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Web3の評価基準は「面白い」かどうか メインストリームに対するオルタナティブと考えよう

最近、私の周囲でもWeb3が話題沸騰である。Google Trendでもこの傾向ははっきり見ることができる。

人々のWeb3に対するスタンスは概ね以下の3タイプに分けられるだろう。

1.Web3は世界を変える技術であり、これに乗り遅れてはいけない
2.Web3なんて言葉だけで意味ないよ
3.Web3って何?よく分からないんだけど

1のスタンスは、政治サイドからの盛り上がりの影響もあるようである。自民党が「NFTホワイトペーパー Web3.0時代を見据えたわが国のNFT戦略」を策定したり、各党が参院選の公約にWeb3関連項目を入れるといった動きから、社会的にも注目を集める結果となっている。

Web3への注目度が高まるにつれて、この技術をどう評価すれば良いのか、自分がどのようなスタンスを取れば良いのか迷っている人もいるだろう。

筆者はブロックチェーンの中でも、特に自律分散型組織(DAO)の可能性や課題について特に関心を持っており、2017年頃から以下のような論文を発表してきた。

Takagi, Soichiro. 2017. Organizational Impact of Blockchain through Decentralized Autonomous Organizations, The International Journal of Economic Policy Studies Vol.12, Article 2, pp.22-41. 

筆者は、Web3の技術を大変「面白い」と感じているが、Web2を完全に置き換える者ではないと考えている。前回その理由を執筆したが、簡単に言えばイノベーションと意思決定のスピードや効率性については、中央集権型組織の方にメリットがあるからである。

意思決定の効率性だけであれば、サービスを始める人の選択の問題だけであるので好きにすればよい。しかし、社会的にWeb3を強く推進するとなれば、それ以外にも考えておくべき課題がありそうである。今回はそうした課題についても考えてみたい。

Web3に内在する課題


1.誰もがプラットフォームの運営に参加したいわけではない

ユーザー視点で言えば、Web3が普及したら自分たちの生活がどう変わるのか?という疑問があるだろう。Web3が訴求するのは分散型(decentralized)の世界であるが、それはどんなサービスを(What)提供するかではなく、どのように(How)実現するかという違いであるため、なかなか一般の消費者には分かりにくい面がある。

Web3が訴えているのは、GAFAに代表されるプラットフォーマーに管理され、富が独占されるWeb2の世界ではなく、サービスが分散的に管理・運営される世界である。「分散的に」というのは、システム構成に関する技術的な側面と、意思決定や富の分配に関する社会的な側面がある。要は、特定の事業者ではなく、一般の人も含めて「みんなで」プラットフォームが運営される世界である。

しかし、プラットフォームの運営に参加したいという人がどれくらい一般消費者の中にいるだろうか。みんな自分の人生に忙しい。便利なものなら使ってみたいが、あえてそこに深く関わろうという人は、元々情報工学や新しい社会像に関心があるユーザーに限られるかもしれない。また、参加したいという人がいたとしても、それはガバナンストークンを保有することで分配金を得たい、という経済的な理由かもしれない。

Web3の世界だとしても、結果的に「運営者」と「利用者」という2つの立場に分かれることも考えておく必要がある。

2.分散型なら手数料は安いのか

Web3は大手プラットフォーマーの独占に対するアンチテーゼという側面があるため、一般消費者にとって安い手数料で使えるというイメージがあるかもしれない。しかし、現実にはそのようにはなっていない。

例えば、DeFi(分散型金融)を使うための手数料は驚くほど高い。1万円の資金を運用するために1万円の手数料がかかるようなイメージである(現在はETHの価格が下落しているのでそれほどではないかもしれない)。基盤となっているイーサリアムのガス代が高いうえに、高度なスマートコントラクトを動かす必要があるDeFiのアプリケーションは、利用のための手数料も高額になる傾向にある。

NFTにおいても、代表的なブロックチェーンであるイーサリアムに直接登録できるのは、よほどの高級なコンテンツである。試しに買ってみる程度の安価なNFTであれば、FLOWやWAXなど、NFT向けに作られた基盤でなければコスト的に難しい。

もちろん、ブロックチェーン基盤間の競争原理は働くため、最終的にコストが安く、信頼性も高い基盤が残っていく可能性はあるが、運営者が企業ではないため、手数料の開示や明確化など、通常の消費者保護のコントロールを利かせにくい点も留意が必要である。

3.インセンティブの矛盾

手数料の問題と関連があるのは、誰がその手数料を受け取るのかということである。一般的に、分散型の技術の場合、その基盤の運営に貢献している人が手数料を受け取る権利がある。ビットコインやイーサリアムの基盤そのものに発生する手数料は、マイナーが受け取る。

同じことは、様々なDAO(自律分散型組織)の運営にガバナンストークンを購入して参加する人々にも当てはまる。経済的インセンティブでガバナンストークンを保有する参加者にとっては、ガバナンストークン保有者に支払われる手数料は高いほど良い(もちろん、あまり高すぎると利用者が居なくなるので、どこかで最適点がある)。

一般利用者にとって手数料は安い方が良いが、運営への参加者は高い方が良い。こうしたインセンティブの矛盾が、「みんな」で運営するWeb3の世界にも存在する。

Web3の評価基準は「面白い」かどうか


Web3を次世代のメインストリームの技術と考えると、いくつかの課題があることが分かる。また、先述の通り、企業を担い手とする中央集権的なサービスには、イノベーションの効率性や消費者保護の観点から多くのメリットがあり、Web3はそのオルタナティブとしての位置づけが適当ではないかと考えている。

しかしそれでもなお、Web3系の技術が面白いのは確かである。DeFiなど、複雑な金融サービスをブロックチェーン上で実装し、特定の運営者がいないにも関わらずプロトコルとして提供される姿は、非常に洗練されている。これを「面白い」と感じる人は少なからずいるだろう。

また、Web3がイノベーションのフロンティアの一つであることは間違いない。また、それに関わる人材の育成や確保は、長期的な視点からも重要である。産業政策の観点から、イノベーターを日本に留めるための税制の改革や、テストベッドの提供、Web3に基づくサービスの実施に関わる規制の明確化なども喫緊の課題である。

しかし、Web3のサービス群は万能ではない。Web3が全面的に「来る」か「来ない」かという議論の前に、それらの仕組みが「面白い」かどうか、今しばらく楽しんで触ってみるのが良いのではないだろうか。



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