オープンなコミュニケーションに馴染むまでに必要な3つのステップ

昨今、新型コロナウィルス感染拡大の影響で、多くの企業が在宅勤務に挑戦し始めている。

在宅勤務が難しい職種の人たちの通勤リスクを減らすためにも、テレワークが可能な人は、できる限り出社しないことが求められる。

しかし、これまで会社で仕事をしていた人たちが、突然テレワークに挑戦するとなると、当然、さまざまな環境変化が発生する。

たとえば、コミュニケーションツールの転換はその1つだ。

――在宅勤務を円滑にこなす上でのアドバイスがあれば。
「在宅が原則だからこそ、オンラインのツールなどを使って社員同士で積極的に意見交換をしてほしい。出社する場合も、週に何回とあらかじめ決めておくより、仕事の都合に合わせて柔軟に対応した方が精神的にも楽ではないか。いずれにせよ、同僚や顧客、家族らとのコミュニケーションをこれまで以上に大切にしてほしい」

オンラインのコミュニケーションツール、と一口に言ってもさまざまな種類が存在するが、在宅勤務が主流になってくるとオープンにコミュニケーションできるツール(グループウェア等)を活用する機会も増えてくる。

実際、オープンにコミュニケーションができるツールは多様な働き方と相性が良い。記録として残らないクローズなコミュニケーションが中心かつ在宅勤務でメンバーの姿もまったく見えない状況は、チーム内の情報格差を生み、結果的に、生産性の低下やメンバー同士の不信感にもつながりやすい。

一方で、これまで対面や電話、メールといったクローズなコミュニケーションに慣れてきた人からすれば、テキストベースかつオープンな場でコミュニケーションすることには抵抗があるのではないだろうか。

かく言うぼく自身、サイボウズに転職した当時はそうだった。

微妙なニュアンスをテキストで伝えるために、いちいち言語化するのは手間がかかったし、オープンな場に言葉として残してしまうことで後々面倒なことになるんじゃないかという考えもあり、転職前は、対面や電話といったクローズなコミュニケーションを多用していた。

そのため、電話やメールを一切使わず、プライバシー情報とインサイダー情報以外、すべてオープンにコミュニケーションされているサイボウズでうまく働けるようになるまでには、いくつかのステップがあった。

今回は、ぼくの実体験をもとに、オープンなコミュニケーションにスムーズに移行するまでの軌跡を紹介したい。

(1)本当に、本当にいいんですね?

入社して最初に直面したのは、そもそもオープンな場所に何かを書くなんて怖くてできない、という問題だった。一応、クローズにメッセージできる手段も用意されているため、気を抜くと、すぐそちらを使ってしまうのだ。

しかし、先輩にクローズな場所でメッセージを送っても「オープンな場所でやりとりさせてもらっていい?」と返ってくることが多く、そのたびに「本当に、本当にいいんですね?」と何度も確認した。

オープンな場所で何かを書くには勇気が必要だ。

任意の切り取られ方をされるかもしれないし、全然知らない部署の人から攻撃されるかもしれない。もしかすると「お前、あの時、こんなこと書いてたじゃないか」と揚げ足取りの材料に使われることだってあるかもしれない。

いま思えば、ぼくが最初の一歩を踏み出すことができたのは、チームとしてオープンに発信することを推奨する合意があったことが大きかった。

オープンに発信することがネガティブに捉えられることは絶対にない、という共通認識があることが分かって初めて、「じゃあ、ちょっとずつ試しに書いてみるか……」という気持ちになっていった。

(2)オープンって、楽しい!

業務上のコミュニケーションや日報など、おそるおそるオープンな場所に書きこみ続けていくうち、ある時からぼくの心境に変化が訪れた。

端的に言うと、オープンに書くことが楽しくなってきたのだ。メリットを実感し始めた、と言い換えてもいいかもしれない。

たとえば、仕事で困っていることをオープンに書くと、相談している相手以外の人からアドバイスをもらえることがあった。

また、自分がいま何の仕事をしているのか、自分がいまどこで詰まっているのかを定期的につぶやいておくことで、「あ、その話、今ちょうど○○さんが調整してるからちょっと待って」とか、「ここに関連の議事録あるよ~」など、多様な情報が集まってくるようになったのだ。

公開の場で色んなことを書きこんでおくと、仕事も進めやすいし、何より、チームメンバーとのつながりも感じやすい。そう思い始めてからは、寧ろ、積極的に発信するようになっていった。

振り返ってみると、ここではオープンな発信に対するチームメンバー同士の積極的な反応が、ぼくにとってポジティブに作用していたように思う。

もちろん、自分宛でもない発信に、いちいちコメントを返すほどチームメンバーも暇ではない。ただ返信までいかずとも、コメントに「いいね」を押してもらえるだけで、見てもらえている実感が湧き、発信のモチベーションになった。

徐々に仕事にも慣れ始め、そろそろ自分も他のチームメンバーや他本部の人たちの発信を見てみようかな、と思い始めた矢先、次なる壁が現れた。

(3)情報の海に溺れる

情報がすべてオープンになっているということは、裏を返せばとんでもない情報量に囲まれて仕事をしている、ということだ。

もちろん、自分宛の通知とそれ以外の情報は分けて手元に来るのだが、この「自分宛ではないが、オープンになっている情報」まですべて拾いに行こうとすると、あっという間にキャパオーバーになってしまう。

社内のグループウェア上には、業務に関連するコミュニケーションだけでなく、業務と直接は関係のない、他愛ないやりとりも無数に存在している。

その中で自分に必要、あるいは関係のありそうな情報だけを取捨選択し、かつ、知り得た情報をどう取り扱うかも自分で判断していかなければならない、というのは正直言って、かなりのストレスだった。

他の人たちはどうやって、この情報の海のなかで仕事をしているんだろう。もしかして、ぼくの情報処理能力が低いだけなんじゃなかろうか。そんなことを思い始めた時、ぼくを救ってくれたのは、ある先輩の一言だった。

「あきらめちゃえばいいんだよ」

肩肘張って、全部の情報に目を通さなきゃいけない、と頑張る必要なんてない、と先輩は言った。

本当に見てほしい情報は必ず自分宛に送られてくるから、それ以外の情報については、一旦あきらめる。自分宛以外の情報はあくまで、余裕がある時のオプションとして位置付ければいいんだよ、と。

ぼくはふと、インターネットやSNSの考え方と同じなのかもしれないな、と思った。現に、開かれたインターネット空間では、会社の中にある情報量など比べものにならないほど膨大な情報が日々公開されている。しかし、その中で自分が触れる情報なんて、ほんのごく僅かだ。

大事なのは「会社内すべての情報を頭に入れておくこと」ではなく、「知りたいと思った時にその情報が公開されていること」だ。

経営会議で誰が何と発言をしてどんな意思決定がなされているのか、マネジャーがふだん裏でどんな調整をしてくれているのか、他のチームメンバーがどんなことに困っているのか。それらすべてを、見たい時に検索すれば見ることができる、この透明性こそが大切なのだ。

こうしたマインドの転換があってからは、随分と気持ちが楽になった。

また、大量の情報を浴び続けるうち、思わぬ副作用として情報処理のキャパシティも広がってきたのか、次第にストレスも軽減されていった。

オープンなコミュニケーションは未来への投資だ

こうして、最初はビビッて書くことさえ憚られていたぼくも、最終的には、無事、オープンなコミュニケーションに馴染むことができた。

ここでぼくなりに、オープンなコミュニケーションに移行する際に必要だったステップを改めて整理してみた。

オープンな発信へのスタンスをチーム内で合意し、安心感を確保すること
②メンバー同士で反応し合い、オープンに発信するメリットを体感すること
③「常に全部知りたい」から「知りたい時は検索」に頭を切り替えること

こうして見てみると、多様な働き方に対応すべくオープンなコミュニケーションに移行していくためには、チームメンバー同士の協力と個人のマインドセットの転換が不可欠なようだ。

また転職から2年が経過し、最近はオープンなコミュニケーションが、柔軟な「働き方」を実現するだけでなく、「育成」という観点でも大きなメリットがあることに気がついた。

経営会議や日常的な業務のコミュニケーションなど、すべてがオープンになっていれば、役員クラスが気にする判断軸や観点、あるいは成果を出している先輩・マネジャーの仕事の進め方など、検索すれば、ありとあらゆるナレッジを、誰でも手に入れることができる。

クローズなコミュニケーションが前提の世界では、配属先上司の視座の高さや教え方の相性に育成度合いが依存してしまう、いわゆる「上司ガチャ」と呼ばれる現象が起こり得る。

しかし、あらゆるコミュニケーションがすべてオンライン上で共有されていれば、直属の上司だけでなく、色んな人の仕事の仕方を学ぶことができる。

オープンなコミュニケーションがもっと当たり前になっていけば、「上司の背中を見て育つ」から「誰の背中を見て育ってもいい」に変わっていくのかもしれない。

そしてこれは裏を返せば、自分が公開の場で発信した情報は自分だけでなく組織全体の資産になっていく、ということでもある。オープンなコミュニケーションは、未来のチームメンバーに向けた投資とも言えるかもしれない。


社内のグループウェア上では、毎日のように沢山の議論が巻き起こっている。もちろん全社公開の場なので、次から次へと色んな人が参戦し、プチ炎上状態になることもしばしばだ。

時々、そのプチ炎上している議論に呼び出される形で、ふいにぼく宛に「これ、どう思う?」とコメントが飛んでくることがある。

すべてがクローズになっていれば、こうしていきなり、公開の掲示板に召喚されるような面倒ごとは起きなかっただろう、なんて考えたりもする。

でも、こうしてオープンにコミュニケーションしているからこそ、多様な働き方が実現できているわけで、そして何より、ぼくがこれから書き込む内容は、未来への投資になるはずだ。……たぶん。

何度もそう自分に言い聞かせ、どう見ても厄介そうな議論に、今日もしぶしぶ巻き込まれていく。

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