるとか。最近であれば、オンラインで簡単にミーティングをセットするようなこともできるはずです。
そうやって外の人とのつながりを維持してもらうということは大切だと思います。結局、戻ってきてその人材が社内としかつながらなくなってしまったら勿体ないですよね。
それに、出戻り社員の側からすると、早く何か貢献したいという想いが強いはずです。人と人を繋ぐということで自分が貢献していると実感する良い機会になるのではないかと思います。
いかがだったでしょうか?メリットに感じていただける点はたくさんあると思いますが、まだまだ一般的ではないので、注意したほうが良いところもありますね。
でも今のような風潮が盛り上がって、多くの企業がうまく運用し、出戻り社員を受け入れる風潮が高まったら良いなと、心から思っています。
最後に、そう思うようになったエピソードを一つ紹介したいと思います。
出戻りOK企業が増えたら、挑戦者が増える
改めて個人的な話になってしまいますが、今から6年前、「レンタル移籍」という事業に対する想いを抑えられず、何のあてもなく起業を決めました。
転職して1年半しか在籍せず大して結果も出せなかった私が、退職をしたいといいに行ったら、その上司がこんな風に言ってくれました。
「ダメだったら、いつでも戻って来いよ」
この言葉が、どれほど支えになったことか。その言葉のおかげで、とにかくやれるところまでやってみよう、という覚悟ができたのです。
何か新しいことに挑戦しようとすると、どうしたってそこにはある種の無謀さが付きまとってしまいます。だから、実際に挑戦を踏みとどまってしまう人も少なくないと思うのです。でも、新しい挑戦をしても大丈夫なんだという安心感を醸成できたら、挑戦できる人は増える。
会社が「出戻り」を推奨することができたら、出戻った社員だけじゃなくて、会社の中にいる人みんなにとっての心理的安全性や、仕事に対する意欲も高まると思うのです。
出戻りOKにしたら安易に辞めちゃう人が増えるんじゃないか、という懸念があるかもしれません。でも、それはちゃんと循環していくんじゃないかな。人材輩出企業といわれるような会社ほど、優秀な人材が集まりやすいということは、皆さんご存知の通りでしょうから。
なんて言いながら私は、「戻って来いよ」と言ってくださった上司に、まだ何も恩返しができていないなと気づきました。とりあえず、いろいろ落ち着いたらお酒でも飲みに誘ってみようかな。
それでは。