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スタグフレーションの淵に立つユーロ圏

ユーロ圏経済は辛うじて増勢を維持

金融市場では米国の政治・経済・金融情勢に注目が集中していますが、その傍らでこれから懸案の冬が到来するユーロ圏の実体経済動向からも目が離せません。10月31日に公表されたユーロ圏7~9月期実質GDPは前期比+0.2%(前期比年率+0.7%、以下特に明記ない限り変化率は前期比)と減速しているものの、増勢は辛うじて維持しました:

速報段階ゆえ、需要項目別の詳細は明らかではないものの、インフレ高進を受けた実質所得環境の悪化が消費・投資意欲を抑制したことは想像に難くありません。国別に関して4大国を見ると、いち早く悪化が始まっていたドイツが+0.1%から+0.3%へ若干加速しているものの、フランスが+0.5%から+0.2%へ、イタリアが+1.1%から+0.5%へ、スペインが+1.5%から+0.2%へ、軒並み大きく減速しています:

もっとも域内全体で増勢が維持されている点は重要であり、コロナ前のGDP水準を超えた上での大きな減速であることは注記したい(日本はコロナ前のGDP水準にすら届いていない)。もっとも、需要項目別にその動きに迫ると、確かにGDPの仕上がりはコロナ以前を復元しているものの、輸出と政府最終消費に引きずられた動きであり、少なくとも前者は世界経済失速の影響を今後免れないでしょう:

もともと、家計の消費や企業の投資はコロナ以前と比べて脆弱性を抱えており、インフレ加速と金利上昇を受けて10~12月期は景気後退(リセッション)に陥る可能性はぬぐえません。
  
世界で最もスタグフレーションに近い状況

ユーロ圏に対する不安は月次で確認できる各種計数からも感じられます。例えばドイツIfo景況感指数やZEW景況感指数の期待指数が明らかに下方リスクを示唆しているのは既報の通りですが、域内全体でもその印象は変わりません。製造業PMIに目をやれば、世界的な悪化傾向の中でユーロ圏の悪化度合いはひときわ深いことが分かります

それでもインフレが落ち着く兆しが見られないという点も米国との大きな相違でしょう。10月政策理事会でラガルドECB総裁は金融緩和の解除に関して「著しい進展(substantial progress)」を遂げたことを認めていますが、ヘッドラインのインフレ率が減速しない中、利上げ幅を縮小するのは難しいように思えます(米国は減速しているわけですから)。

総括すれば、先進国の経済において最も景気後退リスクが高そうで、最もインフレ抑制が上手くいかなそうな国・地域がユーロ圏という状況に見受けられ、それは一言で言えばスタグフレーションの淵に立っているという言い方にもなります。ユーロ/ドル相場を見通すという観点に立てば、欧米金利差縮小がユーロ買い・ドル売りに繋がるという話になります:

果たしてそう単純に事が進むでしょうか。確かに足許ではそうなっているようにも見えますがが、スタグフレーションがテーマ視される中で当該通貨が買い進められる展開が持続可能かどうかは議論があるでしょう。年内から年明け1~3月期にかけてはパリティを断続的に割り込む展開が強いられ、(気候が温かくなり燃料価格が落ち着いてくる)4~6月期以降にようやくパリティを超えて安定できるというのが無難な予測軌道と思われます。

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