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3分でわかる!今さら聞けない米中問題と雇用 〜学術研究の視点と一緒に〜

  みなさま、こんにちは!エコノミストの崔真淑(さいますみ)です。

 今年に入って落ち着き始めたと考えられていた米中通商問題ですが、アメリカ側が中国に再び強硬姿勢を取ろうとしています。日経新聞でも、下記のように特集コーナーが組まれています。米国は中国に、中国政府の求心力の基盤の一つでもある補助金政策の廃止を訴えており、交渉は難航しそうです。今回は、そもそも米中通商問題は、なぜ起きたのか。それによる、雇用への影響を学術研究の視点と、新刊「30年分の経済ニュースが1時間で学べる」の図解や内容と一緒にお伝えしていきます!

*そもそも米中通商問題はいつ起きた?

 トランプ大統領は大統領選に立候補している頃から、「メイクアメリカグレートアゲイン」「アメリカ・ファースト」を掲げていました。それは、米国製造業の雇用者が回復が芳しくないのは、中国のせいであり、中国からの輸入による貿易赤字のせいだ…という論調をトランプ氏は唱えていたのです。そして、実際に2018年7月、トランプ大統領は対米貿易黒字国である中国への追加関 税措置を発表し、米中貿易戦争が勃発しました。中国からの輸入を減らして貿易赤字を減らそうとしたのです。しかし、専門家の多く は貿易赤字はアメリカの産業構造の問題だと指摘します。このイラストは、これまでの米中貿易戦争の状況です。

(出展:新刊「30年分の経済ニュースが1時間で学べる」より)

*でも、貿易赤字削減でアメリカの雇用は回復するのか? 

 マクロ経済学者の大家である経済学者カメール・ダロン・アセモグルはAcemoglu(2016)で、2000年代にアメリカで失われた雇用345万人のうち、中国からの輸入増加の直接的な影響で60万人の雇用が減ったと分析しています。しかし、彼の別論文では、産業用ロボットの導入が米国の雇用喪失につながっ ていることも指摘しています。こうした分析から、輸入抑制だけでは雇用の拡大は期待できないでしょう。また、グローバリゼーションによる雇用への影響は、私が見ている実証研究の範囲では統一的な見解は無いように見えます。最近は、グローバリゼーションよりも技術革新による雇用への影響を指摘する実証研究が増えていると感じます。

 例えば、著名な経済学術誌Journal of Economic Perspectivesの2019年の春号では技術革新と雇用への影響についての特集が組まれています。技術革新によるリタイアメント層の再雇用への影響、AIや自動車による労働市場への影響、中国でのロボット市場など…。これをみても、国境が曖昧になる世界で貿易赤字ありきだけで政策を考えるのは、現実とずれているように感じます。

 米中貿易戦争にはどんな未来予測ができるでしょう? 現在すでに、 貿易戦争によって両国の経済には物価高などの思わしくない影響が出は じめています。両国の国民から保護貿易への批判の声が高まり、自由貿 易を求める声がもっと出てくれば、政治もそれを受ける形で保護貿易か ら徐々に自由貿易に戻っていくのではないか、と私は予測しています。また、このコラムには記載できなかった図表や解説は、新刊にも記載しています。その他の関連論文も掲載しています。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

応援いつもありとうございます!

崔真淑(さいますみ)

 


 

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