「前向きに」を強いない、ということ
新型コロナウイルスに関係する内容の可能性がある記事です。
新型コロナウイルス感染症については、必ず1次情報として厚生労働省首相官邸のウェブサイトなど公的機関で発表されている発生状況やQ&A、相談窓口の情報もご確認ください。またコロナワクチンに関する情報は首相官邸のウェブサイトをご確認ください。※非常時のため、すべての関連記事に本注意書きを一時的に出しています。
見出し画像

「前向きに」を強いない、ということ

「コロナに負けない」
「心を一つに頑張ろう」
「乗り越えよう」

新型コロナウイルスの感染拡大で外出自粛の要請が続く中、そんなスローガンを聴くことが増えたように思う。

その一つ一つ、大切なことだと思う。誰かの励みになる言葉かもしれない。でも一方で、心の中に違和感も残る。

「ぜひ前向きになれるコメントを」と求められる度に思う。前を向くのも歩むのも、それぞれのペースでいい。だから私が誰かに、そのリズムを強いるのは違うのではないか、と。

「前向きになれるものならなりたい、でも今はできない」。そんな状況の人たちが、たくさんいるはずだから。

Dialogue for Peopleの理事でもあるジャーナリストの堀潤さんが、こんな時こそ大切なのは「不安を口にしてみる」ことだとインタビューで語ってくれた。

「不安」というものは、ニーズだと思うんです。

「こんなことがして欲しい」「こんなことが不安だ、嫌だ」という声を発信すること。その声は必ず誰かが受け取って、「じゃあこういう方法を考えよう」とか、その先に繋がっていくはずです。

不安はニーズ。口にすることで、何が今社会の中で必要とされているのかが分かる、と。逆に言うと不安を口にできる場がなければ、その人がどんな支えを必要としているのかが見過ごされてしまうかもしれない。

東日本大震災直後にも、同じことを感じたことがある。

義理の両親が岩手県陸前高田市で被災し、義母は一カ月後に川の上流の瓦礫の下から遺体となって見つかった。

「頑張ろう」「前を向こう」とメディアで繰り返される言葉は、日本中が悲しみに覆われる中で、灯でもあった。

けれどもその言葉が響いてくるたびに、義父の心が追い詰められていくのが分かった。「自分は頑張ることができていない」「自分は前を向けていない」と、自分自身を責めていたのだ。

被災直後の街で出会った人たちも、同じようなことを口にしていた。

「家、流されたけど、うちは誰も亡くなってないから」
「あそこの家はあんなに人が亡くなってるから」

そこに続くのは大体、「だから自分なんかが弱音を吐いちゃいけない」という言葉だった。あの人の方が大変だから、自分は我慢しなければ、と。

その上で気がかりなのは、子どもたちのことだった。

東日本大震災直後、陸前高田市内で出会った子どもの中には、こちらから尋ねていないにも関わらず、震災当時のことを驚くほどよく話す子どもたちがいた。

ある避難所の片隅に座り込んでいた、一人の少女呼び止められたことがあった。

「ねえねえ、じいちゃん帰ってこないんだよ」

私が言葉を紡ぐ間もなく、彼女は堰を切ったように語り続ける。

「じいちゃん、公民館から一回家に戻ったんだって。寒かったからね、私の上着取りに行ってくれたの」
「ねえねえ、もっとじいちゃんのこと聞いて!私に質問してよ!」

その子のおじいちゃんは、自宅の屋根に乗って流されていくのを、近所に人に目撃されたのが最後だったと、後から知った。

そんな子どもたちを見守る大人たちは、口をそろえてこう言う。

「子どもたち、身近な大人には、震災のことをあまり話さないんですよ」。

周りの大人たちが生活を立て直すのに手いっぱいだということを誰よりも感じ取っている。けれども誰かに話を聞いてほしい…こうして行き場をなくした言葉は、どこへ向かえばいいのだろう。

新型コロナウイルスの影響で、生活するのに手いっぱいの人、明日もどうなるのか分からずに不安な人、自分の気持ちを誰に話していいか分からなくなっている子どもたちがたくさんいるのだと思う。

そして「自分たちよりも大変な人がいるから」と、「助けて」といえない人たちもいるはずだ。

「前向きに」という呼びかけは、誰かの励みになる一方で、そんな不安を抱える人たちの言葉をかき消してしまうかもしれない。

水曜日に担当しているラジオ番組には、リスナーさんから様々な声を寄せて頂いている。「ポジティブなメッセージを送って」よりも、「まずは不安を口にして」と、これからも呼びかけ続けたいと思う。

実際に困っている方々へ。

生活支援: 東京アンブレラ基金
DV相談: 『DV相談+』
誰にも相談できない悩み: よりそいチャット

参考:


この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
NPO法人Dialogue for People副代表、フォトジャーナリスト。国内外で災害や貧困、難民問題の取材を続ける。J-WAVE「JAM THE WORLD」水曜日。TBS「サンデーモーニング」出演。 https://d4p.world/