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ロシア・ウクライナ情勢による新興国への影響

ロシアとウクライナの直接的な紛争の可能性が増し、金融市場もそのリスクを見極めようと動いている。しかし、このようなリスクは見通し難く、正直よくわからない。しかし、リスクが現実のものとなった場合に備えることは重要である。

厳格な制裁が引き金となり、たとえ一時的とはいえ、主要品目の世界的な供給に影響を及ぼす可能性が高い。貿易の全面禁止は考え難いが、地場銀行や世界の決済システムに対するロシアのアクセス、また、最悪の場合ルーブルとハードカレンシーの取引に制限が加えられる可能性があり、ロシアの輸出品の決済の妨げとなると考えておく必要がある。ロシアは燃料、肥料、小麦、金属の重要な輸出国のため、そうした制裁はコモディティ市場に相当な影響を及ぼすことも予想される。昨今のエネルギー価格の高騰を見る限り、一定のリスクは既に織り込まれていると考えるのが妥当だが、無視はできない。

仮に紛争が勃発した場合、新興諸国でも今年見込まれるディスインフレのシナリオはなくなるか、少なくとも遅れることも見ておきたい。主な生活必需品への直接的な影響が、消費者のインフレ期待、ひいては賃金やサービス価格を押し上げる方向で働くためである。地政学的な影響の急拡大によって、その結末に関係なく、昨年後半のパターンと同様、再びインフレ率や金利の上振れの一因となりえる。

また、新興国の対外収支にも相当な影響が出てこよう。コモディティの主要輸出国では、輸入の大幅な回復、拡大するも、純輸入国ではネガティブな影響が出やすいと見ておく必要がある。燃料に限らず、ロシアは全体の5分の1近くを占める世界の主要な小麦輸出国であり、ウクライナが僅差でこれに次ぐこともポイントの一つである。ラニーニャなどの異常気象と供給の乱れが続いているため、穀物価格はすでに上昇しているが、エネルギー価格の上昇も相まって、食品価格に影響を及ぼす。加えて、ロシアは肥料の主要輸出国でもある。硝酸アンモニウムの世界輸出の45%を占めるほか、大量のカリ肥料やリン酸肥料も供給している。これらを輸入しているのが、米国とブラジルだが、それらが十分に得られなければ、トウモロコシや大麦などへの生産にも影響が出る。こうしたことから、新興国のインフレ動向に相当の不透明感をもたらすことになりかねない、ということになる。

ロシアとウクライナの紛争の動向がどうなるかに関わらず、新興国へのインフレ要因が増大化している、という点は気にしておく必要がある。そうでなくともクレジットリスクが高まっている新興国経済へは、もっとも影響がない場合でもボディーブローのように効いてくると考えられる。これが新興国のソブリンリスクへの懸念材料となろうことは論を俟たない。

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