2年連続の最小レンジ【2019年、為替概観】
過去2年のG10通貨を概観する:強かった円
今年も残すところあと2週間となりましたが、相変わらず為替市場に動意が戻ってくる気配はありません。このままいけばドル/円相場は2年連続で過去最小レンジを更新することになりそうです(ちなみに値幅は僅か8円強でした)。本当に「静寂」と言っても過言ではない相場でした(あと2週間で荒れなければ、ではありますが)。
なお、静かだったのはドル/円だけの話ではありません。G10通貨に関し、2018年および2019年における対ドル変化率の推移を見ると、①2019年は2018年と比べてかなり値動きが抑制されているということ、②過去2年、対ドルで上昇を継続できている通貨は円だけであること、③円の「動かなさ」は突出していることが分かります。
なお、今年対ドルで上昇した主要通貨は英ポンド、カナダドル、そして円のみです。しかし、昨年(2018年)初頭からの過去2年間という目線に広げた場合、違う景色も見えてきます。過去2年間で見れば対ドルで上昇した通貨は円だけであり、カナダドルも英ポンドも2018年に大きく下落したから今年、値を戻せたのだという事実も見えてきます。もちろん、カナダドルは1.75%というドルに並ぶ高い政策金利、英ポンドは師走間際に飛び込んできたブレグジット方針の確定の報という追い風もありましたが、基本的には「昨年は弱かった通貨」です。過去2年間の為替市場はドル一強が続いていながら、円だけがこれに食らいついてきたという解釈は持ちたいものです。
対外債権国通貨としての魅力は健在
円が「2年連続でドルに勝てた唯一の通貨」だったという事実は、やはり世界経済が減速し、米金利が落ち込むような局面では安全資産として「買われる通貨」であったことの証明と言えるでしょう。その買われる度合いがかつてよりも弱まっているのは事実にせよ、為替市場における円の位置付けまでもが根本的に変わったわけではありません。
なお、上でも少し言及しましたが、今年、カナダドルが対ドルで上昇幅を確保できているのはひとえに「緩和しなかった通貨」であり、その結果として政策金利が1.75%と米国と唯一互角であるという点も影響していると思われます。しかし、周知の通り、円は金利面での魅力は皆無です。とすれば、対外債権国通貨としての魅力が未だに評価されていると考えても良いのではないでしょうか。相場を考える際、「水準」の議論と「方向」の議論は分けて考えねばならないと思います。「水準」としては確かにかつてほど円高・ドル安にならなくなっているように感じますが、「方向」は円高・ドル安だったというのが過去2年です。ドル/円相場が100円という水準を割らなかったからといって「安全資産としての円買い」が発生しなくなったわけではなく、方向としては唯一、ドル高に対抗できた通貨としての円があったという事実は軽視すべきではないように思います。
その上で「何故、これまでのような円高水準に至らないのか」という次元の議論に進むべきだと思います。その背景にはAI取引の活発化や対外債権構造の変化(FDI比率の高まり)、依然として高いドルの絶対金利水準、世界経済をけん引する米経済の立ち位置etc複数の要因があろうかと思いますが、これはまた別の機会の議論に譲りたいと思います。
いずれにせよ、こうした静かな相場は企業部門にとっては非常に好ましいものだとは思いますが、一方で来年こそは米中貿易戦争やブレグジットのヘッドラインだけに振らされる「つまらない相場」にならないと良いな・・・と考える市場参加者はとても多いのではないかと思います。