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「トークン化」の実相についての試論(4)ー不動産のトークン化

ここまで法律が原資産の帰属と移転が帳簿の記載と一致することを確保してくれるタイプのアセットのトークン化と、私法上の金銭の一般理論から導かれる預金債権の法的性質論という議論の肩に乗ったステーブルトークンの法律構成についてご説明してきました。

ここからが少し込み入った話になります。まずは原資産の帰属と移転が帳簿の記載と一致するとは限らないタイプの資産として、不動産と動産のトークン化を見ていきたいと思います。

トークン化を考えるためにはトークンのことを考えてはいけなくて、ブロックチェーンという帳簿の記載が原資産に対する権利と一致する形を作れるような法律構成を考える必要があるということを第1回でご説明しました。

その応用として不動産を見てみましょう。不動産の権利関係をつかさどっている帳簿は、不動産登記簿です。不動産登記簿は法務局が管理しており、当然のことながらブロックチェーン化していませんので、たとえば不動産の所有権をトークン化して小さい単位で取引できるようにする云々というプロジェクトは、そのままの意味においては、少なくとも今の日本で行うことができません。不動産の所有者が、自らの不動産の共有持分権をブロックチェーンで管理するのであると宣言し、細かいトークンを作って、このトークンの保有者は不動産の持分権者である、と言うだけのことはできます。不動産の所有者が誠実な人で、このトークンを総発行量の1/10を持っているんだから共有物の分割請求をする、ということを言ってきたトークン保有者に、その権利を認めて素直に分割に応じるのであれば、それはそれでめでたいことではあります。けれども、これは法律構成の名に値しません。なぜなら、いくらこのトークンを譲渡しても、これによって不動産の物権変動が対世的に起こることはありません。不動産の物権変動は不動産登記をしなければこれを第三者に対抗することができないわけでして、トークン保有者AがBにトークンを譲渡し、譲受人Bが不動産所有者に対して「トークン持ってるんだからその分の物権変動を認めろ」と言ったところで、第三者たる不動産所有者はこれを認める筋合いはありません。もちろん、裁判所もそのようなBの主張に力を貸してくれません。

不動産をトークン化する方法としてもっともシンプルなのは、不動産を信託して信託受益権の管理帳簿がブロックチェーンによって実装されたものであると整理する方法であるように見えます。信託会社が不動産が含まれる信託財産を管理する受益権をブロックチェーンで管理することを意味します。

この場合、受益権の譲渡は指名債権譲渡のルールに従うことになっていますので、当事者間では合意によって移転し、その移転を債務者に対抗するためには債務者がこれを承諾していれば良いことになります。信託会社が、トークンの保有者は受益権の保有者であることを認める、ということを広く宣言し、これに反する行為をしなければ、対信託会社との関係では、ワークしそうにも見えます。

しかし、この受益権の譲受取得を第三者に対抗するためには信託会社に対して確定日付のある通知をするか、または信託会社が確定日付のある承諾をするかしなければなりません。したがって、たとえば、受益権トークンの保有者Aが一方でトークンをBに譲渡し、他方において原資産である受益権をブロックチェーンの外でCに譲渡したうえで、信託会社に対してCに譲渡したことを確定日付付きで通知した場合には、信託会社はトークンを持っていないCを受益者として扱わなければならないことになります。対してトークンを保有しているBは受益者ではないことが確定してしまいますので、トークンは空っぽの帳簿記載ということになってしまいます。これはさすがに仕組みとしては持ちそうにありません。

こうしたことを運用面でコントロールするためには、受益権者は必ず信託会社にアカウントを作ってもらって、受益権の移転については振替のような手段をとってもらうという方法が考えられます(信託会社としては犯罪収益移転防止法の観点からも、このような構成のほうが心地よいのではないかという気がします。)。ただ、このようにした受益権トークンはブロックチェーンで実装したメリットが果たしてあるのか、という根本的な問いに直面する可能性があるように思います。ステーブルコインはそれ自身に意味があるというよりはスマートコントラクトを走らせるための通貨として作るものなので、電子マネー的な構成もありうると思いますが、受益権トークンのようなコンテンツのレイヤのトークンが、クローズドであることの意味があるのかどうか、というのがここでの問題意識です。このあたりは今後、案件を具体的に取り組んでいく中で、皆さんと悩みながら考えていきたいと思います。

なお、不動産については、現物の譲渡にあたっての税の問題、不動産特定共同事業法との関係、受益権についてはこれが有価証券に当たるため、取り扱うためには第二種金融商品取引業のライセンスが必要であること等の超えなければならない論点がたくさんあります。ただ、こうしたものは究極のところやればよいだけですので、トークン化に伴う根本的な論点と比べれば、小さな問題だと思います(もちろん、実務的には業法周りで案件が頓挫することは十分にあるわけですが、そういうミクロな話ではなく、そもそもトークン化というコンセプトが可能なのかどうか、という話をしています。こんな信託を受けてくれる信託会社、ちょっと日本では想像できませんよね。)。


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