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ロシア軍事侵攻で「ESG投資ムーブメント」は過渡期に!?〜戦争とESG投資パフォーマンス〜

 経済・投資メディアにおいて、「ESG投資」という言葉を頻繁に目にするようになりました。ESG投資とは、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素に配慮したESG経営を行う企業などに投資することを指します。下記の記事にもあるように、企業にESG経営を促すための情報開示制度の整備が進んでいます。ただし、ESG投資といっても、社会を良くするツールになるだけではなく、投資パフォーマンスを上げる必要があります。社会を良くするファンドであっても、利益は1円もでないとなれば、多くの投資家がお金を投じてくれず、ESG投資ムーブメントも持続可能出なくなるからです。今回は、ロシア軍事侵攻でESG投資のパフォーマンスがどのようになっており、これからどう変化しうるのかを考察します。

ESG投資パフォーマンスを巡る通説と学術研究

 ESG投資による投資パフォーマンスは、コロナ禍など有事の時ほど発揮されることや、金融危機の時にも強いと言われてきました。データ検証を用いいた先行研究(*1)でも、そうした事象が報告されています。しかし、ロシアの軍事侵攻の渦中においては、ESG投資は必ずしもパフォーマンスが良好ではないようです。むしろ、ESG投資を意識していたからこそ、パフォーマンスが悪化するケースも散見されるようです。ESG投資の課題を鋭く指摘しているのが、下記のFTの記事です。

ロシア軍事侵攻とESG投資の課題

 上述のFT記事では、ロシアのウクライナ軍事侵攻によりESG投資の課題が急激に露呈されたと報告しています。というも、軍事侵攻開始の前日2022年2月23日時点で、大手ESG格付け会社の格付けランキングの上位にはロシアを代表する大企業(everstal、Sberbank、Yandex、Lukoilなど)が組み込まれていました。こうした企業は、多くの投資家が軍事侵攻を予見してか、株価は急落していました。加えて、ウクライナ情勢の悪化は昨年から指摘されていたものの、こうしたロシア大企業が社会を良くするESG企業として格付け上位だったといのは、なんだかなというところです。ロシア軍事侵攻は、ESGの理念とはかけ離れており、ロシア政府に納税という形で貢献を行うロシア企業に対して、ESG投資家(ESG格付けを参考に投資を行う機関投資家)は厳しい目を持つはずなのですが・・。

こうしたことが起きる理由は、ESGの定義と格付け尺度の曖昧さが大きく、格付け対象企業が存在するする国に対してもESG格付けを行う必要がある。しかし、それは格付けコストを上昇させ、それは一筋縄ではいかないからと、記事では報告しています。ESG投資の理念は素晴らしいものの、ESG貢献度合いを測定するのは、やはり課題が山積しているようです。

実際、2014年にノーベル経済学賞を受賞したジャン・ティロール教授の著書(*2)においては、株主だけでなく企業を取り巻く全てのステークホルダーに配慮した経営(≒ESG経営)は素晴らしいが、経営評価が非常に曖昧になり難しい。だからこそセカンドベストとして数値として評価しやすい株主利益を意識した経営が浸透してきたと、指摘しています。

ロシア軍事侵攻とESG投資パフォーマンスの傾向

 ちなみにこの記事では、戦争が開始されてからのESG投資パフォーマンスについても言及しています。ESG投資ファンドの多くが、石油エネルギー関連企業のESG投資ポートフォリオのウエイトが極めて小さかったことから、市場リターン(S&P500、TOPIXなど、その国の株式市場の動向を示す株式インデックスのリターン)に対して投資パフォーマンスで負け越すESG投資ファンドが散見されているとも報告しています。

 ESG投資は社会を良くしながら、投資パフォーマンスを出そうという、理念としては素晴らしいものではあるものの、その両立にはESG格付けの適切な測定が必須です。今回のロシア軍事侵攻は、格付け会社のあり方や、機関投資家や個人投資家のESG投資との向き合い方を変化させるかもしれません。引き続き、要注目です!

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

応援いつもありがとうございます!

崔真淑(さいますみ)

*冒頭の画像は、崔真淑著『投資1年目のための経済・政治ニュースが面白いほどわかる本』(大和書房)より引用。無断転載はおやめくださいね♪

*****参考文献*****
*1 Hidenori Takahashi, Kazuo Yamada, “When the Japanese Stock Market Meets COVID-19: Impact of Ownership, China and US Exposure, and ESG Channels”, International Review of Financial Analysis, Volume 74, March 2021

*2  Jean Tirole, “The Theory of Corporate Finance” ,Princeton University Press



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