世界を変えるために、戦略を知る、選択肢を増やす、そして初心する
年が暮れすぎてやばいですね。
どうもメタバースクリエイターズ若宮です。
今日は「世界の変え方は色々あるよ」ということについて書きます。
高校生のビジネスコンテストでのエピソード
先日、SNSにこんな投稿をしたところ、
20人くらいからコメントが付き、いいね!も250くらいと想像以上のリアクションをいただきました。
みなさんはこのエピソードを読んで、どんな風に感じましたか?
高校生が素敵!審査員は…古い?
このエピソードへのコメントでは、「カッコいい」「素晴らしい」「尊敬しちゃう」など、そのほとんどが高校生を絶賛するものでした。
そう、ほんとに素敵でした…!
なにが素敵ってまず、高校生の時点から世界を変えようと自らアイディアを出し、伝えようと行動していることがそもそもすごい。僕の高校生の頃なんてほんとうにろくでもないことしか考えていなかったので、それだけでもう衝撃なわけですが、そこにさらにこの回答。咄嗟に出た言葉に社会を変えたい想いがにじみ出ています。
一方、そんな高校生の言葉と対比されたのもあり、コメントの中には「審査員が古い」という反応も3分の1くらいありました。
これについては僕の書き方がミスリードだったところもあるので、ちょっと補足させてください。
まず、審査員のこちらのフィードバック
SNSの文字数でかなりはしょった表現になっているので、読む人によってはやや高圧的な言葉に読めてしまったかもしれません。でも実際にはもっと丁寧で上から目線でも圧迫でもなく、フラットな雰囲気でやさしく訊かれていましたし、実際高校生もフィードバックを受けて気づきもあったようで、「そこもうちょっと考えてみます、ありがとうございます」という感じになったんですね。
高校生すごい!おじさんは古い…というのはとてもわかりやすい対比なのでついそうなりがちですが、実際はどちらかがすごいという美談でも二項対立でもないのですよね。
フィードバックはコンテキストが大事
その点も含めてコメントをくださった方も。
審査員のフィードバックの「目線」のこと、そして
この、「コンテキストが大事」というのは、とても重要な指摘です。
僕も時々、ビジネスコンテストの審査員をお引き受けすることがあるのですが、イベント側の問題としてテーマが絞れていないピッチイベントだと、規準があいまいでフィードバックの仕方悩むなーっていうこともあります。
というのも、一言で「ビジネス」といってもそこにはめちゃくちゃ色んなタイプがあるからなんですよね。
いわゆる「スタートアップ」と言われるような、投資家からお金を集めて早く大きく成長することを目指すビジネスの場合、競合優位性やMOAT、参入障壁というのはとても重要です。
そしてVCから投資を受けるのであれば上記の指摘にある通り、「投資家にリターン出してからが全て」です。投資は慈善事業ではないし、投資益のために人からお金を集めて人のお金で事業をする以上、成長してリターンを出せるようフルコミットしないといけません。
その場は必ずしも「スタートアップ的な対投資家ピッチ」というわけではなかったのですが、少なくともビジネスとしては利益を出すことや市場でのプレゼンスは必要であり、競合について考えておくことも重要です。
実際のところ、高校生はその時点では競合戦略を深くまで考えられていず、どちらかというと素朴に「真似されたらだめなの…?」という返答だった感じなので、審査員のフィードバックはちゃんと気づきの機会になったようです。
世界の変え方の色々なオプション
「ビジネス」である以上、事業として利益を出し、続けていける必要がありますが、必ずしもスタートアップ的なやり方とは限りません。
いわゆるスモールビジネス的な事業もありますし、日本の「老舗」などは競合と争わずむしろ市場を専有しすぎないことで、共存共栄的に長く続いてきたところもあります。
その他、NPOなどの非営利型もありますし、もっといえば、ビジネスや事業にせず世界を変えることもできます。ボランティアを集めてコミュニティを運営したり、エヴァンジェリストとして本を出したり、教育機関で未来に向けて人を育てたり、一つのアート作品が世界を変えてしまうこともある。
世界を変える方法は一つではないのです。
たとえば、「オープンソース」は世界を大きく変えました。
オープンソースでは世界中のエンジニアが作ったプログラムを共有し、皆で改善しながら自由に使うことができます。これって高校生の「たくさん真似されたら社会が早く変わるので最高だと思いますが…」とほとんど同じスタンスです。
僕はオードリータンさんをとても尊敬しているのですが、彼女は自分の著作を持たないと決めているそうで、なぜなら「自分自身をオープンソースにしておきたい」からだと言います。あえて「著作権」として権利化をしないことで世界に広がりやすいようにしている。
イーロンマスクも2014年に所有していたEV関連の特許をすべて無償で公開し、オープンソース化しました。技術ベンチャーにとっては特許こそ事業の競争力の源泉なはずですが、EVの発展に貢献しEVの普及スピードを上げるために、自社だけでは足りないと考え、オープン化したといいます。特許は自社を守りますが、産業全体や顧客にとっては足かせになることもあるからです。
とはいえもちろん、オープンソース化をして生活していけない、とか会社が倒産しちゃった、ではいけません。オープン化するにしても最低限お金が回る仕組みやタイミングをよくよく考えることは大事でしょう。
このようにビジネスや世界の変え方には色んなオプションがあるので、審査員をする時は、スタートアップでやろうとするなら競合戦略も大事、でもオープンソースとか他のオプションもあるよ、でもそれはそれで費用をどう吸収して継続するか考えていますか?、みたいに複数のオプションを提示しつつアドバイスできるのが理想かもしれません。
無知と知った上でのオルタナティブはちがう
僕も起業家を目指す方のメンターをすることが多いですが、アドバイスする際には、世界の変え方には色々あることを伝えた上でどう世界を変えたいかを伺い、目的と手法とフィットしているかを意識してアドバイスするようにしています。
自分自身でも、uni'queではスケールより新しいあり方を実験したかったのでエクイティでは資金調達をせずデットと自己資金でやっていますが、一方メタバースクリエイターズではVCから調達もして、いわゆるスタートアップ的なやり方を選んでいます。
あるいはアートについては社会との結び目を増やすために著作を出したりワークショップをしたり、ジェンダーギャップについてはたった一本の記事を書いたことをきっかけに変化を起こせたこともあります。
なので、「様々な世界の変え方のオプション」を知っておくことは大事だと思うのです。
今回のケースの高校生は、そうした色々なオプションへの知識やそのための戦略について思い至っていたわけではなく、少し素朴に「真似されてもいい」と回答した感じでしたが、もしもスタートアップ的なスケーラビリティを目指すなら、競合戦略をしっかり考えるべきでしょう。
少なくとも競合戦略の重要性をわかった上で、それでもオープンソース的にやろうとするのか、知らず考えずに進めるのとはちがいます。
単なる無知と、知った上でオルタナティブな選択をするのとはちがうのです。
芸事の「守・破・離」の話もよくしますが、セオリーもちゃんと押さえた上で、しかしそれに囚われずに新しいあり方や自由にオリジナルなやり方を選ぶ、それが出来たら最高ですよね。
大人の「初心」も大事
一見高校生の美談にみえがちですが、両手を挙げて高校生がいい、というのでもなくコンテキストによってはセオリーも大事です。
そしてそれを踏まえた上でも、高校生の考え方に僕は感銘を受けましたし、投稿に対してたくさんの反応があったことは、高校生の視点に大人が学ぶべきことがあったということでしょう。
また、たしかに競合優位性というのは重要だしセオリーだけれども、資本主義的な占有の弊害に気づき、疑問を感じている人も増えているのだと思います。
COTENさんとかが実験していますが、
スタートアップにおける「投資リターン」自体も(いわゆる経済的リターンだけでないものに)少しずつ変わっていくのではないかなと思っています。
ある時点でのセオリーは必ずしもこれからもそうだとは限りません。
もし、「競合考えた?」という質問を当然の質問としてしてしまったのであれば、そこにも思考停止の罠は潜んでいます。
定石にロックされたり経路依存になることなく、新鮮な目で「そもそも真似されたらだめなんだっけ?」と考えてみる。
世阿弥は「初心」ということを言っていますが、初心忘るべからずには3つあります。
そして能楽師の安田登さんによれば、「初心」とは単に最初の頃の気持ちを思い出そう、ということではありません。「初」とは衣に刀と書きます。それまでに積み重なったものを断ち切って、新しい自分に出会う、それが初心です。
時々の初心、そして老後の初心も忘れずに、世界を変える可能性を増やしていきたいですね。