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大企業の社長スピーチを考える初コンサル案件は、「怖さ」と「喜び」の両方を教えてくれた

岡田 庄生 | ブランド戦略コンサルタント

新卒で博報堂に入社した私は、7年目に大きな異動を経験します。

異動先は、できたばかりのコンサルティング部門。

初めて担当した案件で、「もしかしたらコンサルタントとしてやっていけるかもしれない」という、小さな成功体験を味わいます。

その後十数年続くコンサル人生の起点となった「あの会議」について、今日は書いてみたいと思います。

仕事の重大さに気づいた日

自分の仕事は、結構ヤバい。

そう感じた日のことを、いまでもはっきり覚えています。

場所は、都内の有名ホテル。そのホテルで最も大きい宴会場には、1,000人を超えるガソリンスタンドの経営者が全国から集まっていました。

そして、私はその熱気から逃れるように、入口近くの目立たない場所に、ひっそりと立っていました。

1,000人の聴衆が見つめる先は、某大手エネルギー企業の社長。

その日は、この企業の創業○周年を、加盟する全国のガソリンスタンド経営者たちが一堂に集まって祝う、記念すべきイベントでした。

壇上の社長のスピーチは、いよいよ本題である、未来の経営戦略のパートに入っていきます。

その、社長の口から発せられる言葉を、私は完璧に予測することができました。

なぜなら、その言葉は、数日前に私が書き上げた言葉だからです。

自分が書いた言葉を、全国からわざわざ集まった1,000人の経営者が、熱心に耳を傾けている。

その事実が、自分がいかに責任重大な仕事をしているのかを教えてくれました。

「これは、ヤバい仕事だ…」

これが、コンサルティングという仕事の怖さを感じた日のこと。

今から十数年前、コンサルティング部門に異動して初めて担当したプロジェクトでした。

初案件は社長スピーチを考える仕事

博報堂に周年記念イベントの運営の依頼が来たのは、その日から数えて約1年前のこと。

一番最初に対応したのは、イベント運営専門のチームでした。

会場となるホテルの予約や、ステージの装飾、第2部に登場する大物歌手(本当に大物でした)のブッキング。

着々と準備が進む中で、唯一進んでいなかったもの。それが、第1部に登壇する社長によるスピーチでした。

全国から集まるガソリンスタンドの経営者たちが、周年イベントで聞きたいもの。それは、大物歌手の歌ではありません。

ガソリンスタンドの経営者たちは、大きな不安を抱えていました。当時、地方の過疎化した街でガソリンスタンドが閉鎖するニュースが大きく報道されていました。

ハイブリット車や電気自動車が今後さらに普及することは明らか。ガソリンスタンドのビジネスに明るい未来は見えていませんでした。

そんな中で開催される周年イベントで、エネルギー会社の社長がどんな未来を語るのか。それこそが、全国から集まるガソリンスタンドの経営者たちが聞きたいことでした。

しかし、イベント運営専門チームではその内容まで考えることは難しいという話になり、コンサルティング部門の私に声がかかったのです。

ヒントは銭湯とスパの違い

スピーチを考えるプロジェクトが始まって間もない、ある日。

私は、クライアントの会社の会議室にいました。

目の前には、周年イベント全体のリーダーである経営企画部長のAさんが座っています。

後に若くして役員になるAさんは、社長スピーチをどうしたら良いのか分からず、困っていました。

「岡田さん、全国のガソリンスタンドの経営者は、一国一城の主人。難しい経営戦略の話をしても、なかなか伝わらないんですよね。どんなスピーチにすればいいのでしょうか。」

もちろん、新米コンサルタントである私にだって、どうしたら良いかわかりません。

でも、真剣に悩んでいるAさんのヒントになれば・・・。そんな思いで、私はこんな話をしました。

「どう伝えるかの前に、そもそも何が問題なのか、から考えましょう」

私は、近くにあったホワイトボードに文字を殴り書きながら、話を続けました。

「銭湯って全国にたくさんありますよね。ガソリンスタンドと同じように、インフラ産業として日本人の清潔さを支えてきました。でも、今、シャワーがない家の方が珍しくなり、銭湯の経営は未来が見えない状態です。

一方、スパは若い女性に大人気です。会社帰りにスパに立ち寄る人が増えている、そんなニュースをよく見ます。同じ『大きな湯船がある施設』なのに、何が違うのでしょうか?

もちろん、見た目のキレイさや立地など、違いはいくつか思いつきます。でも、決定的に違うのは、『銭湯のおやじ』と『スパの経営者』の発想だと思います。

例えば『銭湯のおやじ』は、若い人にも来てもらおうとして、オシャレな石鹸やタオルを用意するかもしれません。でも、発想の根本は「お風呂は体を洗うところ』から抜けきれません。

一方、スパの経営者は、『お風呂は心を癒すところ』だと考えています。だから、マッサージを充実させたり、アロマを用意したりして、日頃のストレスを発散させたい若い女性の心をつかんでいます。

時代の変化に合わせて事業を本当に変えようとしたら、これくらい根本的な発想転換が必要だと思うんです。」

私の話にじっと耳を傾けていたAさんが、何かに気づいた様子で声を発しました。

「そうなんです。うちのガソリンスタンドの経営者たちは、まさに銭湯のおやじなんです!

聞けば、ガソリンだけでは売上が難しいので、最近では修理やレンタカーのサービスを始めているガソリンスタンドも増えているとのこと。

でも、どのサービスもいまいちパッとしない。それは、「ガソリンスタンドは車のための場所」という従来の発想から抜けきれていないからではないか。

銭湯の話がきっかけになって、Aさんの頭の中が整理され始めたようでした。

そして、スピーチの伝え方ではなく、そもそもガソリンスタンドは何のための場所になるのか、その場所に相応しいアイデアとは何なのか、それを見つけることが重要だ、といった論点が見えてきたのでした。

経営者の課題に向き合うのがコンサルタントの仕事だ。

そう思っていた私は、この会議でのやりとりで、「もしかしたらコンサルティング部門でやっていけるかもしれない」という小さな自信を得ることができました。

大袈裟に言えば「天職かもしれない」と感じさせてくれた瞬間でした。

その後、私たちは数ヶ月かけて「ガソリンスタンドは何のための場所になるのか」を考える全社横断型のプロジェクトを実施。

ワークショップを何度も重ね、最終的に社長のスピーチが完成しました。

それが、冒頭に書いた記念イベントへ、そして責任の大きさに対する怖さへと繋がっていくのでした。

答えは相手の中にある

それから約10年間。

私はいまだにコンサルティング部門に在籍していて、マーケティングやブランディングのコンサルタントを続けています。

近年、DX分野の盛り上がりによって、コンサルティング業界が伸びてきています。

一方で、コンサルタントに頼りすぎると「依存症」になるという記事もあります。

コンサルタントは高い専門知識を持っていて、お金を払えば正しいやり方を教えくれる、というイメージがあるかもしれません。

でも、私が考えるコンサルティングは、少し違います。

私は、Aさんのように真剣に事業に向き合っている人には、その人の中に答えがあると思っています。

ただ、複雑な現象が絡み合っていて、整理がうまくできていないだけなのです。

だから私は、そんなAさんのような企業のリーダーの悩みを整理して、何をすべきかを明確にすることが、コンサルティングの本質的な仕事だと考えています。

言い換えれば、「岡田さんと話していたら、何をすべきか見えてきました!」と言ってもらえた時が、一番嬉しい瞬間です。

相手の悩みに寄り添って、複雑に絡み合った課題をシンプルにする。

そんなコンサルティングを、これからも続けていきたいと思います。

※Twitterでは、気になる事例をコメントつけて毎朝投稿しています。他社事例をたくさん知っておくことは、コンサルティングの時にもとっても役立ちます。

※この記事は、日経電子版・日経COMEMOで開催する お題企画「#天職だと感じた瞬間」の参考作品として、主催者から依頼をいただいて書きました。

参考になったか分かりませんが、おかげで自分の原点を思い出す良い機会になりました。みなさんの「#天職だと感じた瞬間」の投稿も楽しみにしています!

Photo:https://unsplash.com/

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天職だと感じた瞬間

with 日本経済新聞

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岡田 庄生 | ブランド戦略コンサルタント

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岡田 庄生 | ブランド戦略コンサルタント
博報堂ブランド・イノベーションデザイン局 部長 / 博士(経営学) / 共創型のブランディング・イノベーション創出が専門 / 日経COMEMO KOL / 著書「アイデア練習帳」(日経文庫)ほか / 法政大学・青山学院大学・武蔵野大学 非常勤講師 / 趣味はキャンプとコーヒー☕️