社内公募制度は労働市場を開く鍵となるか

こんにちは。弁護士の堀田陽平です。

約20年ぶりにカブトムシを飼育し、子どもを差し置いて夫婦でじっと観察しています。

さて、今回は、いつか書きたいなと思っていた社内公募制度について意見募集がありますので、これを機に書いていきたいと思います。

社内公募制度と「ジョブ型雇用」は違う

まず、このテーマについて最初に主張したいところは、「社内公募制度=ジョブ型雇用」ではないということです。
社内公募制は、あるポストについて広く社内から応募者を募り、一定の基準に照らして当該ポストに就く従業員を選定するというものですが、労働契約自体は職務無限定のままでしょう。
そのため、人事権は広く企業に残っているので、ジョブ型雇用とは違うものです。現状、企業が人事権を制限することはやはりなかなか難しいでしょう。

こう書くと、批判的に聞こえますが、私は、社内公募制度を肯定的に捉えており、むしろ、わざわざジョブ型雇用と関連付けさせる必要がないくらい、良い制度であると考えています。

自律的なキャリア形成に大きく寄与

従業員の自律的なキャリア形成をいかに促していくかは、人生100年時代において長期雇用保障が困難となるなかで、企業が取り組む必要のある重要かつ本質的な課題といえるでしょう。

少し極端ですが、「就社」型の職務無限定契約で雇用され、広いジョブローテーションに服してきた働き手は、「会社」を選ぶ契機はあれども、「職業」を選ぶ契機がなく、「キャリアは会社が作るもの」(その代わり、長期雇用が保障される)という意識になりやすいといえます。

社内公募制度は、こうした中において、社内で自らの「職業」を選ぶことになり、自分のキャリアを考える機会が生まれます。しかも、社内なので、退職という手段をとらずとも、自らの希望するキャリアにチャレンジすることができます。
結果的に従業員の自発性も高まり、組織の活性化にもつながるでしょう。

様々な要因から、欧米のようなジョブ型雇用に振り切ることが困難な現状において、従業員の自律的なキャリア形成に寄与する重要な制度であると思います。

「オープン」「明確」「公平」が重要

社内公募制度を、従業員の自律的なキャリア形成を促す仕組みとして効果を発揮させるためには、いかに公募をオープンとし、いかに明確な基準(求めらるスキル・経験等)を示し、いかに公平に運用するかが重要となると思います。

たとえ、制度として社内公募制度が存在していても、一部の従業員にしか届いていなかったり、基準が曖昧で結局ブラックボックス化していたり、恣意的な選定がおこなわれたりしているのでは、キャリアの選択肢は見えず、キャリア自律の効果はないでしょう。むしろ、がっかり感が広がります。


特に、基準の明確性は、従業員がそのポストに就くためにどういう能力、経験が必要であるかを示すことで、キャリア形成の指針を示すことができるので、キャリア自律という観点からはとても重要であると思います。

社内公募制度ではマネージャーが試される

社内公募制度は、いわば企業内に労働市場を形成するものです。
外部の労働市場において「企業」に相当するものが、内部の労働市場では「部署」であるとすると、部署間で優秀な人材の獲得競争が起こることとなります。
そうすると、まさに「部署」という企業の「≒経営者」であるマネージャーにとっては優秀な人材が流出するリスクが生じることになります。
したがって、社内公募制度においてはマネージャー層のマネジメント能力が試されることとなります。

“社内外”公募制度まで発展し労働市場を開く鍵となるか

社内公募制度をオープン、明確、公平に運用するとなると、必然的に社内の業務を明確に切り分け、当該ポストに求められる能力や経験等を明確に示していく必要が生じます。
これがうまくいった場合に得られる結果は、社内だけでなく、社外から人材を獲得する場合にも活きてくるはずです。
当面は、“社内”に閉じた公募制度であるとしても、ゆくゆくは“社内外”に開かれた公募制度とすることで、開かれた労働市場が形成され、働く個人からの自発的な労働移動が起き、個々人が持つ能力や経験が活かされる社会となることを期待したいと思います。
                                以上

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